Case 12:

代田の長屋

設計:馬場兼伸建築設計事務所/B2A architects
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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記憶のなかにあるビルディングタイプ=型を利用して、多様な世代、階層、生き方が同居する器としての集合住宅。そこに価値を見いだす人が、地域の評価基準を変える可能性がある。

B2Aの馬場兼伸氏が手掛けているのは賃貸アパートの新築計画だ。 敷地は東京都世田谷区にある小田急線の下北沢駅から徒歩約15分の静かな住宅街にある。周辺は邸宅や低層の高級マンション、小さな戸建て住宅、アパートが混在している。

下北沢やその周辺エリアでは、住宅やアパートの空き室を店舗化したり、住みながら一部を仕事場としたりと、様々な用途の読み替えが行われているという。
「下北沢的な人々のクリエイティビティは「全く新しい」ではなく、型の読み替えに発揮されているのではないか。そしてそのことが、多様な年齢、階層、生き方の同居を生み、エリアの魅力につながっているのではないか。賃貸アパートという型を利用して、こうした多様な生き方が同居する器をつくれないかと思った」。
「小田急線の地下化に伴って線路跡地が開放されることで、徒歩でのアクセスが良くなることが予想されており、それが下北沢的なエリアの拡大のきっかけになるのではないかと考えている」。
敷地は狭隘な前面道路から約12mも入る旗竿敷地で、背後には3m弱の崖を抱えている。まず計画を進めるにあたり、崖側の地盤を1m弱掘り下げて段差を2m未満としつつ、残土を反対側の通路や竿部分などに分配するという造成計画を立てた。こうすることで既存不適格な擁壁に法的問題がなくなり、かつ敷地に高低差が生まれて変化ができることをねらっている。
また賃貸アパートを計画する場合、収益に必要な床面積をとり、敷地内通路を一方向にとって玄関を並べ、残りはデッドスペースというのが一般的だ。それに対して敷地内通路を行き止まりとせず、敷地外周を巡れるようにして、外周通路から引きをとった形で建物を配置することにした。

単なる住居ではなく、店舗や仕事場を兼ねた使い方も。めざしたのは「多様な捉え方のできるおおらかな建物」。

「建物はハモニカ型の一般的なアパートの作りを設定した上で、外周からの複数のアクセスや地盤面操作と連動したスキップフロアなどで読み替えていくような方法を検討している」。

どの住戸も敷地内通路に面した玄関からアクセスするが、全体は上下左右に異なる広がりをもつ6住戸で構成する。独立性や南面採光を重視したプランなども組み込みながら、店舗や仕事場を兼ねた使い方もできるようにする。
「見慣れたもののようでもあり、全く新しいもののようでもある、多様な捉え方のできるおおらかな建物をつくりたい。記憶のなかにあるビルディングタイプ=型を利用して多様な人やモノ、時間を対象にしたい」。
空き室や空き家を民泊として、あるいはレンタルスペースとしてインターネットを活用して仲介する事業が注目を集めている。個人レベルでも住宅のなかの余っている場所に注目して、個人の夢や野望で空間を埋めることを始めている。
「既存の法規にひっかかってくることもあり、それを乗り越えていかなければならないが、そのプロセスがおもしろい。このようなムーブメントがいましかできない建築を生み出す」。
このようなライフスタイルに価値を見出す人は徒歩圏としては不便な場所にあっても利用する。それは地域の評価基準を変える可能性がある。そしてこの既存の資産を生かす動きは新しい建築を促し、シェア経済とリンクしながら拡大していくだろう。

代田の長屋
所在地: 東京都世田谷区
建築主: 個人
用途: 長屋
設計: 馬場兼伸建築設計事務所/B2A architects
建築面積: 約130㎡
延べ床面積: 約245㎡
階数: 2階
主体構造: RC造+木造
工事予定期間: 2016年4月~9月
神本 豊秋

馬場 兼伸 (ばば かねのぶ)
1976年 東京都生まれ 2002年 日本大学大学院博士前期課程建築学専攻修了 2002~13年 メジロスタジオ共同主宰 2013年~ 明治大学理工学部兼任講師 2013年~ 馬場兼伸建築設計事務所(B2A architects)主宰 2014年~ アソシエイツ株式会社取締役 ビーツーエーアーキテクツ株式会社代表取締役