Case 21:

松之山温泉景観整備計画

設計:蘆田暢人建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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ランドスケープや公共施設の整備から観光地の活性化をめざした温泉街の景観整備計画。その狙いは、地域特性を活かした観光とまちづくりを融合させること。

蘆田暢人氏が手掛けているのは温泉街の景観整備計画である。
その温泉街は日本三大薬湯のひとつである松之山温泉だ。新潟県十日町市の山あいにあり、住民は住みながら温泉旅館や飲食店などを営んでいる。

この温泉街は、観光立国の実現を目的とした観光圏整備法に基づき、観光庁によって認定された観光圏のひとつである雪国観光圏のなかに含まれている。このプロジェクトはその一環として始まっており、地域特性を活かした観光とまちづくりの融合を狙う。
この地域は豪雪地帯であり、積雪は3~4mにもなる。景観を整備しようと樹木を植えても雪で倒されてしまう。散策路にコンクリートの手すりをつくっても押しつぶされる。温泉旅館はRC造に建て替えられ、風情をなくしている。除雪車のキャタビラでアスファルトがはがされ、補修してつぎはぎだらけになっている。雪を克服し、どう共存するかがこの地域の課題なのである。
蘆田氏は「エネルギーを活用して景観をつくる」というスタンスで取り組んでいる。温泉街の近くで環境省が温泉を利用した温泉バイナリー発電の実証試験を行っている。松之山温泉の源泉は100度に近く、熱交換して発電に使うと約40度の排湯が出る。その排湯を流すパイプを温泉街の基幹道路面下に敷設し、路面に散湯するという融雪システムを導入することを提案し、実現している。

パイロットプランとして設計された融雪システムの機械室。デザインモチーフは、この地方の特徴的なデザインボキャブラリーである「雪囲い」だった。

そして温泉街の中に設置された融雪システムの機械室を景観計画の最初のパイロットプランと位置付けてデザインしている。その構造は内外の2重になっており、雪の側圧に耐える外側の構造体は柱・梁の構造体と越後杉の足場板で構成している。越後杉の足場板を並べた外観はこの地域の特徴的なデザインボキャボラリーである「雪囲い」をモチーフにしたデザインであり、景観整備計画の見本としている。

また機械室の屋根に排湯を流し、その熱で雪を溶かすことで緩勾配の片流れの形態を可能としている。エネルギーの活用の新しい仕組みが建物の形態も変えられるということを示しているのだ。
街路灯のLED化に伴い実施した照明柱の整備では積雪を考慮して先端部を円錐型としている。ポールは水平荷重を考慮して太くしているが、中央部をくびらせてシャープな印象にしている。将来的には電線の地中化も想定している。
この整備計画は2014年から始まり2018年まで続く。これまで建築については既存の建物の小さな改修を行ったのみであり、温泉旅館には触れていない。今後も滝や階段の整備などランドスケープや公共施設が整備の対象となる。

「まずは公共空間を整備する。また地域特性を活かした観光とまちづくりの融合のプロセスをつくるためのワークショップを行っている。関係をつくり、流れをつくっている」(蘆田氏)
蘆田氏は内藤廣建築設計事務所の出身であり、建築と土木の経験を積んでいる。

「建築家は技術者であるが、人に近い立場におり、その仕事は人に対して価値を与えることだ。建築家は人と技術を統合できる」(蘆田氏)。
観光産業はインバウンド需要で活性化しつつあるが、すべての観光地には波及していない。だから観光地の危機感は強い。その観光地の課題は建築だけでは解決できない。建築、土木、コンサルティングの能力が求められている。

松之山温泉景観整備計画
所在地: 新潟県十日町市松之山温泉
事業主: 松之山温泉組合
用途: 温泉街の景観整備
工事予定期間: 平成26年~平成30年
山﨑 健太郎

蘆田 暢人 (あしだ まさと)
1975年 京都市生まれ
1998年 京都大学工学部建築学科卒業
2001年 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了
2001~11年 内藤廣建築設計事務所
2012年 蘆田暢人建築設計事務所 設立
2012年 ENERGY MEET 設立
2016年 これからの建築士賞