積水ハウスに学ぶ住空間設計|窓からの自然光を活用した情緒的価値で変わる暮らし
はじめに
ミライヲテラスでは、ガラスが深く関係する建築空間への影響力について、さまざまな角度から評価を進めています。
その中でも、断熱性・遮熱性といった温熱環境や、採光・眺望に関わる光環境などの機能的な空間価値に加え、居心地の良さや気持ちがポジティブになるといった感性的な価値(情緒的価値)にもフォーカスしています。
さて今回は、積水ハウス株式会社 R&D本部 𠮷田知未さんを、ミライヲテラスにお招きしました。
積水ハウス様は、「life knit design」という住まいづくりの考え方のもと、「暮らすほどに愛着が深まる家づくり」をコンセプトに掲げ、大開口からの自然光と眺望を活かして人と自然・家族をつなぎ、光環境がもたらす心身の心地よさを、暮らす時間とともに編み重ねていく住まいづくりに取り組まれています。
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人と自然、そして家族をつなぐ心地よい住空間において、大開口から取り込まれる自然光と眺望は、どのように住空間設計に活かされているのでしょうか。
今回は、積水ハウスの住宅展示場にて、「住空間設計における開口部の役割と情緒的価値」について、𠮷田さんにお話を伺いましたのでご紹介します。
住空間における開口部の役割

ミライヲテラス編集部/
積水ハウス様の「life knit design」では、「暮らすほどに愛着が深まる家づくり」をコンセプトに掲げていらっしゃいます。まずは、この「life knit design」という言葉に込められた「想い」についてお伺いしたいと思います。
𠮷田さん/
『life knit design』とは、“時間とともに愛着を編み込む”という意味を込めた言葉です。
これからは長く住める機能性だけでなく、住み続けたくなる住まいを目指していこうという考えから生まれたのが『life knit design』です。
ミライヲテラス編集部/
時間とともに愛着が編み込まれ住み続けたくなる住まい、深い想いが込められているのですね。続けて「life knit design」における住まいづくりの基本的な考え方についてお伺いします。
𠮷田さん/
長く愛着を持っていただくために、流行に左右されることなく、お客様一人ひとりの感性に響く心地よさをもった空間や間取り、インテリアを整えることが大切だと考えています。
外観や庭づくりについては、周囲のまちと美しく調和することを大切にしています。自分の家だけが主張するのではなく、街に馴染み、日本の美しい街並みをつくる。そして、帰ってきたらほっとするような佇まいが理想です。
また、積水ハウスでは“つながり”を大切に設計をしています。これは家族とのつながりや自然とのつながりなどたくさんの意味を持っています。家族の気配を感じ、光や風を感じる豊かな暮らしの提供がlife knit designらしさであり、暮らすほどに愛着が深まる住まいにつながると考えています。

ミライヲテラス編集部/
「感性に響く心地よさ」「まちとの調和」「さまざまなつながり」。
life knit designは、性能や意匠といった単一の要素ではなく、暮らしを取り巻く関係性そのものを丁寧に編み込む考え方であることが伝わってきます。
では、そうした住まいづくりの中で、窓や開口部はどのような役割を担っているのか、積水ハウス様のお考えをお聞きしたいと思います。
𠮷田さん/
住まいにおける開口部は、採光・換気・通風・眺望・断熱・防音・防犯・意匠性など、非常に多くの役割を担っています。これらは、性能として必要な要素であり、暮らしの質をつくる要素と考えています。
どの役割を最も重視するかは、お客様の要望を優先させていただいていますが、ご家族の暮らし方やライフステージ、敷地条件、地域の気候風土によってバランスを取らせて頂いています。そのため積水ハウスでは、一人ひとりの想いや日常の風景に耳を傾けながら、最適な開口部のあり方をご提案しています。
なかでも、家族が多くの時間を過ごすリビングでは、窓が単に「明るい」「大きい」といった尺度だけでなく、どんな景色を切り取り、屋外とどのようにつながるのか、また、その窓辺でどのような時間を積み重ねていくのかを大切に考えています。

