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地球とガラス
公開日 2026.02.25

ガラスの脱炭素への進化の道

ガラスの脱炭素への進化の道

ガラスは高温で砂を溶かして作られる

日々の暮らしの中で、雨風をしのぎ、太陽の恵みである光を透過するガラス。叩いても簡単には割れない強さがあるのに、透明であたかも存在しないようなこの不思議な物体はどのように作られるのでしょうか。

ガラスは主成分となるシリカを多く含む珪砂という石英質の砂を高温で溶かして作られます。最近はマインクラフトといったゲームを通して子供たちにも砂が原料であることが知られているみたいですね。普段私たちが知っている高い温度はコロッケや天ぷらを揚げるときの180℃、せいぜいオーブンでグラタンを焼く250℃というところでしょうか。砂はこのレベルの温度ではびくともせず、約1600℃の高温の窯で溶かされます。これでも建築用や自動車用で使われる板ガラスは、テレビなどで使われるディスプレイのガラスよりは溶けやすいようにソーダ灰を混ぜて融点を下げています。

実際にガラスを溶かすデモンストレーションの様子

建築や自動車用のガラスは、一日に500トンとか700トンというオーダーで作られています。物流で活躍するタイヤが10本もあるような大きな10t大型トラックが20分から30分に1台荷台を満載する重量のガラスが生産されます。1600℃という高温でガラスを溶かすこの巨大な窯は、ガラスを作るたびに温度を上げ下げすると膨大なエネルギーの無駄になるので、ひとたびガラスを溶かし始めたら、24時間、365日、十数年も連続運転をする大量生産となります。

原料を溶かすためには、エネルギーが必要で、通常、重油や天然ガスが使われます。ガラスの生産にはこれら化石燃料を燃やし続けるので、二酸化炭素(CO2)が排出され続けます。これが燃焼による温室効果ガス(GHG)の直接排出と呼ばれ、3つのタイプがあるGHG排出のうち、スコープ1と分類されます。ガラス製造では最大の排出が燃焼由来のものになります。

溶かすための燃焼からだけでなく、原料そのものからもCO2は排出される

先ほどガラスを溶けやすくするために、ソーダ灰を混ぜると言いましたが、このソーダ灰は炭酸塩原料とも呼ばれ、食品添加や洗剤などその用途は広いのですが、化学式で表現するとNa2CO3になります。

このナトリウム成分(Na)が砂のケイ素成分(SiO2)を溶かしやすくする性質を利用して、溶融温度を下げています。それでも1600℃という想像を絶する高温です。

真白なる珪砂の山(提供:AGCミネラル株式会社)

もうお判りでしょうか。こうやって炭酸塩原料のナトリウム成分と珪砂のシリカ成分が結合した結果、余った成分がCO2として出てきます。CO2は気体ですから、ガラスの中にとどまらず、大気中に放出されます。こうして排出されたCO2も生産プロセスの中で原料から直接排出されるものですので、燃焼由来のGHG排出と同じように原料由来の排出としてスコープ1と分類されます。

Na2CO3+SiO2→Na2O・SiO2+CO2

これらスコープ1排出が、ガラスを作るときに排出されるGHGの過半を占め、その約75%が燃料由来の排出、残りが原料由来の排出となっています。

ガラスにとっての脱炭素化とは化石燃料の使用を減らすこと

AGCは、この課題に対して様々な取り組みをしています。

燃料由来のGHG排出を減らすには、ガラスを溶かすときに使う化石燃料を燃やして得るエネルギーの使用量を減らす道筋、そのエネルギー源をよりクリーンにする道筋とがあります。

エネルギーの使用量を減らすことは、いわゆる省エネ、つまり溶かすガラスの量当たりのエネルギー効率を上げることです。ガラスを溶かすためにエネルギーを最大限活用する方法や、ガラスを溶かす窯においてのエネルギーを無駄にしない構造などに長年工夫が凝らされてきました。また、言うまでもなく溶かされたガラスを無駄なく製品にするという生産効率も、使うエネルギーを減らすことに貢献します。これらは、GHG排出が問題とされる前から伝統的なコストを下げる目的のもと努力されてきました。

それでは、エネルギー源をよりクリーンにするということはどういうことでしょうか。同じエネルギーを得ることに対して、使用する燃料によって排出するGHGの程度は変わります。石炭よりも重油、重油よりも天然ガス、天然ガスよりも水素やアンモニアの方がGHG排出量が少なくなります。もちろん、物事は単純でなく、価格と入手の容易さ、利用する技術的なハードルという要素が、GHG排出量の少なさと反比例の関係になってしまうのです。AGCはこれらの絡みあう要素を解きほどく努力を続けています。

また、水素やアンモニアのように従来の燃料を代替する全くCO2を排出しない燃料も、これらを作る過程でCO2を排出していたら意味がありません。このため、代替燃料がどのように生産されたかを知ることも重要です。

