自然に溶け込む木造建築、空間を活かす自然光とガラスの役割を考える
はじめに
ミライヲテラスでは、建築空間にガラスがどのように関係し、影響を与えるのかについて、様々な角度で評価を進めています。
その評価は、快適性に関わる空間の温熱環境(断熱性・遮熱性)だけではなく、人間の健康やパフォーマンスにも大きく関連する光環境、景色を眺めたり、差し込む光の陰影が生み出す空間変化による心理的効果など、空間の感性的な価値(情緒的価値)についてフォーカスしていきます。
今回はミライヲテラスに、木造建築家のオークヴィレッジ株式会社:代表取締役社長 上野英二さんをお招きしました。
上野さんは、「自然との共生」を活動理念に掲げ、豊かな森づくりと木の持つ魅力や可能性を引き出すモノ造りに取り組まれています。木のポテンシャルを可能な限り引き出した造形美を追求し、長く愛されるその作品には匠の技術が織り込まれています。
自然素材の力強さを活かし、人を包み込む優しさを持つ優美な木造建築の空間設計に、窓ガラスから取り込まれる光はどのように活用されているのでしょうか。
オークヴィレッジ高山ショールームにて、「木造建築とバイオフィリア」、そして「木造空間を活かす自然光とガラス」について上野さんにお話をお伺いしましたのでご紹介します。
庭屋一如、自然とのつながり

ミライヲテラス編集部/
上野さんの建築作品の写真を拝見させていただきましたが、木造建築という空間に優しさを感じることができる一方で、ダイナミックな構造美や大胆な空間構成が印象的に感じます。
木造建築において大切にされていることは何でしょうか?
上野氏/
日本の気候風土に根ざした木造建築は、世界に誇る貴重な文化であると考えています。
その文化の継承とともに、未来につながる「魅力ある木の空間」を目指すには、【素材】自然素材の力を活かすこと、【設計】自然を取り込む知恵を活かし、お客様と私たちの想いを建築や空間という形にすること、【技術】木の特性を活かした匠の木組みの技術で永く使い継がれる建物をつくることが大切と考えています。
ミライヲテラス編集部/
ミライヲテラスでは、窓ガラスの大切な役割として、「眺望性」や人間が本能的に自然とつながることを欲求する「バイオフィリア」について考えることがあります。
木造建築において、「眺望性」や「バイオフィリア」はどのように捉えていますか?
上野氏/
私たちは木組みの工法を用いた建物を造っています。「木」という自然素材の力を柱や梁として、どう綺麗に組んでいくか、そしてその構造をどのように魅せて活かして空間をつくっていくかを考えています。
そして、壁や天井や床の存在をその空間づくりにどう活用するかを考えますが、特に壁に関しては「豊かな自然と一体になれる」ことを意識します。
その壁には、外の景色が見え、季節を感じることができる窓ガラスの存在が大切になってきます。
日本の伝統的な住まいには「庭屋一如(ていおくいちにょ)」という思想があります。
日本建築では家の内部と庭が一体となるように、自然との調和や、建物と外部空間を一体化させることを目指してきました。長い歴史の中で、壁という存在をできるだけ感じないようにして外と建築空間を一体化させていく中で、「ガラス」という素材が出てきて、クリアな眺望性が「庭屋一如」として実現し、木造建築にさらなる美しさを与えられるようになってきました。
外と建築空間を一体化させることは、つまり自然と人間をつなぐこと。
窓ガラスによって実現する「眺望性」や「光の感じ方」を設計時に強く意識します。

ミライヲテラス編集部/
最近の窓ガラスは断熱性や遮熱性に優れ、眺望性だけでなく、建築空間の快適性を確保しやすい素材にも変わってきていますね。
上野氏/
私たちはその窓ガラスを使っていくのだけど、やっぱりガラスが入ると入らないのとでは木という素材が優しく見えるか見えないかにすごく違いが出てしまう。
目に見える光の陰影を使って木という素材の優しさを表現していくが、目に見えない紫外線、特により短い波長の光は人間にとってもよくない強い光です。ガラスを透過する光はそれを柔らかくしてくれて、空間の木がその光を浴びる。木自体も表面に微細な孔がたくさん開いていて、紫外線を吸収できるようになっています。
目に見える光でなんとなく優しいねと感じていた光が、目に見えない光も窓ガラスが優しい光に変えてくれるということが分かってきて、空間への光の活用方法が広がったと感じます。
ミライヲテラス編集部/
窓ガラスが自然光を優しい光に変えてくれることによって、クリアな眺望性が確保しやすくなり、「庭屋一如」として木造建築にさらなる美しさを与えられるようになったと言うことですね。
自然光で空間の時(とき)を感じる

