Case 5:

福増幼稚園

設計:吉村靖孝建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




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既製品の鉄骨造テント倉庫を活用した幼稚園舎増築計画。園児たちに「考えるきっかけ」を与えられるような建築をめざす。

既成の建築物を活用したリノベーションやコンバージョンが広がりを見せているが、コンテナなどの既製品を活用して空間をつくる例も増え始めている。既存のものを活かす、あるいは既存のものと新しいものを組み合わせることで都市は成熟化していく。

建築家の吉村靖孝氏が取り組んでいるのは千葉県市原市にある幼稚園の増築計画だ。手狭になったため、近くの敷地にそれを補う施設を新築することになった。
この幼稚園の教育方針は「子供たちの自主性を伸ばす」であり、「これは何だろう」と子供たちが考えるきっかけが様々なところにあるような建築物が期待されている。
既製品の鉄骨造のテント倉庫を使って外皮をつくり、その内側に木造2階建ての内部空間をつくる。1階は保育スペースやトイレ、倉庫などのスペースがあるが、2階は一枚の壁が折れ曲がって内外につながっているようなつくりだ。曲がったところはどのような使い方もできるスペースになる。壁は合板一枚だ。構造強度が足りなくなるため大きな火打梁をかけて全体で持たせている。この火打梁は、子供にとって少し意味がわからないようなものであり、考えるきっかけになることも意図している。また、合板の壁はあえて表と裏で違う表情にする。表側は白い壁にしているが、裏側は下地材のままであり、舞台裏にいるような感覚になる。
園児だけではなく、その家族や卒園生のコミュニティのための施設でもある。テント倉庫と接続する木造1階建のカフェと厨房があり、父兄のための、厨房を使った料理教室も計画されている。

オーダーメイドの対極にある既製品。形状が決まっていて不自由だが、そこから始めることで設計の可能性が広がる。

当初は、敷地に建っていた既存の倉庫をコンテナと組み合わせて活かす計画だったが、痛みが進んでいることなどからこの計画は断念した。ただ吉村氏は、新しい倉庫に置き換えても設計の拠り所にできるのではないか、既製品から始めることは設計の可能性を広げることにつながらないかと考えた。

既製品は形状が決まっており、不自由ではあるが、それを手がかりに設計をする。それはリノベーションの手法に近い。 吉村氏は「建築家が全てを設計するのではなく、手の及ばない範囲を残すという態度に可能性があると思っている」という。オーダーメイドで一からつくると適合し過ぎていることによる気持ちの悪さがあり、使う人も同じではないかと感じているからだ。
また、吉村氏は次のように問いかける。「土地の特殊性に注目して特殊なものを編み出すことに普遍性はあるのか」、「使い方は常に変化しており、単純に今どうあるべきかに合わせてオーダーメイドでつくった建築物は長持ちしないのではないか」、「物量もバリエーションも十分確保された世の中だから、それを収斂するベクトルがあっていいのではないか」
建築物が建つ都市は計画的につくられた既製品のようなものだ。既製品の都市を広げ、その中に日本の社会は自由に建築物をつくってきた。人口減少などによりその既製品の都市に綻びが出始めている。建築を収斂させるベクトルのひとつは、都市の持続可能性の視点である。

福増幼稚園
設計: 建築: 吉村靖孝建築設計事務所
  構造: 満田衛資構造計画研究所(木造)
  サンワ企業/長谷川総合企画設計事務所
(鉄骨造)
  設備: 環境エンジニアリング
監修: 日比野設計 + 幼児の城
施工: ひらい建設
敷地面積:
3366.51㎡
建築面積: 489.02㎡
延床面積: 674.43㎡
階数: 地上一階、一部二階
構造: 木造+S造
工期: 2015年~
吉村 靖隆

吉村 靖孝 (よしむら やすたか)
建築家、明治大学特任教授
1972年 愛知県豊田市生まれ
1997年 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了
1999~2001年 MVRDV在籍
2005年 吉村靖孝建築設計事務所設立
2013年~ 明治大学特任教授
JCDデザインアワード大賞、日本建築学会作品選奨、吉岡賞など受賞多数
「ビヘイヴィアとプロトコル」「EX-CONTAINER」「超合法建築図鑑」など著書多数







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