グリーン水素再生可能エネルギーにより生成され、GHG排出ゼロ
ブルー水素化石燃料により生成され、CO2を回収・貯蔵することでGHG排出を削減
グレー水素化石燃料により生成され、GHGを排出

電気でもガラスを溶かすことができる

溶解炉の中の炎の様子

ここまでは、ガラスの原料を溶かすために、燃料を燃やしてできた炎によってエネルギーを伝達する溶解方法のお話をしました。これに対して、エネルギーを直接ガラスに伝達する方法もあります。電力の利用です。電気が流れる電極をガラスの原料に直接挿入し、電極間をガラスの原料を通して電気が流れるときの抵抗熱で溶かすというやり方です。ガラスの原料が電気ストーブの電線部分の役割を果たすと言えばよいでしょうか。化石燃料を燃やすことはないので直接発生するCO2はゼロです。

大きな炎で大きな原料の表面積を溶かす従来の方法は、例えて言えば、プールくらいの大きさのお鍋に原料を入れ、この上から10数本の巨大なトーチバーナーで炙るといったダイナミックな製造方法です。電気で溶かす場合は、電極からエネルギーが伝わる範囲がとても狭いので、溶かすという効率は良くありません。アツアツの剣山をたくさん並べるとイメージしてもらうと良いかもしれません。ただ、バーナーによる炎は原料の上表面からしか熱することができないのに対し、電極は上から下から横からでも原料に差し込むことができる違いがあります。

先に500トンとか700トンという一日の生産量のお話をしましたが、電力によってガラスを溶かす方法は今までその効率の悪さから補助的にしか使われてきませんでした。AGCはこれを主なエネルギー源にできないかという壮大な実験をチェコで、AGCと同じ世界屈指のガラスメーカーであるサンゴバン社と一緒に行っています。最初は車と同じで、燃料の燃焼と電気による溶融とのハイブリッドです。

新型板ガラスパイロットライン稼働式典の様子

この電力を得るために排出しているCO2は、電力会社の発電所で発生しており、AGCからみると間接的に排出していることになります。これは3つのタイプがあるGHG排出のうち、スコープ2と分類され、電力の使用者(即ちAGC)の排出責任になります。

私たち自身では電力を作る方法を直接コントロールできませんが、どのような方法で発電されたかを知ることが大事です。日本では、再生可能エネルギーは増えているとはいっても割合はまだ小さいです。電力も再エネやグリーンな代替燃料にシフトしていくことで脱炭素していく、そういう社会全体での発電システムの転換が待たれます。

バージン原料に含まれるCO2はなくすことができない

原料由来の排出に対しての解決策は、現在のところ明確な方向性が得られていません。
ただ、だからと言って何もしないわけではなく、利用可能な最善の選択肢として、例えば、ソーダ灰の使用は、より排出の少ない天然灰の利用を優先しています。ソーダ灰の生産には人工的に合成する方法と、天然のトロナ鉱物を焼成・生成する方法とがあります。天然灰も焼成する工程があるのでCO2を排出しますが、工業灰よりは排出が少ないのでこちらを使用します。

(イメージ図)

原料が採掘・加工されたオリジナルの状態のことをバージン原料と呼びます。これに対し、いちど原料が溶かされた後の廃ガラス ーこれをカレットと呼びますー も原料として使われます。
カレットには、窓ガラスのように消費者に使って頂いた後で解体される時に廃棄される廃ガラス、窓ガラスに加工するときに発生する端材、そもそもガラス工場で製品にならずにもう一回使いまわされるものがありますが、いずれもその使用の際に原料由来の排出が起きないため、優先的に使用します。でも、今は、建築物や自動車が解体する時に出る廃ガラスはほとんど捨てられています。カレットには、可能性がある一方、課題も多く、また別の機会にお話ししましょう。

ハイブリッドから電化へとガラスの脱炭素への進化の道

自動車が内燃機関の燃費向上からハイブリッド車へ、そして最終的にEVに転換していくのは、そのような自動車を作る製造コストとGHG排出量、利用者が運転し最後に廃車になる自動車の一生を通じて排出するGHGの関係がどうなるのかが、自動車産業が舵を切っていく重要な要素となります。さらに、利用者にとって、給電ステーションの充実といった社会インフラの整備もEVシフトには必要になります。

ガラスも極めて似た道筋を辿り、同じような要素のバランスを取りながら脱炭素へと進化を遂げていくことでしょう。化石燃料から電気や代替燃料へとエネルギー源を転換していきますが、そのエネルギーが脱炭素されていくこと、さらに製品の運送などインフラも脱炭素していくことなど社会全体が、同じ歩みを続け、経済的価値と社会的価値がバランスされていくことが必要になります。

次は、実際にガラスが使われる建築物と温室効果ガスの関係を見ていきましょう。


著者:ミライヲテラス編集部

AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。

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