セロトニンとは?ストレスを和らげ「幸せな気持ち」を高める脳内ホルモンの働き
はじめに
私たちの脳内には「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンという物質が存在します。このセロトニンは、私たちの気分や感情に大きな影響を与え、心の安定をもたらす重要な働きをしています。今回は、このセロトニンが私たちの心と体にどのように作用し、ポジティブな感情をもたらすのかについて、脳の仕組みと合わせて詳しく解説していきましょう。
感情をコントロールする脳の仕組みとセロトニン
私たちの脳には、感情を生み出し、制御する複雑なシステムが備わっています。感情をコントロールするうえで特に重要な役割を果たしているのが、「扁桃体」と「前頭前野」という2つの部分です。
扁桃体は、脳の奥深くにある小さな部分で、不安や恐れといった感情を素早く生み出す働きがあります。例えば、暗い道を歩いているときに突然物音がしたら、私たちはとっさに驚いたり、不安を感じたりします。これは扁桃体が「危険かもしれない」と反応しているためです。
一方、前頭前野は私たちの脳の前方にあり、理性的な判断や感情のコントロールを担当しています。先ほどの例でいえば、「物音の正体は猫だった」と分かれば、前頭前野が働いて「大丈夫、危険ではない」と判断し、扁桃体の活動を落ち着かせるのです。

セロトニンは、この扁桃体と前頭前野の関係を上手く調整する働きがあります(Fisher et al., 2011)。
扁桃体の過剰な反応を抑えながら、前頭前野の働きを助けて冷静な判断を促します。まるで、感情のブレーキと理性のハンドルを上手くバランスを取りながら操作してくれるドライバーのような役割を果たしているのです。
幸せを感じる力を高める働き
セロトニンには、単に感情を落ち着かせるだけでなく、私たちの物事の捉え方自体に良い影響を与える特徴があります。研究によると、セロトニンは「良いことに目を向けやすくなる」という効果をもたらします(Michely et al., 2023)。
例えば、困難な状況に直面したとき、問題点だけでなく解決の糸口も見つけやすくなったり、日常の小さな喜びや感謝すべき出来事により気づきやすくなったりするのです。
これはセロトニンが前頭前野の働きを支援することで、状況をより柔軟に捉えられるようにしてくれているためです。その結果、失敗さえも成長の機会として前向きに解釈できるようになるのです。

特に興味深いのは、セロトニンと「やる気のホルモン」として知られるドーパミンとの協調作用です。この2つのホルモンは、私たちの脳内で絶妙なバランスを保ちながら働いています。
例えば、新しい趣味を始めるときを考えてみましょう。ドーパミンが「挑戦したい!」という意欲を高めてくれる一方で、セロトニンは「焦らずゆっくり進めばいい」という心の余裕を与えてくれます。
セロトニンは、過度な期待や焦りからくるストレスを和らげることで、ドーパミンの働きを適度なレベルに保つ調整役も果たしています(De Deurwaerdère et al., 2021)。
そのため、新しいことへの挑戦を楽しみながら、着実に成長していける状態を作り出すことができるのです。 このように、セロトニンは私たちの感情や認知の質を高め、より充実した日々を送るための重要な役割を担っているのです。そして、この働きは次に説明するストレス耐性の向上にも深く関わっています。
ストレスから体と心を守る働き
現代社会では、様々なストレスに直面することが多くなっています。このストレスへの対応に、セロトニンは重要な役割を果たしています。私たちの体には、ストレスに対応するための「HPA軸」と呼ばれるシステムが存在します。これは視床下部(脳の一部)が刺激を感知すると、下垂体(脳の下部にある器官)を活性化し、最終的に副腎皮質(腎臓の上にある器官)からストレスホルモン「コルチゾール」を分泌するという一連の流れで働きます。
このシステムは、本来は危機的状況から身を守るための重要な仕組みです。
緊急時に素早く対応できるよう体を準備し、必要なエネルギーを急速に動員し、免疫システムを活性化するなど、生存に必要不可欠な働きを担っています。

しかし、現代社会では慢性的なストレスにより、このシステムが過剰に働きすぎてしまうことがあります。
ここでもセロトニンが重要な調整役として機能します。HPA軸の過剰な活性化を抑制し、コルチゾールの分泌量を適切なレベルに調整することで、自律神経系のバランスを整えてくれるのです(Chaouloff et al., 1999)。
これは、まるで車のエンジンとブレーキのバランスを取るように、体の興奮状態と休息状態を適切に調整する働きと言えます。

おわりに
セロトニンは、私たちの心と体の健康を支える重要な物質です。感情のバランスを整え、ストレスに強い心身を作り上げる手助けをしてくれます。
現代社会を健やかに生きていくために、このセロトニンの働きを理解し、日々の生活の中で意識的にケアしていくことは、とても重要だと言えるでしょう。
脳の仕組みやホルモンの働きは複雑ですが、その仕組みを理解し、採光条件が良い屋内環境(窓辺)で数時間過ごすなど実践することで(HN-004 セロトニンの合成を促す光とは?)、より豊かで健康的な生活を送ることができます。まずは自分にできることから、少しずつ始めていくことが、心身の健康への第一歩となるでしょう。
関連記事:HN-003 セロトニンはどう作られる?合成の仕組みと光・腸・生活習慣の関係
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【参考文献】
Fisher, P. M., Price, J. C., Meltzer, C. C., Moses-Kolko, E. L., Becker, C., Berga, S. L., & Hariri, A. R. (2011). Medial prefrontal cortex serotonin 1A and 2A receptor binding interacts to predict threat-related amygdala reactivity. Biology of mood & anxiety disorders, 1(1), 2. https://doi.org/10.1186/2045-5380-1-2
Michely, J., Martin, I. M., Dolan, R. J., & Hauser, T. U. (2023). Boosting serotonin increases information gathering by reducing subjective cognitive costs. The Journal of Neuroscience, 43(32), 5848–5855. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1416-22.2023
De Deurwaerdère, P., Chagraoui, A., & Di Giovanni, G. (2021). Serotonin/dopamine interaction: Electrophysiological and neurochemical evidence. Progress in brain research, 261, 161–264. https://doi.org/10.1016/bs.pbr.2021.02.001
Chaouloff, F., Berton, O., & Mormède, P. (1999). Serotonin and stress. Neuropsychopharmacology : official publication of the American College of Neuropsychopharmacology, 21(2 Suppl), 28S–32S. https://doi.org/10.1016/S0893-133X(99)00008-1

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)
博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。