ミライヲテラス編集部/
断熱や省エネといった「性能」を満たすだけでは、必ずしも豊かな暮らしにはならない。
𠮷田さんのお話からは、開口部の価値は、「窓の近くで人がどう過ごすか」まで含めて考えるべきという視点が印象的です。実際に、開口部は人の感性や行動にも影響を与えると思いますが、その点についてはどのように捉えていらっしゃいますか。
𠮷田さん/
当社の空間提案は、開口部の技術発展と共に広がってきました。
当社の50周年にあたる2010年には、日本の住まいが本来持っていた心地よさを紐解き、屋外と屋内をつなぐ中間的な空間を提案しました。
特徴としては、レール溝があってガタガタしたサッシ枠にカバーをつけ、段差のない「フルフラットサッシ」にし、内外の境界を目立ちにくくしました。それから、幅4mを超える大開口と深い軒を組み合わせ、室内から軒下へと一体的につながる空間としました。
その結果、開口部が内と外の境界をあいまいにし、暮らしを屋外へと自然に広げていきました。
ミライヲテラス編集部/
内外の境界があいまいになり、暮らしが屋外へと自然に広がっていくと、気持ちも解放されていきそうですね。他にも空間提案に関係する開口部の技術発展はありますか?
𠮷田さん/
2017年に、天井高のサッシによって屋内の天井ラインと軒裏を連続させる「クリアビューデザイン」を開発しました。内外の境界を意識せずにつながりを感じられる空間となりました。
これらの提案に至るまでに、独自の評価分析を行っています。
心地よい場所、心地よい姿勢、緩やかに内外のつながりを感じ、外を感じる度合いなど、様々な側面から空間形状が心理に及ぼす影響を評価・分析しています。その結果、居心地の良さには、屋外との関係性が大きく影響しており、空間の形状によって屋外とのかかわり方が変化する事や、心理状態も変化することがわかっています。
また、このような空間を実現するためには背の高いガラス、大きなガラスを製造・納品頂く必要があり、ガラスの製造ラインを構築いただくなど、ガラスメーカー様にもかなりご協力をいただきました。

光と人とのつながり
ミライヲテラス編集部/
これまでのお話から、life knit designでは「感性に響く心地よさ」をとても大切にされていることが伝わってきました。
その中でも、「自然光」は住まいへの愛着を育むうえで、重要な要素だと感じます。「自然光」と「愛着が深まる家」には、どのような関係があるとお考えでしょうか。また、life knit designにおいて、自然光の取り入れ方で工夫されている点があれば教えてください。
𠮷田さん/
life knit designでは、光の取り入れ方と愛着には深い関係があると考えています。
光は、目に見える明るさだけでなく、時間の流れや季節の移ろい、心の状態にまで影響を与え、日々の暮らしの記憶と深く結びついていくものだからです。
朝、東側から差し込むやわらかな光が一日の始まりを告げる時間。北側から安定して入る光が、空間に落ち着きと集中をもたらすひととき。冬に南側で感じる、陽だまりのぬくもり。そのように、どの季節・どの時間帯に・どの方位から・どのような質の光が入るのかによって、空間の印象は大きく変わり、そこでの過ごし方や気持ちのあり方も自然と変化していきます。そうした日々の積み重ねが、愛着につながっていくのだと考えています。
また、life knit designで提唱している「6つの感性フィールド」では、フィールドそれぞれの空気感や情緒を生み出すために、インテリアの配色や素材だけでなく、窓の大きさや配置、高さ、ウィンドートリートメントによる光のコントロールも考え、設計しています。
例えば、「凛」は、陰影のコントラストが際立つ、緊張感のあるシャープな光が入る空間に。「静」は入ってくる光を分散させ、繭に包まれているかのような、まどろみを感じられる空間に。というように、工夫をしています。
ミライヲテラス編集部/
時間帯や季節、方位によって変化する自然光を読み解き、さらに「感性フィールド」という考え方で、光の質そのものを設計していく。自然光を単に取り入れるのではなく、暮らしのシーンに合わせて”編み込む”という姿勢が印象的ですね。
ウェルビーイングと省エネ性の両立

