Case 4:

HOUSING COMPLEX NIIGATAⅡ

設計:細海拓也一級建築士建築事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




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建物を開き、住宅の機能を分散させた前代未聞の集合住宅プロジェクト。シンプルな操作から生み出された複雑な空間構成が集まって住むことを問いかける

住宅は生活するための機能をパッケージ化している。その方が機能的で便利だからだ。ただそうすることで閉じた建物になる。それを開き、生活するための機能を分散すると不便にはなるが、これまでとは異なる感覚が生まれ、新しい生活の楽しさが始まるだろう。

建築家の細海拓也氏が取り組んでいるのは10階建ての賃貸集合住宅の計画だ。敷地はJR新潟駅から徒歩10分の位置にある。敷地の形状は約40m×約20mの長方形であり、ほぼ東西南北に向いている。周辺は低層の建物であり、上層階は視界を東西南北4方向に開くことができる。北は海が見え、南は山が見える。東は工業地帯の風景が見え、西は山と海が見える。
入居者数は25世帯ぐらいを想定している。1階はエントランスと駐車場であり、2階以上が居室になる。一般的な居室の中にあるリビングルーム、バスルーム、キッチン、トイレなどの機能を56室ぐらいに分解して、建物のなかにちりばめる。扉はリビングルーム、バスルーム、キッチン、トイレも全部同じデザインにする。またひとつの階にひとつの機能を集めない。目的がわかってしまうからだ。
入居者は好きな部屋を選ぶ。例えば2階にトイレ、4階にバスルーム、8階にリビングルームを選ぶことができる。しかも北向きや南向きも選べる。東西南北4方向に部屋を借りることも、10室ぐらいを借りることも可能だ。

居住者のライフスタイルと予算に合わせて、方角、階、部屋数まで自由に選べる集合住宅。そこに、集まって住むからこそ起こる何かが現れる

東西南北4方向に開いていくファサードの意匠は12個のボリュームで構成しており、無骨でシンプルなコンクリートの塊だ。ベースは壁構造だけを重ねていく。壁構造の4つのグリッドを東西南北4方向に開くように卍形に配置し、2層分をつくる。その上に同じボリュームのグリッドを90度回転させて3層分をつくる。そのさらに上に90度回転させた4層分を重ねる。モジュールはグリッドに合わせて決めており、グリッドのなかで倍数の部屋割りをしていく。その細分化した部屋を建物のなかに配置する。 縦方向については2層吹き抜けの部屋や4層の吹き抜けの通路をつくる。建築をシンプルな操作で複雑に見せたいという細海氏の思いから生まれた空間構成だ。

賃料は部屋ごとに設定するためひと部屋ごとに賃貸契約をすることになる。入居者のライフスタイルと費用に応じて好きな方角や好きな階を選ぶことができるのだ。事務所として借りる、あるいは事務所と住居を借りることも可能だ。課題は空き室が出た場合だ。次に借りる人は空いた部屋の組み合わせとは異なる組み合わせを求める可能性がある。
集合住宅は集まって住むことに意味がある。このプロジェクトには次のような意図がある。例えば入居者が風呂に入るために下の階に下りる。移動することで顔を合わせる機会が多くなり、集まって住むからこそ起こることが現れる。さらに入居者は3次元的に行き来することで全体を自分の建物のように感じる。 路地的なスペースに洗濯物を干すことなども自由にするというから、集まって住む空間として予想もしないような使い方が生まれるかもしれない。

HOUSING COMPLEX NIIGATAⅡ
設計: 細海拓也一級建築士事務所
用途: 共同住宅 (賃貸)
戸数: 16~64戸(可変)
所在地: 新潟県新潟市
敷地面積: 8896.8㎡
建築面積: 364.8㎡
延床面積: 1680.4㎡
主体構造: RC造 地上10階建て
主要仕上: 外部 コンクリート打放し
  内部 コンクリート打放し
工事予定期間: 2016年4月~
細海拓也

細海拓也(ほそかい たくや)
1980年新潟県生まれ。2005年横浜国立大学大学院修了、OMA、ENSAMBLE STUDIO勤務を経て、2013年細海拓也一級建築士事務所主宰、IMIN共同主宰。