窓ガラス選びで大きく変わる 情緒的価値が溢れる 「空間の価値」 とは

はじめに
建築物には窓ガラスがある。。。
私たちユーザーは、窓ガラスを身近な存在・当たり前の存在として認識しています。一方で、その窓ガラスが空間にどのような影響を与えるか、人間の健康や活動にどのように関わっているかまで深く考えることはありません。
昨今では省エネ性や断熱性が注目されるようになった窓ガラス。
実は「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」である窓ガラスは、人間に対する感覚的・心理的・生理的な様々な影響を与えます。
ミライヲテラス編集部では、あまり知られていない窓ガラスの本当の魅力や特性にフォーカスし、空間に与える「情緒的価値」として、ご紹介していきます。
窓ガラスは小さくなっている!?
建築物には、熱的境界になる建物の外周部分の「外皮」があります。外皮には、天井(外気に通じている小屋根との境界や天井裏に断熱材が充填された部位など)、外壁、床(外気に接する床や土間床の外周部など)に加え、窓ガラスなどの開口部が含まれます。
外皮に求められる主な性能は、「断熱性能」と「日射取得の性能」です。断熱性能が高いと外皮から熱が逃げづらくなるため、暖冷房負荷が小さくなることや、室内温度を一定に保ちやすく快適に過ごすことができます。また、日射取得の性能は、夏季の日射により取得する熱量を減らし冷房の負担を小さくすることや、寒冷地などは冬季の日射により取得する熱量を増やし暖房の補助とするなどの効果があります。
ミライヲテラス編集部では、外皮の中でも開口部にあたる窓ガラスは、特殊な位置付けにあると考えています。
それは、「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」であるという点です。一般的には、外皮における開口部は下図のような熱移動の割合が大きい部位として認識されており、断熱性や遮熱性に優れる高断熱・遮熱Low-E複層ガラスが普及しました。


※ミライヲテラス編集部でグラフ化
省エネ地域区分:地域5および地域6、全国平均値を表示
一方、省エネ性だけを追求しようとすると、外皮に占める開口部にあたる窓ガラスの割合を減らし、外壁の割合を増やすことで、容易に省エネ性に関連する数値(外皮平均熱貫流率 UA値や種々の省エネ計算ツールから算出される熱負荷量など)を改善させることができます。住宅用建材使用状況調査(一般社団法人 日本サッシ協会)においては、住宅の断熱性や省エネ要求が高まるに連れて、開口比率が小さくなってきていると示されており、「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」である開口部に当たる窓ガラスの面積は縮小傾向にある実態があります。
では、窓ガラスが小さくなると、空間価値はどう変わってしまうでしょうか?
次に、空間価値に構成される「価値」について考えてみます。
空間価値に構成される価値とは
外皮における開口部の窓ガラスの面積を変化させることは、その内部の空間デザインを大きく変化させることになります。写真は、住宅のリビングに大開口部を設置した空間と、外壁を中心に窓面積を小さくした空間を比較したものになります。大開口部を設置した空間においては、光環境を自然光でつくり、天候や時間によっては人工光で補う設計です。外壁中心の空間は、光環境を人工光中心に設計しています。

部屋が広く感じる…、自然と繋がっているような気持ちよさがある…、など。
この光環境の違いは、見た目の空間の違いだけに反映されるものではなく、人間の生理的な反応や心理的反応に大きな違いを与えることが考えられます。
ミライヲテラスでは、この人間の生理的・心理的な反応を、空間における「情緒的価値」と捉えて、その価値の影響度の定量化や可視化、空間の印象の数値化などの研究に取り組んでいます。
では、空間価値とは、どのような価値で構成されるものか、考えてみます。
人間の購買行動は理性と感情から成ると言われます。ミライヲテラス編集部ではその購買行動の素となる価値を下図のように分解しています。この価値ピラミッドの上にある価値ほど、感情面に強く働く、価値の上位概念と捉えています。

