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光と人間
公開日 2025.11.17

大きな窓で自然を感じる暮らし バイオフィリア効果で健康と生産性アップ

大きな窓で自然を感じる暮らし 

はじめに

突然ですが、皆さんは一日のうちにどれくらいの時間、自然を見ていますか?

ビルやアスファルトに囲まれた都会で暮らしていると、空や木々に目を向ける機会が意外と少ないものですよね。
実は、私たちには本能的に自然を求める“バイオフィリア”という性質があるのだそうです (Wilson, 1984)。
そして、このバイオフィリアを上手に取り入れると、ストレスが軽減されたり集中力が高まったりと、ちょっと得をした気分になれることがさまざまな研究で明らかになっています。

この記事では、「そもそもバイオフィリアって何?」というところから、自然がもたらす3つの効果、さらに窓ガラスを活かした建築デザインのポイントまで、幅広くお伝えしていきます。もし今、あなたが日々の疲れや集中力の低下を感じているなら、自然を「見る・感じる」工夫が必要なサインかもしれません。

バイオフィリアとは何か

“バイオフィリア”とは、「人間が自然とつながりを持つことを求める生来的な傾向」を指す言葉です (Wilson, 1984)。
たとえば観葉植物を買ってきて部屋に置いてみたり、「森の中を歩くと何だか落ち着く」という感覚があるのは、こうした本能が働いているからとも考えられています。

興味深いのは、自然そのものに触れなくても「見るだけ」でも効果があるという点です。かつて病院で行われた研究では、窓から緑が見える患者の回復スピードが、コンクリートの壁しか見えない患者より速かったという結果が出ています (Ulrich, 1984)。
現代人が忙しい合間にも自然を感じられるよう、大きな窓や採光設計を工夫することの価値はとても大きいのです。

Ulrich, 1984, table 1を参考に筆者作成(以下、オリジナルの表)

自然がもたらす3つの効果

ストレス軽減

自然に触れると、血圧や心拍数、コルチゾール値などのストレス指標が低下することが数多くの研究で示唆されています (Ulrich, 1984)。
仕事や家事で疲れているときに、公園のベンチでちょっと休むだけでも「心がほどける」ように感じるのは、体と心が自然の力を求めているからかもしれません。

注意力回復・生産性向上

自然が視界に入ると集中力がアップし、作業効率も良くなるという報告があります (Berman et al., 2008)。
これは、「自然を見ることで脳がやわらかく刺激され、疲れた注意力を回復できる」というカプランの注意回復理論 (Kaplan, 1995) が背景にあります。散歩はもちろん、窓からでも樹木や空を眺めることで脳がリフレッシュし、仕事や勉強のパフォーマンスが上がるというわけです。

Berman et al., 2008, table 1の数値を参考に改善率に変換したグラフを筆者作成(オリジナルの表は以下)

気分・ウェルビーイングの改善

自然とのつながりは、私たちの気分を前向きにし、幸福感を高める効果も持っています。森が見える職場では、そうでない場所に比べて従業員のストレスが低減し、仕事へのモチベーションや満足度が高まったという研究報告もあるほどです (Shin, 2007)。

建物デザインへの応用ポイント

大きな窓と十分な採光

バイオフィリアを建築に取り入れる第一歩が、「大きな窓」を設けることです。
たっぷりの自然光が差し込む空間は、それだけで開放的で、人の気持ちを明るくしてくれます。さらに、日中に光を浴びる習慣は、夜の睡眠の質を高める効果もあるとされます (Boubekri et al., 2014)。

自然景観が見える配置

窓があっても、隣のビルの壁しか見えないのではもったいないですよね。緑が豊かな方向に窓をつくる、あるいは室内から木々を眺められるようにレイアウトするなど、視覚的にも自然を感じやすい設計を意識してみましょう。オフィスなら、窓に面したデスクを多く設けるだけでも従業員のストレス軽減や生産性向上が期待できます。

“マイクロネイチャー” の取り入れ

もし大きな景色を望めないなら、「小さな植物を置くだけでもOK」です。ベランダでプチ家庭菜園を始めたり、小さな鉢植えを机に置くだけでも、視線を緑に向ける時間が増え、ストレス軽減や気分の改善に役立つといわれます。
ベランダの手すりがガラス製ですと視界が開け、眺望性が確保しやすく、明るく居心地のよい素敵な場所になるかもしれません。

まとめ

人間が本能的に自然を求める“バイオフィリア”の考え方は、ちょっとした工夫で毎日の暮らしを快適にしてくれるヒントにあふれています。大きな窓を設置し、外の光や緑を取り込むのはもちろんのこと、植栽やインテリアの配置など、どんな住まいやオフィスでも少しずつ実践できるはずです。

もし、「最近なんだか疲れやすい」、「イライラしがち」と感じているなら。。。窓を開けて外を眺める時間を増やすところから始めてみませんか。

意外なほどリフレッシュできて、「自然っていいな」と改めて気づく瞬間が訪れるかもしれません。

ぜひ、あなたの日常にもバイオフィリアをうまく取り入れて、心地よい空間をつくってみてはいかがでしょうか。

関連記事:KG-002 自然に溶け込む木造建築、空間を活かす自然光とガラスの役割を考える
関連記事:KE-002 ガラスが深める木造建築と自然との調和


【参考文献】

Wilson, E. O. (1984). Biophilia. Harvard University Press.
https://doi.org/10.4159/9780674045231

Ulrich, R. S. (1984). View through a window may influence recovery from surgery. Science, 224(4647), 420–421. https://doi.org/10.1126/science.6143402

Kaplan, S. (1995). The restorative benefits of nature: Toward an integrative framework. Journal of Environmental Psychology, 15(3), 169–182. https://doi.org/10.1016/0272-4944(95)90001-2

Berman, M. G., Jonides, J., & Kaplan, S. (2008). The cognitive benefits of interacting with nature. Psychological Science, 19(12), 1207–1212. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02225.x

Shin, W. S. (2007). Forest views at the workplace: Effects on stress and job satisfaction. Scandinavian Journal of Forest Research, 22(3), 248–253. https://doi.org/10.1080/02827580701262733

Boubekri, M., Cheung, I. N., Reid, K. J., Wang, C. H., & Zee, P. (2014). Impact of windows and daylight exposure on overall health and sleep quality of office workers: A case-control pilot study. Journal of Clinical Sleep Medicine, 10(6), 603–611.
https://doi.org/10.5664/jcsm.3780

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。

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