窓ガラスからの自然光で効率よくセロトニンチャージ(住宅編:秋・冬)

はじめに
私たちが目指す姿は、脱炭素とウェルビーイングの両立。
つまり、「地球の幸せ」と「人の幸せ」の両立を追求することと考えています。
ウェルビーイングを考える上で、私たちは窓の役割の一つである「採光」の重要性を理解しておく必要があります。
関連記事:HG-002 脱炭素とウェルビーイングを両立させる窓辺の環境を考える
「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」である窓ガラスは、人の幸せに影響する「自然光を活用した光環境」に大きく関連し、空間に様々な情緒的価値を生み出し、その空間の魅力を高められることが期待されます。
窓ガラスから屋内に射し込む自然光は、幸せホルモンと言われる「セロトニン」の分泌を促し、人間のココロとカラダに様々な良い効果を与えてくれます。
前回の春季・夏季に引き続き、秋季・冬季の幸せホルモン「セロトニン」の分泌に関わる住空間における自然光の光環境についてシミュレーションし考察してみます。
関連記事:HG-003 窓ガラスからの自然光で効率よくセロトニンチャージ(住宅編:春・夏)
窓辺は天然のサプリゾーンでセロトニンチャージ
天然のサプリゾーンを実現するには、青色光を含む2500ルクス以上の照度が確保される光環境が必要となります。
効率よくセロトニンをチャージするには、2500ルクスの光を2時間程度浴びることが効果的です。
今回は、住空間において部屋のどの位置に効率の良いセロトニンチャージができるエリアが存在するか、リビングの光環境をシミュレーションし椅子に座る人体の顔面照度を算出して考察してみます。
関連記事:HN-004 セロトニン合成に必要な光とは? 光の波長と照度について

顔面照度分布を使った窓辺の光環境の評価(算出条件)
HG-003に続き、地域は東京の住宅を想定し、秋季と冬季の光環境をシミュレーションします。季節的には、秋季・冬季は春季・夏季に比べて日照時間が短くなり、太陽高度も低くなってきます。
隣接住戸の影響を受けず日射が確保しやすい「基準モデル」と、隣棟と堀の影響を受ける「密集地モデル」の2パターンを用いて、1階のリビングの自然光による光環境を求めます。



リビングの南面には、掃き出し窓の開口①と②を設け、東面には腰窓の開口③と④を設けています。
「基準モデル」は1階リビングの南側に1.5mの庇を設定し、「密集地モデル」は庇がないモデルとしています。

使用ソフトや条件などは、下記に示す通りです。
顔面照度は、南面に向かって椅子に座る人間を想定し、床面から1.1mに視線に到達する自然光を算定しています。
顔面照度は季節別sDA50%とし、既定の照度に到達する時間割合が評価期間の50%を超えるエリアをマッピングしています。

窓辺の光環境の評価(秋)
秋季は、夏季が終わり日照時間が短くなる季節です。昼間は気温も徐々にマイルドになり、過ごしやくなる時期でもあります。公園を散歩し日光浴でセロトニン分泌を促進健康を図りたい季節です。
では室内の光環境はどう変化するでしょうか。
リビングの自然光による光環境は以下のようになりました。
秋季に効率的にセロトニンチャージできる2500ルクス以上の顔面照度が得られるエリアは、隣棟の影響を受けない基準モデルでカーテンを開けた場合は20%、閉めた場合は5%となりました(背景の1マスは1m角)。
春季のカーテンを開けた場合は54%で閉めた場合16%、夏季は48%、14%であり、それに比べて秋季はそのエリアが小さくなりました。
この要因として、秋季は夜が早く来ると言われるように日照時間が減少することが関連していると考えられます。
秋季として集計した東京の日の入りは、2024年の実績として秋分の日(9月22日)が17:38、10月22日が16:57、11月22日が16:30でした。
それに対し春季は、春分の日(3月20日)が17:53、4月20日が18:19、5月20日が18:43ですので、室内空間に自然光が降り注ぐ時間に春季と秋季に大きな差があります。
秋季は日照時間が短くなり、街の木々は活き活きとした緑から秋の彩りに衣替えする季節です。日照時間も短くなり室内のセロトニンチャージエリアは縮小していきますが、窓辺は良好な光環境を保持していることが分かります。
ココロとカラダの健康に関連するウェルビーイングな光環境作りには、窓ガラスが大きく関連することが分かります。
また、広いエリアで500ルクス以上を確保しており、窓があることで自然光による十分な部屋の明るさが確保されることも分かります。
密集地モデルは、基準モデルに比べて効率的にセロトニンチャージできる2500ルクス以上の顔面照度を得るエリアがさらに縮小する傾向にあります。
一方で、窓辺は比較的良好な環境を保持ししてます。
秋季はウェルビーイングな状態を保持するため、窓辺の光環境で過ごしたくなる季節なのかもしれません。


