Case 24:

GDO本社オフィス及び撮影スタジオ

設計:sinato
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

作品画像


    …クリックすると具体的な詳細が表示されます。

リーダーシップとフォロワーシップのバランス、柔軟なインフィルのデザイン。クリエイティブ・ワークプレイス実現のための2つの課題に挑戦するオフィス移転計画。

sinatoの大野力氏が手掛けているのはIT企業の移転計画だ。ゴルフに特化したインターネットのポータルサイトを運営している会社であり、ゴルフ関係のニュースなどの情報発信、国内外のゴルフ場の予約、ゴルフグッズの販売を事業としている。

移転先は東京・五反田のオフィスビルであり、1、7、8、9階に入居する。約3400㎡のワークプレイスで約400名の社員が働く。8階が受付フロアになっており、来客スペースと社員ためのラウンジなどがある。7、9階は執務のフロアだ。1階は撮影スタジオやイベント会場など多目的な用途で使用する。
7、9階は、形は異なるが中央に執務空間を配置し、3面ある開口まわりのペリメーターゾーンを薄く、高さ1400ミリを基本に区切っている。
柱が6400ミリのスパンであるのを活かし、中央の執務空間にスパンの半分の3200ミリのグリッドで駐車場の白線のようなガイドラインを引いている。そのグリッドのモジュールの中に4人ワンセットのテーブルを用意する。
「プロジェクト単位で各職種の人が同じチームで動き、またそのチーム編成も変わる。それに対するしつらいとして様々な置き方や組み合わせができるようにして柔軟性を高めている」(大野氏)。
さらに合理的で流動性の高い場所だけでは風景としては弱く、社員のモチベーションを上げる空間環境にはならないと考え、ペリメーターゾーンを区切り、オープンなコミュニケーションエリアにして社員が自由に使える様々な場所を用意している。
アプローチ側にも区切ったスペースをつくっている。バッファーゾーンとして気持ちを切り替えて、合理的なスペースに入っていく場所としている。

配置と間仕切りのレイヤーによって、様々なシーンが同時多発的に表示されているようなオフィスランドスケープをめざす。

「合理性を求めている姿だけではなく、様々なシーンが同時多発的に表示されているような風景の方が気の救いがある。配置と間仕切りのレイヤーによって、視線が通り抜ければ体験できる空間の広さは増え、細かくは見えない状況にすると見せたくないものを見せなくすることができる。間仕切りの意匠的な効果は高い」(大野氏)。
8階は受付カウンター、個室の会議室群、2つのオープンなミーティングエリア、「クラブハウス」と名付けられた社員のためのカフェのようなコミュニケーションスペースからなり、2つのオープンなミーティングエリアの中央にゴルフの試打スペースを設けている。試打スペースは受付カウンターの後ろにあり、ガラス越しに見えるようにしてサインとしている。
オープンなミーティングエリアと「クラブハウス」はガラスの可動間仕切りで仕切られており、イベント時には開放する。また「クラブハウス」は普段はカフェのような使い方をするが、社員の全体会議にも使う。その会議テーブルはペリメーターゾーンに並べている1800ミリの可動タイプのカウンターテーブルを会議スタイルに合わせて使用する。
「機能をオーバーラップさせる。そのさせ方が大事だ。このような規模になってくると各社員がワークプレイスを自分事として使ってくれるほど良くなっていく。そういうことをエンカレッジすることが大切であり、リテラシーを育てる練習も必要だ」(大野氏)。
クリエイティブなワークプレイスをつくるポイントはリーダーシップとフォロワーシップのバランスを生み出すことであり、柔軟なインフィルのデザインである。この2つの実現に挑戦しているプロジェクトである。

GDO本社オフィス及び撮影スタジオ
所在地: 東京都品川区
施主: ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)
用途: 事務所
設計: sinato
施工(オフィス): 大成建設、PLUG-IN、竹コミュニケーションズ
施工(撮影スタジオ): 山内工務店
PM: ディー・サイン
照明: FDS
床面積(オフィス): 3,256.62㎡
床面積(撮影スタジオ): 78.50㎡
竣工: 2016年12月
大野力

大野 力 (おおの ちから)
1976年 大阪府生まれ。
金沢大学工学部で都市工学を学び、卒業後フリーランスを経て2004年にsinatoを設立。建築・インテリア・インスタレーションアート等、様々な規模・用途のプロジェクトを国内外で幅広くデザインし、これまでに手がけた作品は約300に上る。2016年春には全体環境デザインを担当したJR新宿駅新南エリア(コンコース・駅前広場・商業施設NEWoMan)が完成。