建築物と温室効果ガス
国・地域によって多様な温室効果ガスの排出構成
私たちの生活は大なり小なり全て温室効果ガス(GHG)の排出に関係していることをお話しました。 一人一人が異なる生活パターンを持っているように、国によってGHG排出の構成は全く異なります。それは、保有する資源、産業構造、インフラ整備の状況などがまちまちだからです。
例えば動力源の比較をすると、日本は火力発電の割合が多くこのため国としてのGHG排出の半分近くが発電セクターから発生していますが、フランスは原子力、イギリスは風力による発電が主なため国のGHG排出構成の中で2割程度です。一方で、日本は鉄道網が発達しているため交通セクターからの排出は2割を切っているのと対照的に、アメリカやフランスは車社会でGHG排出の4割内外と非常に大きいです。

産業構造からみると、日本は先進国の中では製造業が強く、このため、このセクターからのGHG排出量の割合も相対的に大きいです。殆どの国では発電セクターが一番に来るのですが、中では世界7位の排出国ブラジルのように農業セクターがトップに来る国もあります。これは農業セクターの中に畜産業が含まれ、二酸化炭素(CO2)だけでなく、その25倍もの温室効果係数をもつと言われるメタン、つまり牛のゲップのGHG排出量への影響が大きいからでしょう。
建築物に使われるエネルギーは膨大
さて、エネルギー消費という切り口からみてみるとどのような情景が見えてくるでしょうか?

全世界平均で見ると、実は「建築物」がGHG総排出量の4割近くを占め、「その他産業」の3割、「運輸交通」の2割余を抑えてトップの座にいます。これは建築物に使われる建材を作るときに排出されるGHGに加えて、住宅やビルで使われる火力や電力の消費が多いからです。
鉄、セメント、アルミ、ガラスといった建築材料は、いずれもエネルギー多消費の素材です。しかし、それぞれの素材が、どれくらいのエネルギーを消費して作られ、その結果GHG排出がどうだったのか、請求書を見ればわかる冷暖房の電気使用量のようには簡単に分かりません。
原材料を採掘・生産・輸送し、製品を作り、廃棄するまでに排出されるGHGのことをエンボディドカーボンと呼びます。
これを知る手掛かりの一つとして、環境製品宣言(EPD)という環境ラベルの仕組みがあります。製品の生まれてからその役割を終えて廃棄されるまでのライフサイクルを通じて環境に与える影響を定量的に評価・開示するものです。ここで評価されるものはGHGだけでなく、オゾン層破壊、酸性化など様々な環境指標に上ります。先ず、製品カテゴリールールという特定の製品における環境影響を算定するための約束事を第三者機関が認定します。次に、このルールに則って、企業は公開されているデータベースの数値を使い環境影響を計算し、最後に、その定量データが正しく計算されていることを同じ第三者機関が検証します。このようにして、消費者に対して製品の環境への影響が客観性のある情報として提示されるというシステムがEPDです。
(なお、第三者機関は世界各地にあり、それぞれ異なるデータベースを採用しており、製品カテゴリールールも第三者機関それぞれなのでメーカーが異なる同じ製品でもEPD同士を比較することは出来ません。)

この客観性の高いEPDは、例えばガラスのような素材であればデータベースにある基本的なデータを用いて計算でき、様々な分野の製品で徐々にEPDラベル取得製品数が増えています。これは建築物を始めとして、作られてから解体廃棄されるまでにどのくらいのGHG排出があるかということへの世の中の関心の高まりによるものでしょう。AGCでは日本の鹿島工場で作られるフロート板ガラス、アジアではインドネシアとタイで作られるフロート板ガラスやコーティングガラスなどのEPDが公開されています。もちろん、環境先進地域のEUにあるAGCヨーロッパでも各種製品のEPDが開示されています。
EPDは、一方で、部品点数が多くデータベースに情報がない部材によって構成される製品には適用しにくいという難点があります。ガラスであっても、複層ガラスのような部材を組み立てている多品種の製品は、ガラスの構成、スペーサーの種類、封入ガスとで無数の組合せがあり、これを品種ごとに第三者検証を受けるのは時間と検証費用を考えると現実的ではなくなってしまい、難しいところです。
製品のカーボンフットプリント(CFP)という言葉を聞かれた方もいらっしゃると思います。これもEPDと同じ環境ラベルのひとつです。企業が独自に発行したり、第三者機関による検証を得たりする情報開示です。これは、企業が実際のデータを用いて商品の原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるGHGの排出量を CO2(=カーボン) に換算した情報です。エコマークのような認証を得る環境ラベルではありませんが、実データを使うのでより正確な数値となるため、サプライヤーに対してCFPの開示を求める企業も増えています。

イギリス発祥と言われるカーボンフットプリントですが、まだ日本では表示されている商品には滅多にお目にかかれません。例えば、食品であれば原産地だったり、成分、カロリーなどを見て購入しますが、カーボンフットプリントもいずれ購入意思決定の指標の一つになってくることでしょう。
実は大きいオペレーショナルカーボン
建築物に関わるGHG排出量は、建築材料のエンボディドカーボンよりも、実は冷暖房や調理などで使われるビルや住宅の使用時に使われる燃料や電力の消費による排出の方がはるかに大きいのです。この建築物を使用している時のGHG排出のことをオペレーショナルカーボンと称します。

冷暖房のエネルギー負荷は、窓や壁の断熱・遮熱構造、冷暖房機器の効率で大きく変わってきます。エコガラスを使うと一枚ガラスの窓よりもガラスの重量やスペーサーなどの部材が増えるのでエンボディドカーボンは増えます。しかし、その分建築物としてのオペレーショナルカーボンは減ります。AGCはガラスを製造する時に排出するGHGを抑制しつつ、高性能なガラスを消費者に使って頂くことでエネルギー使用を少なくすることへの貢献も大事なことだと考えています。今までは光熱費という経済的価値だけに注意が向いていましたが、GHG排出も減らすという社会的意義にも光が当たってきました。
一般社団法人 板硝子協会では、ガラスを変えることでGHG排出がどのように変化するか知ることができるシミュレーションを公開しています。ぜひ、お試しください。
2050年カーボンニュートラル実現に向けて
日本では、2050年のカーボンニュートラルという大きな目標に対し、ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)基準の省エネ性能が、2030年には新築で達成、2050年でストック平均での確保が謳われています。近年では既築住宅市場も、都市部を中心に取引件数・価格とも増加し、リノベーションなどによる価値再生も、政策の後押しによる窓改修も受け、進んでいます。
今回は、建築物を建てる時の、また使用する時のGHG排出を考えてきました。これに加えて、ビルや住宅を使うことを時間軸をもって考えること、つまり永く使うこともGHG排出を抑制するには効果的です。これは同時に、私たちが資源をどのように使うのかという問いに繋がっていきます。

著者:ミライヲテラス編集部
AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。