ミライヲテラス編集部/
次に木造建築を美しく、そしてダイナミックに魅せることについてお伺いします。
上野氏/
室内に光をどう入れるか、窓をどう活かすかということになります。
美しく魅せる空間の陰影を作ろうと思うと、その光は南でも北でもいいのだけれども、できるなら一定の方向に近い形で取り込みたい。自然との一体感や開放的な空間を設計する場合は、多方向に窓ガラスを設けることを考えるが、木造の美しさを立体的に表現したいとなると全方向から光が入ってくると結局影がなくなっていくことになるので、できるならば一定方向で光を入れ陰影をつけたい。
強い光、弱い光、晴れた日、曇った日、それによって毎日違う空間が演出できる。それから一日の中でも太陽光は自然と動きますよね。光はずっと動いているので、その光の優しさや浮かぶ影の表情も刻一刻と変化し、同じ部屋でも光の入り方によって様々な表情を見せます。
ミライヲテラス編集部/
自然光の変化で空間の表情が変わることが、「時(とき)を感じる」という情緒を生むことにもなる。
上野氏/
そうですね。ちゃんと空間に時間を表現することと思いますね。
窓ガラスからの眺望性で季節の変化を目で楽しみ、光の陰影の変化を使いながら空間の表情で時間を感じるようにする。
明治神宮の杜のテラスは、全方位に窓ガラスを設けました。あれは森の中にいる、自然と一体になることを表現したかったので、本当はガラスがない四阿(東屋)的な造りでガラスの存在を消したかったことから低反射ガラスを使い、空間への光の陰影はあまり考えなかったんですけど、居住目的の家の場合は空間の中の光の演出を意識します。光を一定の方向からどう入れるかを意識しています。

ミライヲテラス編集部/
自然光の変化で空間の表情を変えるという点に興味が沸きますね。
上野氏/
例えば、この高山ショールームの場合、北の斜面に向いています。北からの光だと常に安定しているんですね。
南に開口があるとお客さんが眩しさを感じ、光が入ってくるとカーテンなどで遮らなければいけない。そうすると素晴らしい景色が見えなくなる。自然との一体感も得られなくなる。
北面の大開口は、安定した光で外の景色を楽しむことができるし、常に優しい光が空間を回っているという演出ができる。
北面大開口の自然光による空間の演出
ミライヲテラス編集部/
北面の大開口は安定した光で景色を楽しむことができる。
上野氏/
北面の大開口だと空間に安定した光を均等に受けることになる。
優しい光、そして光の向こうには、南側からの光を受けた庭や自然があり、その風景が光によって変化するわけですから、すごく綺麗な景色で陰影によって変化も生じる。
北面の窓の役割はとても大事だと思っています。
ミライヲテラス編集部/
何となく北面って暗いイメージがあって、窓が小さくてもいいかなとか窓が無くてもいいかなと思っていました。南面さえ大きな開口があればよいと考えていましたが、実は北面も大開口に適している場合があるのですね。
上野氏/
住宅の基本的なつくり方は、南重視で北とか西とかはそれを塞いでいくやり方だと思います。西日は光が強すぎて良くないとは思いますが、東や北は実は良い光が入って来ると強く感じています。
人間はやっぱり光によって導かれるというか、光のある方向に向かって視線を動かし、光の反射で空間の構造や家具などの物体を視認するわけですから。
その光が優しくて柔らかいか、強すぎないかということを意識します。
木組みを綺麗に魅せたい時、強い光というよりは柔らかい光が必要で、その光を一定の方向から入れてあげることで、木組みの美しさを優しい光の空間として表現することができます。光が強い南面や西面だと、木組みを美しく魅せる優しい光の演出が難しくなる場合があります。木造の空間ってやっぱりいいね、と感じてもらうためにも上手に光を演出してあげることはとても大事だと思います。
小さな窓じゃダメなんですよ。北だと大開口。
昔はシングルガラスだったけれど、今はペアガラスやトリプルガラスが出てきて、断熱性も確保しやすくなっている。
より良いガラスを大開口に使って、時間の流れを感じる。そして季節も感じ、自然と一体となれる。快適性も確保しながら、自然光による空間演出が可能になってきた。
小さい建物でも、大開口を設けることにより、空間の広さを感じることも可能だと思います。