ミライヲテラス編集部/
次に、こうした光環境を支える上で抑えておきたいウェルビーイングと省エネ性の両立について伺います。
GX-ZEHが進む中で、断熱等級6が求められる時代になっています。
断熱性能を優先するあまり、開口部が小さくなり、住まいの開放感や心地よさが損なわれてしまうケースもあります。ミライヲテラスでは、窓ガラス(開口部)を単なる外皮ではなく、自然光や眺望を通して人の心身を整え、暮らしを豊かにする存在と捉えています。そうした中で、積水ハウス様は「大開口でありながら断熱等級6をクリアする」住まいを実現されています。
戸建て住宅において、省エネとウェルビーイングのバランスをどのようにお考えでしょうか。
𠮷田さん/
おっしゃる通り、GX-ZEHやカーボンニュートラルに向けた国の動きの影響もあり、近年は断熱性能への関心が非常に高まっています。住宅の性能をどう確保するかが設計の条件になりつつあります。
壁と比べると窓の断熱性能は低いため、断熱性能を優先すると窓の面積を極力小さくする設計になりがちです。特に、断熱等級7にしたケースでは、リビングに幅2mの窓が1つだけというような、閉鎖的なプランも見られます。
確かに、高断熱住宅は、省エネ性に優れるだけでなく、冬場の温熱環境の安定によって身体的な健康リスクを軽減するという研究データもあり、非常に重要な価値を持っています。
ただ、人が住まいに求めるものは断熱性能だけでしょうか。大きな窓を通して庭とつながり、空とつながることで視線が外へと抜け、リビングが実寸以上に広がったように感じられる──そうした開放感は、心の状態や日々の満足感に大きく影響しませんか。
積水ハウスでは、この「大開口がもたらすウェルビーイングの価値」を大切にしながら、断熱・省エネ性能との両立を図っています。そのために、窓そのものの性能開発はもちろん、配置計画、庇や外構計画も含めて、トータルで設計を行っています。
また、先にお話ししたように、開口部には採光や通風といった環境性能だけでなく、出入りや開閉といった「使われ方」の側面もあります。例えば、誰でも軽い力で操作できること、レール溝の段差をなくし室内外をスムーズにつなぐことなど、ユニバーサルデザインの考え方も積極的に取り入れています。こうした配慮も、日々のストレスを軽減し、ウェルビーイングを支える大切な要素です。

ミライヲテラス編集部/
断熱性能を高めること自体がゴールではなく、その先にある「心身の状態」や「人との関係性」まで含めて住まいを捉える必要がある、ということですね。
では、積水ハウス様が掲げるウェルビーイングの考え方について、もう少し詳しく教えてください。
𠮷田さん/
私たちが考えるウェルビーイングは、単一の性能で実現できるものではありません。断熱は確かに重要な要素のひとつですが、それだけで本質的なウェルビーイングが達成されるわけではないと考えています。
例えば、年齢や身体能力に関わらず誰もが使いやすいユニバーサルデザイン、清潔で健康的な空気環境、家族が自然と顔を合わせ会話が生まれる間取り、心を落ち着かせる木質感のあるインテリア、光や音に配慮したプラン、日常の中で身体を動かすきっかけ、さらには社会やまちとの良好な関係性──ウェルビーイングを支える要素は非常に多岐にわたります。
積水ハウスでは、『「わが家」を世界一幸せな場所にする』というグローバルビジョンを掲げ、住まい手の「幸せ」を中心に据えた住まいづくりを続けてきました。断熱・省エネ、健康、快適性、家族とのつながり、社会との関係性。これらを個別に切り離すのではなく、バランスよく統合することで、心身ともに健やかな暮らしを支える住まいを目指しています。
性能を高めること自体をゴールにするのではなく、その先にある「どんな毎日を送りたいか」「どんな気持ちで家に帰ってきたいか」という人の想いに応えること。それが、積水ハウスが考えるウェルビーイングであり、住まいづくりの原点です。
ミライヲテラス編集部/
性能を積み上げるのではなく、「幸せ」という軸から逆算して設計を考える。この姿勢は、開口部や光環境の考え方にも一貫してつながっているように感じます。