窓辺の光環境の評価(冬)
秋から冬に変わると、さらに日照時間が短くなります。昼間の気温もさらに下がり、室内で過ごす時間は増える時期でもあります。セロトニン分泌は室内の光環境で得たいところです。
リビングの自然光による光環境は以下のようになりました。
冬季に効率的にセロトニンチャージできる2500ルクス以上の顔面照度が得られるエリアは、隣棟の影響を受けない基準モデルでカーテンを開けた場合は57%、閉めた場合は23%となりました(背景の1マスは1m角)。
秋季に比べると、そのエリアは大きく拡大しています。
これは、冬季は太陽高度が低く、日照が部屋の奥まで到達しやすいことが影響したと考えられます。その中でも特に窓辺は良好な光環境を保持していることが分かります。
気持ち的に沈みやすいと言われる季節でもあります。ココロとカラダの健康に関連する窓辺のウェルビーイングな光環境で過ごしたいものです。
また、広いエリアで500ルクス以上を確保しており、窓があることにより、自然光による十分な部屋の明るさは確保できることも分かります。
一方、密集地モデルは基準モデルに比べて効率的にセロトニンチャージできる2500ルクス以上の顔面照度を得るエリアは顕著に縮小する傾向にあります。
これは太陽高度が低い季節であることで、特に高度の低い朝や夕方の時間帯で隣棟や堀が影になり、日照環境が損なわれることが影響しています。
一方で、窓辺については比較的良好な環境を保持ししてます。
冬季になると眠りにくくなったり、食欲が落ちたり、活力が沸いてこないなど、体調面で変化が起こりやすい季節です。
これには、自然光が大きく関わっていると言われています。
関連記事:HN-002 健康と恒常性について
冬季は暖かで快適な部屋で、さらにウェルビーイングな環境を過ごせるように、四季の中でも特に窓辺の光環境をより深く考えたい季節なのかもしれません。


おわりに
秋季から冬季にかけては、日照時間が短くなり気温も徐々に低下する季節です。
ココロとカラダの健康維持とウェルビーイングな環境を創り出すため、適切に自然光浴びながらセロトニンの分泌を促したい季節でもあります。
過ごしやすい秋季は屋外で散歩し日光浴を、冬季は暖かな室内で窓辺の光環境でセロトニンの分泌を促したいものです。
HG-003と今回のHG-004では、住空間における自然光による光環境についてシミュレーションした結果をご紹介しました。
効率的にセロトニンチャージできる2500ルクス以上の顔面照度を得ることができるエリアは、窓ガラス周辺にあることが分かりました。
窓の役割りの一つである「採光」の重要性は、単に明るさの確保だけでなく、ココロとカラダの健康に関連し、人間の活動力の源にもなる「セロトニン」を効率よくチャージする点にもあります。
近年では、省エネだけを追求し窓が小さくなる傾向があります。
今後は、省エネだけではなくウェルビーイングな環境作りを空間に取り込んでいくことが強く求められ始めます。
窓ガラスは単なる外皮ではなく「空間に自然光を取り込み、外と内をつなぐ唯一の外皮」であり、人の幸せに影響する「自然光を活用した光環境」に大きく関連し、空間に様々な情緒的価値を生み出します。
関連記事:HG-001 窓ガラス選びで大きく変わる 情緒的価値が溢れる 「空間の価値」 とは
ミライヲテラスでは、さらにその魅力について定量化や効果の検証を進めていきます。

著者:ミライヲテラス編集部
AGC建築ガラス アジアカンパニーでマーケティングのお仕事をしているチーム。
窓ガラスなど光をコントロールする建築ガラス製品が、人間のココロやカラダに大きく関連し、人の活動や行動にも影響を与えることを知り、調査を開始。
知れば知るほど、この情報を建築に関わる、建築に興味がある全ての人に伝えたい思いが強くなり、「ミライヲテラス」を開設。