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光とガラス
公開日 2025.12.26

Low-E複層ガラスの品種は何を選べばよい?―Low-E複層ガラスの日射熱取得率による空間快適性の変化(1)―

Low-E複層ガラスの品種は何を選べばよい?―Low-E複層ガラスの日射熱取得率による空間快適性の変化(1)―

はじめに

2050年カーボンニュートラルの実現に向けた国の検討と具体的な取組が進んでいます。
そして、私たちの周りでも本格的な脱炭素社会への移行を感じる場面が多くなっています。

新築住宅においては、すでにZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が普及しており、外皮性能は住宅を建てる際に注目される性能指標の一つになっています。

住宅の外皮に求められる熱的性能とは、「断熱性能」と「日射取得の性能」です。

断熱性能が高いと外皮から熱が逃げづらくなるため、冷暖房の負担が小さくなり、室内の温度を一定に保ちやすく快適に過ごすことができます。また、日射取得の性能は、夏季の日射で取得する熱量を減らし冷房の負担を小さくすることや、寒冷地などは冬季の日射により取得する熱量を増やし暖房の補助とするなどの効果があります。

断熱性能については、断熱等性能等級(断熱等級)に等級5~7が新設され、さらに2027年に見直される「ZEH新基準(GX ZEH)」においては、等級6以上の断熱等級が必須とされています。
2030年には新築住宅の外皮性能はZEH水準の断熱等級5以上の省エネ性能が確保されることを目指すとされています。
こうした住宅の断熱等級の高まりに合わせて、断熱等級5以上の省エネに優れる高断熱住宅の窓に断熱ガス入りLow-E複層ガラスが普及しています。

外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備と太陽光パネルを備えた住宅に住むことは、冷暖房などの年間一次エネルギー消費量を正味ゼロまたはマイナスに抑え、住宅の省エネを実現することで、社会課題の一つである脱炭素に貢献していると言えるかもしれません。

一方で、外皮の高断熱化が進んだことにより、選ぶ窓ガラス(Low-E複層ガラス)の品種によって空間の快適性に大きな違いが出る可能性があります。

ミライヲテラスでは、窓ガラスで実現できる空間の価値向上を考える上で、空間における「機能的価値」と「情緒的価値」の2つの側面から価値を考えています。
断熱性や遮熱性は窓ガラスで実現できる空間の「機能的価値」にあたります。

外皮の中でも開口部にあたる窓ガラスは特殊な位置付けにあり、それは「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」であるという点です。
この特徴は、窓ガラスで実現できる空間の「情緒的価値」として様々な効果を表します。

関連記事:HG-001 窓ガラス選びで大きく変わる 情緒的価値が溢れる 「空間の価値」 とは

この窓ガラスの情緒的価値を得るには、窓辺の「光環境」と「温熱環境」を両立させておくことが必須となります。実は、選定するLow-E複層ガラスの日射熱取得率の違いによって、窓辺の「温熱環境」に大きな変化が生じ、その両立が難しくなる場合があります。

今回は、空間の快適性に大きく関わるLow-E複層ガラスの日射熱取得率について考えてみたいと思います。

窓からの日射の影響によるオーバーヒート

建築空間の温熱環境について調べると、最近よく目にするようになったのが「オーバーヒート」というワードです。​
オーバーヒートは、建物内部に熱が溜まって過剰に温度が上昇する現象を指します。​

​断熱等級5以上の省エネに優れる高断熱住宅は、外皮の断熱性や気密性に優れるため、冬季の暖房効率を優先するあまり、過度に窓から日射を取り入れると室温が上昇してしまい、その熱が高断熱な外皮によって空間に蓄積され、快適温度を超える頻度が高まってしまいます。​
また、夏季においては、窓から日射による熱量で冷房負荷が増えてしまうことも知られています。​

​​環境共生まちづくり協会発行(国交省の編集協力)のガイドブック※にもオーバーヒートに注意することが言及されています。​

※参照)省エネ性能の優れた断熱性の高い住宅の設計ガイド(令和7年3月)/一般財団法人 環境共生まちづくり協会/編集協力 国土交通省住宅局

オーバーヒートというワードを目にするようになったのは、居住空間の省エネ性や温熱的快適性を研究している過程で、オーバーヒートという現象が起きていることが懸念されるようになったからと思います。​
ミライヲテラスでは、オーバーヒートに強く関連する窓ガラスについて、日射を適切にコントロールし空間の快適性を追求するにはどのようなガラスが良いかを考察していきます。

これからの住宅の窓辺に求められる快適性とは

断熱等級5以上の高断熱な住宅が普及し、住宅に求められていた省エネが実現し始めています。
そして、2027年に見直されるZEH新基準(GX ZEH)においては蓄電池が必須要件となり、住宅がエネルギーを消費するだけの存在から、自らエネルギーを創り出し、蓄え、賢く使う「エネルギー自立型」の社会インフラへと進化していくと言われています。

