※当記事はすべて「クリアサイト」(2014年~2018年6月まで販売)を採用したユーザーインタビューで、
性能なども当時のものを記載しています。
明治神宮原宿口鳥居前に2017年1月にリニューアルオープンした「CAFÉ 杜のテラス」。材には国産材(柱 : ヒノキ材、梁・桁 : スギ材、棟木 : ヒメコマツ材)と明治神宮御造営時の献木の枯損木(風倒木)を再利用。屋根は鋼板瓦棒葺き。軒を深く出すことで建物に陰影を与え、屋外テラス席も実現 (写真 : 齋部 功)
1974年に岐阜県高山市郊外に設立した木工房オークヴィレッジ。店舗、住宅などの木造建築を造る部門として木造建築研究所が誕生。住宅、店舗、施設の新築・内装、古民家改修の設計・施工を手掛ける。
https://www.oakv.co.jp/kenchiku/
「明治神宮」は、東京・渋谷区の旧南豊島御料地に1920年に建造され、間もなく鎮座100年を迎える。内苑には国内外から奉献された365種10万本が植樹され、それが今日の代々木の杜へと発展した。100年を待たずに現在の深遠な森林へと成長した姿を見て、人工林であることに驚く人も多いだろう。
枯損木(風倒木)や巨大に育った樹木の一部は板材に加工され、倉で第二の生命が与えられるのを待っていた。樹齢100年の材は、建物や家具に姿を変え100年保つと言われている。「杜のテラス」はテーブルと椅子にこの材を使い、金物をほとんど用いず、日本の伝統的な木組みの構法で築かれた。
「参拝後の休憩にお立ち寄りになる人が多くなると考え、視覚的にも体感のうえでも快適さを重視した施設を目指しました。最初の提案は、杜の前に軸組と屋根だけの東屋が佇むデザインで、関係者の誰もが神宮境内の地にふさわしい建物だと納得するものでした」(明治神宮文化館業務課長・市原克哉氏)
設計者の上野英二氏(オークヴィレッジ木造建築研究所 所長)は、当初、杜と一体化した建物にしたいと、壁のない屋根を掛けただけの東屋を考えていた。「東京の中心地にもかかわらず、木漏れ日と木の香りを感じながら自然の中で休息できる場があることの意義は大きいと考えていました」。
一方で、人の快適さを考えるなら、真夏や真冬は空調設備の効用も看過できず、風雨を防ぐ必要もある。人の居場所と杜を隔てることなく区分する解決策が上野氏には求められた。「東屋のプランを損なうことなく、快適な温熱環境をどのように実現するかは大きな課題でした」と市原氏。この難問を「美しく」解決したのは、AGCの進化したガラスの技術だった。
「ガラスは存在感が感じられないことに価値がある工業商品。その使命に特化し、映り込みを抑える低反射ガラスは、2年ほど前に実物を見て、その透明度に驚きました。これを開口部に用いれば、代々木の杜に究極の東屋を実現できる」(上野氏)。その予想通り「杜のテラス」は、視覚体感的に周辺環境と一体化し、快適な休息空間を内包した、魔法のような軸組構法のスケルトン建築となった。
透明感の高い開口部はクスやヒノキなどの内装材の芳香と相まって、建物内に居ながらにして、杜に佇んでいるような感覚を呼び起こす。人と杜を隔てながら、空間の連続性を損なわない。「クリアサイト
®」はマテリアルを超えた、空間装置としても機能していた。
鳥居側から見た客席。家具もオークヴィレッジが制作し、それぞれの樹種が刻印で示されている。映り込みの少ない低反射ガラスが、杜の中に佇んでいるような感覚を演出する
視界がクリアで眺めの良いカウンター席の人気が高い。海外からの旅行者も多く訪れ、全体の半分以上を占める。室内の化粧垂木にはスギ材、軒の化粧垂木にはヒノキ材を使用。ガラスのメンテナンスに配慮し、内側から手が入って拭けるように構造体から30mm離してガラスを配した
入り口側から見た店内。カウンターの板には明治神宮の杜のケヤキが使われている。手入れが行き届いた杜に育ち木目が美しい
深い軒を生かしたテラス席。見通し良く全面に「クリアサイト®」が配された側面
(写真 : 齋部 功)
- 明治神宮文化館 CAFÉ 杜のテラス
- https://www.meijikinenkan.gr.jp/forestterrace/facility/moricafe.html
所在地/東京都渋谷区代々木神園町1-1 営業時間/9:00~閉門時間(季節による。ラストオーダーは閉門30分前) 建築主/明治神宮文化館 設計者/オークヴィレッジ木造建築研究所 施工者/オークヴィレッジ株式会社 構造・規模/木造平家建て 床面積/107.96m 2 オープン/2017年1月
日経アーキテクチュア 11月23日号より転載