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アーキテクトルーム

■住まいの話題[758]:住宅の外観について思うこと
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大学を卒業後、設計事務所に6年間務めた後、独立して個人事務所を立ち上げました。設計事務所の所員時代は主に商業施設、住宅にかかわらずインテリアや建物の設計に携わっていましたが、独立の名刺代わりに発表した家具がきっかけで、ありがたいことにプロダクトデザインやディスプレイなどの仕事もさせて頂いています。

住宅は生活の場であり、財産でもあり、道路に面した部分は町並みでもあります。そのため住宅設計においては、生活スタイル、日当たり、プライバシー、素材感、色、間取り、コスト、近隣環境等々、考えることがあまりにも多くあります。プランニングや素材の選定など内部については特に「個の問題」に大きく判断が委ねられるので、判断はケースバイケースですが、外観についてだけは少しだけ「町並み」や「近隣住宅との関係」という個の問題以外の判断材料が出てくることがあります。

そこで以下では、住宅の外観について僕なりに感じた幾つかの点を記してみたいと思います。知らない通りを散歩しながら色々な家を見るのは楽しいものです。少なくとも僕は好きです。
既存の家々は魅力的か
自宅と事務所がある西荻窪は、主に住宅が広がる地域ですが、建物の建てられた時期も様式も一切の統一感がありません。町並みを歩くと、外壁のモルタルが良い味を出している古い家、ハウスメーカーが建てたであろう建売住宅、おしゃれな家、プロヴァンス風の豪邸・・・と様々な家が目に留まります。だから、散歩するのは楽しい。なぜならそれぞれが違うからです。

一方、僕が育ったのは、バブル期に開発された埼玉県熊谷市の建売住宅街でした。同時期に数百件の住宅が作られ、若い夫婦がこぞって購入したため一時的に人口が増加したのですが、いまでは定年間際の人たちばかりが住む、典型的で画一的な住宅街となっています。でも、僕にとっては故郷であり実家がある場所です。イタリアのベネツィアのように、歴史が物語る整った都市だけが素晴らしいわけではなく、もちろん古い町並みは良いに決まっていますが、どんな景色でも時間が経てばノスタルジックになると思うのです。
建てられた時期も規模も様式も様々な建物が並ぶ、西荻窪の町並み。
バナキュラー(風土的・土着的)建築という言葉があります。地域の特性や固有性を重視した建築や建物設計方法のことです。その土地の風土や材料に従って素直に作る。簡単に言えば、その土地の風土を考慮したり、良質な土が取れる地域では土を、木材が豊富であれば木を積極的に使うという、その土地に元々ある建物にとっては当たり前ですが近代化・合理化に対するカウンターの考え方です。でも実は、バナキュラーなものも、近代化による合理化も、どちらもとても魅力的なのです。

住宅設計において、町並みに対するファサードのもつ優先順位は決して高いわけではないと思います。所有者がいる「自分の持ち物」だからです。景観にうるさい地域を除けば法的な制限も少ないし、場合によっては、建築家の設計した建物が景観を壊している事例もないわけではありません。多分、町並みに対しては現状を否定して「こうだ!」という解答はあまり効果的ではないような気がします。集団の問題に対して石を投げ入れるようなものだからです。だから、その全てを否定しない作り方ができれば良いなあ、と思います。
町並みとの関係をいかに捉えるか
画一的な住宅街だって(それがいいか悪いかはこの際不問としますが)、画一的になる「理由」があるはずです。経済性やメンテナンス性、材料の大きさや輸送の問題などが大きな要因だと思います。フェイク(偽物)の素材よりは本物の無垢材の質感はもちろんすばらしいし、僕も好きです。けれど、好き嫌いの話ではなく「もうすでにそこにあるもの」を「どう捉えるか」ということにとても興味があります。隣の家はコントロールできませんから。

「ジャズに名曲はなし、名演奏あるのみ」という言葉があります。デザインも同じだと思います。「良い素材」ではなく、「良い使い方」が肝心なのです。東京ではいつの間にか歩きタバコが無くなったように、少しずつみんなの意識を更新させることで、町並みを変えることができるのかも知れません。
住まいの話題[758]執筆者
■元木 大輔(もとぎ だいすけ)/ DAISUKE MOTOGI ARCHITECTURE



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