最近の住宅においては、省エネが実現できる高断熱住宅の中で創り出したエネルギーを賢く使い、空間の快適性をどうつくっていくかが考えられ始めているのです。

空間の快適性には、室内の温度変動を極力抑えた居心地の良い温熱環境をつくることだったり、窓から柔らかな自然光を取り込み気持ちのよい光環境をつくることなどが考えられます。

窓ガラスは、この居心地の良い温熱環境と気持ちの良い光環境の両方に大きく関係します。

空間に窓ガラスを設けることで、その空間の光環境は「自然光による天然サプリゾーン」となり、効率的にセロトニンチャージができるウェルビーイングな環境を創り出します。窓ガラスから取り込む自然光は、人間にとってポジティブな生理反応を起こします。

関連記事:HN-001 光環境と幸せホルモン「セロトニン」と眠りのホルモン「メラトニン」
関連記事:HG-003 窓ガラスからの自然光で効率よくセロトニンチャージ(住宅編:春・夏)

そして窓からの眺望性は心をリラックスさせ、外と内をつなぐことにより人間が本能的に自然とつながりたい欲求を満たすバイオフィリア効果も期待できます。窓ガラスは空間にいる人間にポジティブな心理的反応を与えます。

関連記事:HN-007 大きな窓で自然を感じる暮らし バイオフィリア効果で健康と生産性アップ

このような窓ガラスによる光の効果は、空間の情緒的価値を高めるものにつながると考えられます。
一方で、光を取り込むことにより空間の温熱環境を乱してしまうことも考えられます。温度環境が快適温度の範囲から大きく外れるようになると、窓辺の天然のサプリゾーンには居られなくなり、居心地の悪い場所にもなってしまいます。

これからの住宅の窓辺に求められる快適性とは、空間に自然光を取り込みながらも温熱環境が快適な温度に維持できる、つまり「光環境」と「温熱環境」が両立できることと考えます。
この両立を考える上で、使用するガラスの日射熱取得率の空間温熱環境の影響を考えることはとても重要になります。

Low-E複層ガラスの日射熱取得率の影響を評価

窓の性能に加えて、アウターシェードや外部ブラインドなどの窓まわり商品で日射をコントロールすることは有効であると考えます。​

​一方で、窓の役割である情緒的価値(光による生理的な作用、眺望などの心理的な作用)を前提に考えると、窓まわり商品で日射を遮蔽したり透過させたりするにはそれを制御することが必要となるため、ここでは窓ガラスの日射熱取得率の違いのみにフォーカスし、その影響を考察することとしました。

今回は、地域は東京の住宅(断熱等級6)を想定しています。​
HG-003 の光環境解析で用いた住宅モデルと同じものを使用しています。​

窓ガラスの熱特性および日射による影響評価にフォーカスするため、基準モデル(隣棟無し)の住宅を条件としました(実際にはHG-003光環境解析で示したように、密集地モデルなどの条件があります)。​
温熱環境の影響は、南面と東面に窓がある1階のリビング内部について評価します。​
なお、リビングの南面には夏場の遮熱対策として1.5mの庇を取り付けています。

温熱的快適性を評価する指標の一つに作用温度OT(Operative Temperature)があります。
作用温度OTは、気温に熱放射の影響を加味した仮想の気温です*1
熱放射の影響は、一般的に放射温度(MRT)として表現され、壁・床・天井・窓ガラス等からの熱放射の合計として示します。最近では、窓ガラスから入る日射の影響も考慮した温熱感指標も考案されており、米国暖房冷房空調学会(ASHRAE)の標準書:ASHRAE Standard-55-2023*2に、その計算方法が記載されています。また、参考文献*3では増分放射温度(ΔMRT)として室内の温熱環境をシミュレーションして解析した結果が示されています。

今回は、ASHRAE Standard 55で規定されている方法を用いて窓周辺の増分放射温度ΔMRTを考慮し、日射の影響を含めた作用温度OTを算出し、それをOTsolarと表記して評価しています。

このΔMRTを考慮した作用温度OTsolarを窓辺の温熱快適性の指標として、窓ガラスの熱特性の違いによる影響を評価してみました。計算条件は以下に示す通りです。

参考文献:
*1  快適な温熱環境のしくみと実践,  空気調和・衛生工学会 平成31年
*2 ANSI/ASHRAE Standard 55-2023 Thermal Environmental Conditions for Human Occupancy
*3 A NEW MODELING APPROACH FOR THE ASSESSMENT OF THE EFFECT OF SOLAR RADIATION ON INDOOR THERMAL COMFORT, Andrea Zani, 2018 Building Performance Analysis Conference and SimBuild co-organized by ASHRAE and IBPSA-USA, 2018.9
*4  数値 計算 に よる 矩 形面 と全 身 と の 形 態係 数 の 評価, 尾関ら,日本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集 第 522号 ,15 −22,1999年 8 月