永く愛される建築こそが脱炭素
ミライヲテラス編集部/
自然とつながるという点は、窓ガラスによる眺望性や光による季節や時間の感じ方だけではなく、木が美しく年齢を重ねるという点も情緒的な空間をつくるものと感じます。
上野氏/
物には命があると思っていて、造った作品には、それを設計した人、造る人、その素材を持ってきてくれた人などいろんな人が関わって、いろんな想いがあって、そういう中で命が生まれると思うんですよ。
生まれたものを大切に使わせてもらうことを思うと、それに対しての敬意を払うべきだと思っていて、特に木という天然の素材には特別なものを感じる。天然の木の命を一旦は奪う形になっても、建築として新たな命を吹き込むことになる。
建築に使うガラスにしても、いろんな材料にしてもたくさんの人が関わってできている訳ですし、そこにも命があるわけであり、新しい建築として如何にその命を輝かせるかが大事という風にも思えるんですよ。
そういう想いを届け、その空間にいる人たちに喜んでいただく、ということがすごく価値があることだと思っています。
私は木が、そしてその木という素材を活かした木造建築が本当に好きなので、誰もがやっぱりいいよねって思えるような空間を、造り方で表現する。それが自分の仕事だと思っていて、匠の木組みの技法を磨きながらその技術を建築として魅せることが大事と考えています。
日本の伝統的な真壁工法は柱や梁の美しさを空間に魅せること。
この素晴らしい天然の素材である木を、そしてそこに必要な匠の木組みの技法を隠してしまっては勿体ない。
今の建築は大壁構造で柱とか梁に鉄骨なのかコンクリートなのか木なのか見た目では分かりませんが、日本の伝統的な木造建築っていうのは、その柱や梁の素材を見せながら、木を見せながら造ってきましたよね。
その間に壁とか障子を入れるとか開口を造っていくという考えで、構造をちゃんと見せるような形で木のポテンシャルを可能な限り引き出した造形美を追求する。それが真壁工法。
木の良さを引き出すことと木組みの造形美を表現することも、それを如何にバランスよく設計者が組み立てていくかが大事。バランスよく表現できれば、使う人、見ている人もすごく心地がよい空間として感じることができる。そういう意識で造ろうと思っています。

ミライヲテラス編集部/
経年劣化という言葉がありますが、真壁工法の柱や梁、また床に使われる木、そして木製家具などは経年でその表情を変えていきますね。
上野氏/
経年劣化は使えなくなる、交換や補修をイメージしますよね。
木という素材は、経年での色味などの風合いが変わり、力強い表情を見せてくれたり柔らかな表情を見せてくれたり、長く素材を楽しむことができます。その素材の表情の変化によって、この空間は和むねとか、落ち着くねとか、空間の変化をもたらす。
人間も年齢を重ねて、その風貌や考え方や感じ方が変わるように、木造建築も年齢を重ねることで変化していく良さがあるのです。
脱炭素でCO2排出量の点から木造建築ってイメージもありますが、本当の脱炭素は長く建築物として使われることの方が大事。
日本の伝統的な木造の歴史的建築物が息長く、現在も多くの人に愛されるように、木造建築は適切にメンテしていれば長く使うことができ、そしてその風合いも変化していくことで飽きずに長く使うことができる。
ミライヲテラス編集部/
脱炭素を実現するのに大切なことは、建築物の魅力を維持し、長く不動産としての価値を保ち、そしてその不動産が次の世代へと継承されていくことかもしれませんね。
上野氏/
今、木造建築が少しずつ見直されて、ある意味ではブームになっていますけど、環境のことだけではなく、木という素材の良さをもっと感じて欲しいですね。
もともと環境に負荷をかけない形でできてきている素材ですが、その素材の持っている本当の魅力は私たちもまだ分かってないのかもしれないけど、ものすごく無限の力を持っている可能性があると思います。
光を空間に運ぶという役割のガラスという素材もそうかもしれないし、壁に使う土だってそうです。
木はものすごい時間かけてできている素材なので、私たちはほんの一瞬しか見ていないですけど、もっともっとちゃんと使い方を考えれば、いろんな可能性があるんじゃないかなと思います。
まだまだ知らないことが多く、毎日発見があって驚かされている。
木という素材は、本当に面白い素材。だから飽きない。

ミライヲテラス編集部/
その木の魅力を陰ながら支えるのが自然光であり、そしてガラスである。
上野氏
そうです。
光が空間にどう射し込むかによって、その素材の魅力を最大限に引き出せるかが変わる。美しかったり、柔らかったり、光が建築空間を演出するんだと思います。
だからガラスも本当に無限の力を持っていて、それをどう使っていけるのかっていうところも、本当に自分としては一つの課題になっています。
ミライヲテラス編集部/
「自然との共生」を活動理念に、木のポテンシャルを可能な限り引き出し、造形美を追求した伝統的な木造建築。その長く愛される木造建築の魅力と、その空間を支えるガラスの役割について大変深いお話をお聞かせいただきました。
上野さんは、木の文化を継承するために、木組み技術者の育成にも尽力されております。
私どももこの魅力のある日本伝統の木造建築が末永く愛される建築として引き継がれていくことを切に願っております。本日はありがとうございました。

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話者:上野 英二 Eiji Ueno (オークヴィレッジ株式会社代表取締役社長)
建築家。日本の気候風土に根ざした木造建築は、世界に誇る貴重な文化であると考え、その文化の継承とともに、未来につながる「魅力ある木の空間」を届ける。 「自然との共生」を活動理念に掲げ、持続可能な循環型社会の構築を目指す。

インタビュアー:ミライヲテラス編集部
AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。