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アーキテクトルーム

■住まいの話題[759]:建築の届け方
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住宅設備から考える
5年程前、『10+1』(INAX出版)の連載「テクノロジーロマン」(ヨコミゾマコト、山中新太郎らと共著)で、住宅設備(以下、住設)のテクノロジーの進化を観察し、建築家の住設との向き合い方について考察したことがある。いつしか建築家は分厚いカタログから無難なものを選ぶことに職域を留めてしまっているという問題意識は、私自身日頃から感じていたことでもあった。

そんな中、2013年に住設をテーマに取り組んだ「ワンルーム 清川のSOHO」が台東区清川で完成した。元靴工場を賃貸物件にリノベーションするプロジェクトで、台形に区画された約25m2の1室を設計した。25m2の賃貸といえば、浴室やトイレが壁で区切られキッチンが内蔵された1室空間、いわゆるワンルームに相当する。

この「いわゆる型」のワンルームをベーシックな間取りとして検討を始めたが、浴室やトイレ、キッチン、洗濯機置場を取り囲む壁により、失われる空間と間取りの単調さが生まれるとわかった。そのため、キッチンや冷蔵庫、洗濯機、トイレ、バス、電気温水器の住設に追従させた最低限の壁5枚を残したワンルームを提案した。壁には各住設に付随した生活行為を補完する大小様々な形の開口を設け、単なる壁体としてではなく生活を彩るためのツールとしての役割を与えた。
ワンルーム 清川のSOHO:内観 ワンルーム 清川のSOHO:スタディー過程
平均化されたワンルーム
そもそもワンルームという用語は、建築家の間では積極的な表現として使用される場合が多い。広がりが感じられる空間に加え、使い方を固定せず可変性が担保される空間だからである。だが、住まい手にとってそれらを享受できるかは個人差による。この点については専用住宅の場合、建築家と住まい手とが会話を繰り返すことで乗り越えられる。

だが、賃貸住宅の場合はそうはいかない。住まい手は内見というわずかな時間の中で空間を認知し、使えるイメージを持たなければいけないからだ。そのため、「いわゆる型」のワンルームのように、市場のニーズや統計から利用しやすいであろう平均化された賃貸住宅が、大量に生産される結果となった。
個へ届けること
「ワンルーム 清川のSOHO」の場合、どの年齢層を狙っていくか、どのような間取りにするかなど決まっていたわけでもなければ、賃貸住宅の肝である設備の仕様について細かな注文があったわけでもない。1点物のデザインされた部屋ということだけが求められた。

一般に、敷地の状況や家族構成、住まいの要望など、様々な与件という名の暗闇から1点の光を探るような設計を行うが、アウトラインのない設計は我々建築家にとっても経験の少ないことだった。さらに、プロジェクトが始動する前からウェブサイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が活用され、従前の状況から進行する設計の様子や、工事の進捗などプロジェクトの経過が見える情報提供の形をとっていた。1点物の他にはないデザインであるとともに、インターネットによる住まい手個人への情報の届け方によって、リリース当日の内覧会では即日入居者が決定するという、驚きの速さで建築が住まい手に届けられた。

日本でもリノベーションやコンバージョンなど大規模な開発とは異なる小さな単位での開発が増える中、住まい手の要望の多様化は一層加速することになる。だからこそ、いかにして住宅を住まい手に届けるか、その固有の届け方が必要なのである。広く流通させるための建築から個へ届けるための建築へと建築の姿が変わることは、結果として住まい手に合った建築との出会いを提供する。
住まいの話題[759]執筆者
■落合 正行(おちあい まさゆき)/ PEA...



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