Low-E複層ガラス日射熱取得率の違いによる年間の日中作用温度変動

熱的性能の異なる以下の4種類のガラスの仕様について、ΔMRTを考慮した作用温度OTsolarの年間変動を求め、温熱快適性の違いについて評価しました。​

​ガラス単体の日射熱取得率は、仕様➀0.80、仕様➁0.66、仕様➂0.54、仕様➃0.38とし、仕様➁~➃はLow-E複層ガラスで仕様➁と➂が日射取得型、仕様➃が日射遮蔽型になります。​
レースカーテンは日射透過率55%とし、レースカーテンが閉まっている状態としています。​
なお、仕様➂はAGCのサンバランス ピュアクリア(日射取得型)、仕様➃はサンバランス アクアグリーン(日射遮蔽型)を想定したガラス品種になります。​

ガラス仕様別に、日中(6時~18時)の1時間ごとのΔMRTを考慮した作用温度OTsolarの変動をプロットすると以下のようになります。​

比較しやすいように、GIF動画で確認してみましょう。
仕様➀⇒➁⇒➂⇒➃⇒➂⇒➁⇒ の順に変化させ、繰り返しで表示しています。

【わかったこと】

  • 全般の傾向として、冬季(暖房期間)は太陽高度が低く窓から入る日射も多くなるため、作用温度(OTsolar)は空調設定温度(22℃)よりも高くなることが多く、日中の変動が大きくなっています。オーバーヒートの影響は、空調を前提にした場合は、冬季(暖房期間)で発生することが分かります。​
  • 今回の検討条件においては、仕様④のLow-E複層ガラス/日射遮蔽型(ηg=0.38)の冬季(暖房期間)の作用温度(OTsolar)の日間変動が最も小さく、オーバーヒートが抑制されていると考えられます。これに対し、窓ガラスの日射熱取得率が高いほど、日間の変動が大きくなる傾向にあります。オーバーヒートは窓ガラスの日射熱取得率に深く関係していることが分かります。​
  • 窓に近くなるほど日射の影響を受けやすく、作用温度(OTsolar)は高くなる傾向にあります。冬季(暖房期間)において、仕様④のLow-E複層ガラス/日射遮蔽型(ηg=0.38)では30℃になる場合があり、 仕様➂のLow-E複層ガラス/日射取得型(ηg=0.54)では30℃を超える頻度が高まり、 仕様➁のLow-E複層ガラス/日射取得型(ηg=0.66)では35℃を超える日も多く確認されます。​
  • 窓ガラスの日射熱取得率が高いと、窓から少し離れた2m、3mの位置においても冬季(暖房期間)の作用温度(OTsolar)は高くなる傾向にあり、30℃を超える時間が増えることが分かります。仕様④のLow-E複層ガラス/日射遮蔽型(ηg=0.38)では、温度変動を小さく抑える傾向にあります。

温熱快適性の優れる空間を目指すには、作用温度の変動が極力小さい環境を追求したくなります。​

​今回の結果で分かるように、作用温度の変動に窓ガラスの日射熱取得率が大きく関わっていることが分かりました。総じて、Low-E複層ガラス/日射遮蔽型は、この変動を小さく抑えることができる傾向にありました。​
今回の評価は断熱等級6の高断熱住宅での結果ですが、より外皮の断熱性が高い断熱等級7ではさらに窓ガラスの日射熱取得率による差が顕著になることが考えられます。​

​今後、条件を広げてLow-E複層ガラスの日射熱取得率による空間快適性の変化について考察していきます。​

まとめ

ZEH住宅の普及や、より高い断熱等級が新設されたことにより、住宅の外皮断熱性能が向上し、住宅の省エネの実現が可能になってきています。​
そして、2027年に見直されるZEH新基準(GX ZEH)においては蓄電池が必須要件となり、住宅がエネルギーを消費するだけの存在から、自らエネルギーを創り出し、蓄え、賢く使う「エネルギー自立型」の社会インフラへと進化していくと言われています。​
省エネが実現できる高断熱住宅の中で創り出したエネルギーを賢く使い、空間の快適性(居心地の良い温熱環境と気持ちの良い光環境の両立)が追求され始めています。​

​この空間の快適性を考える上で、窓ガラスは居心地の良い温熱環境と気持ちの良い光環境の両方に大きく関係します。​
空間に窓ガラスを設けることで、その光環境は「自然光による天然サプリゾーン」となり、効率的にセロトニンチャージができるウェルビーイングな環境を創り出します。窓ガラスから取り込む自然光は、人間にとってポジティブな生理反応を起こします。​
このような窓ガラスによる光の効果は、空間の情緒的価値を高めるものにつながると考えられます。​
一方で、光を取り込むことにより空間の温熱環境が乱れる場合があります。温度環境が快適温度の範囲から大きく外れるようになると、窓辺の天然のサプリゾーンには居られなくなり、居心地の悪い場所にもなってしまいます。​

​「光環境」と「温熱環境」を両立させるには、窓ガラスの日射熱取得率の空間温熱環境への影響を考えることがとても重要です。​
今回の解析結果で示されたように、光環境を維持しながら温熱環境の乱れの原因となる日射の過剰な取り込みを抑える技術がLow-E複層ガラスにはありそうなことが分かりました。​

​今後、さらにLow-E複層ガラスの空間の快適性への影響について、詳しく考察していきたいと思います。​


著者:ミライヲテラス編集部

AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。

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