情緒的価値の設計への反映
ミライヲテラス編集部/
積水ハウス様の住宅は、他社と比べても開口部面積が大きく、外とのつながりを強く感じる設計が多い印象があります。「まちと美しく調和する」「つながりを生む」という観点から、大きな窓はどのような価値を持つとお考えでしょうか。
𠮷田さん/
大きな開口部の前には良い景色や、植栽を配置する、それが良い環境とのつながりを生むと考えています。
その一方で、プライバシー性の配慮に欠けると大きな開口を開けてもずっとカーテンを閉めて過ごすことになります。そのような勿体ない暮らし方にならないよう、積水ハウスでは、深い軒を配置して光をコントロールしたり、コートハウスにしてソトをウチに取り込んだり。敷地を最大限に生かした豊かな空間づくりとあわせて設計をしています。
ミライヲテラス編集部/
なるほど。大きな窓そのものではなく、その先にある景色や植栽、光の入り方まで含めて設計することで、はじめて「情緒的価値」溢れる家づくりが実現するということですね。
敷地と暮らしをつなぐ開口部設計
ミライヲテラス編集部/
最後に、実際のお客様との住まいづくりの中で、開口部の計画にあたって特に大切にされていることは何でしょうか。敷地の条件や景色、光や風といった要素を、どのように読み取り、住空間の設計に落とし込まれているのか、設計者の視点から教えてください。
𠮷田さん/
お客様が選ばれた敷地のもつ魅力を最大限引き出しつつ、お客様の感性に寄り添いながら、住まい全体をデザインすることで、その土地でしかできない豊かな暮らしを提供できると考えています。
そのために設計者は、敷地に立ったとき、どの向きの景色をみたいか、どこからの光・風を取り入れると気持ち良いか、を丁寧に読み解き、プランに落とし込んでいます。

ミライヲテラス編集部/
積水ハウス様のお話からは、住まいとは単なる性能や機能の集合ではなく、光や景色、家族との関係性、そして日々の時間の積み重ねによって育まれていく「暮らしの器」であるということが伝わってきました。
大開口から取り込まれる自然光と眺望は、人と自然、そして家族をやさしくつなぎ、住まいに居心地の良さと前向きな気持ちをもたらします。
そうした光環境を丁寧に設計し、暮らすほどに愛着が深まる住空間を編み上げていく。積水ハウス様の「life knit design」は、これからの住まいに求められる情緒的価値のあり方を示しているように感じました。
ミライヲテラスでは今後も、光とガラスがもたらす空間の可能性に目を向けながら、人の心と暮らしを豊かにする住まいづくりのヒントをお届けしていきます。本日は貴重なお話をありがとうございました。


話者:𠮷田 知未 Tomomi Yoshida(積水ハウス株式会社)
高断熱サッシの開発、フルフラットサッシの開発、各種性能検証など開口部の研究開発に携わってきています。住まいの性能と、住まい手の心地よさの両立を技術面から支えています。

インタビュアー :ミライヲテラス編集部
AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。
積水ハウス株式会社 会社概要
積水ハウスは、お客様がそれぞれに望まれる暮らしを、自由設計と、先進の技術による、快適で安全安心な住まいで実現します。そしてさまざまな研究開発から設計施工・アフターメンテナンス、リフォームまで、一貫して高い品質、サービスを自社グループで行い、お客様をサポートしています。こうして培った技術やノウハウを生かし、賃貸住宅やマンションをはじめ、街づくり、都市開発や国際事業など、よりよい住環境に貢献する事業を行っています。
https://www.sekisuihouse.co.jp/