無意識価値は、例えば住宅には窓があることは当たり前のように、それ自体の価値を深く考えない状態を意味します。
「機能的価値」は、製品やサービスに規定される物理的・機能的な効用であり、窓ガラスで例えると断熱性を表す熱貫流率Ug値や遮熱性を表す日射熱取得率ηg値などがそれにあたります。また、一次エネルギー消費量を表すBEIや外皮平均熱貫流率UA値などの建築物の省エネ性や断熱性を示す指標も含まれます。この機能的価値は評価方法や基準が明確です。比較的表現しやすい価値として、メーカーが追求しやすい価値とも言えそうです。
そして、機能的価値の上位価値概念として、顧客が商品やサービスに対して体感できる感覚的・心理的な価値である「情緒的価値」があります。
ミライヲテラス編集部では、情緒的価値を「生理的な反応」と「心理的反応」に分けて、調査していきます。情緒的価値は、人間の幸せの追究とも言えるかもしれません。また、最近よく使われる「ウェルビーイング」な状態と近いものとしても捉えることができるかもしれません。
そして「機能的価値」と「情緒的価値」を追求した製品やサービスまたは企業は、そこから得られる信頼性が理想的なイメージとなり、ブランドロイヤルティが高まる状態になるのかもしれません。
窓ガラスには情緒的価値が満ち溢れている!
外皮の中でも開口部にあたる窓ガラスは特殊な位置付けにあります。
それは「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」であるという点です。
また、その窓ガラスを適切に活用した空間で実現できる「自然光を活用した光環境」は、様々な空間情緒的価値を生み出し、その空間の魅力を高められることが期待されます。
それでは、窓ガラスが持つ「空間情緒的価値」にはどんな特徴があるのでしょうか。

窓ガラスで実現できる情緒的価値は、生理的反応と心理的反応に大別できると考えています。
まず、生理的反応としては、自然光を浴びることによりセロトニンとメラトニンの良好な合成を促すことで、人間に様々な影響を与えることが挙げられます。
覚醒と睡眠を最適化することができ、サーカディアンリズムが調整され、カラダの健康を整えていきます。また、感情処理がポジティブとなり、カラダだけではなく健康なココロを維持する効果が期待できます。
関連記事:HN-001 光環境と幸せホルモン「セロトニン」と眠りのホルモン「メラトニン」

また、適切な光を浴びることにより、セロトニンレベルは短時間で上昇します。この変化は、認知機能や注意力を改善します。そして、人間の日中の活動力を増幅させることが期待できます。
住宅の中にいる時間だけでなく、オフィスで働く時間や学校で学ぶ時間など、空間の自然光による光環境を整えることは非常に重要です。
一方、昨今の異常な気象環境や紫外線によるダメージなどを考えると、屋外で自然光を浴びることは容易ではなくなっているかもしれません。
人間のココロとカラダの健康や、日中の活動パフォーマンスに関連する自然光。室内でスマホを見ている時間が長くなりがちな現代社会では、自然光による空間の光環境を整えることがより求められているのかもしれません。

窓ガラスで実現できる情緒的価値の心理的反応は、自然光で作り出す光環境によって、開放感などの認知空間の心理に影響することが挙げられます。
自然光を用いた空間輝度のグラデーションやコントラスト、視覚情報は、知覚心理学に関わる認知空間の容積や形状に変化をもたらし、人に心地よさを感じさせます。
また、ガラスの質感や色調などは、外皮として建築美に影響を与え、ガラスが作り出す光環境は時間(とき)の流れを感じ、季節の変化を楽しむ空間美を演出します。 さらに、外と内側をつなぐことは、バイオフィリックデザインとなり、人が自然とつながりたい本能的欲求を満たすことができます。

知覚の80-90%は、五感の視覚によって行われます。
窓ガラスに限らずパーテーションなどの内装建材などにガラスを活用することは、空間に透過性を与え、その空間の視覚情報を制御することで人間の行動心理に大きな影響を与えます。
空間にガラスを用いることの情緒的価値は、住空間だけでなく、オフィスや商業施設、娯楽施設など、様々な空間デザインに変化を加え、その空間の価値向上の手助けをしてくれるでしょう。
おわりに
ミライヲテラスでは、ガラスによって変化する光環境や温熱環境、また視覚情報の変化から生み出される空間の「情緒的価値」について、その影響度の定量化や可視化、空間の印象の数値化などの研究に取り組んでいます。
<光とガラス>においては、窓ガラスが断熱性能や遮熱性能などで表される機能的価値だけではない、空間設計に大きく影響を与えるその魅力について、ご紹介していきたいと思います。
そして、少しでも実際の空間設計のお役に立てることができれば幸いです。

著者:ミライヲテラス編集部
AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。