Case 31:

西麻布ビル内装工事

設計:ダイスケモトギアーキテクチャー
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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バブル期の建物のコンバージョン・プロジェクト。長所は残しつつ、入居する2社のブランド方針と文脈が一致するようなリニューアルを追求。

元木大輔氏が手掛けているのはバブル建築のコンバージョンだ。

その建物は東京・西麻布の袋小路の私道に面した敷地に建っている。1987年竣工のバブル経済時代の雰囲気が色濃い3階建ての建物であり、高級フレンチレストランとして使用されていた。
門があり、アプローチ中央にはシンボルツリーが立っている。回転扉を入ると半地下階と中2階につながる象徴的なエントランスホールがある。
クライアントはハイエンド向けのレンタルキッチンを展開する企業とiPhoneケースなどのアクセサリーを製造販売する企業の2社だ。
「隠れ家的なレンタルスペースにしたい」「ブランディングを含めて空間的に会社のプレゼンテーションができるようなオフィスとショールームをつくりたい」がそれぞれの要望だ。
「既存の建物はバブルのにおいが強く、成金の感じがどうしてもする。それを隠ぺいするのではなく、いいところはいいものとして、いま見てもおかしくないような状態に少ない手数でデザインできないかと考えた。例えば赤の隣に青があった時と緑があった時の赤の見え方は違う。どういう文脈で使うか。ブランドの方針と文脈が一致するような形でいいアイデアがないかと試行錯誤した」(元木氏)。
エントランスホールに入ると大きな松の盆栽が迎え入れる。
半地下階はレンタルキッチンのスペースに充てる。仕口の技術を活用し、105角の材をフレームにした長さ3mのテーブルを中央に配置する。バーカウンターは柱材を積み上げてレザーで縛ったしつらえにする。茶道具を飾る棚は床の間にある違い棚を分解して再構成する。
中2階はiPhoneケースなどのアクセサリーのショールームにし、障子を組んだショーケースなどを置く。

コンセプトは、バブル感と日本的要素、2つの相反する要素を並列に並べて、そのコントラストを楽しめるデザイン。

「日本的な要素を散りばめつつ、見たことがないような状態をつくる。背景がバブルな感じなので、相反する要素を並列に並べてそのコントラストを楽しもうがコンセプトだ」(元木氏)。
またiPhoneケースがクラフト技術を使用しており、iPhoneという最先端のデジタル技術と2つの異なったものが同居していることの延長として空間も2つの要素を散りばめるという意図もある。

元客席だった2階は社員約20名が働くオフィスにコンバージョンする。要望がフリーアドレスを前提としていたことから、基本は広いワンルームにする。ただスタンディングデスクやクローズされたミーティングスペース、ミニマムサイズの籠り部屋など様々な性格の席を用意し、選ぶことができるようにする。
間仕切り壁はiPhoneケースをモチーフにし、孔のサイズを30パイに拡大した有孔ボードを使用し、透け感のあるパネルにする。孔に丸い棒を差して棚やハンガーラックにできる壁のシステムとして設計している。
屋上は床に段差がついていることを活かして脚の長さの異なるベンチを置き、デッキ材のテーブルをつくる。3階の用途は未定だ。
「新しいものをつくることに少し罪悪感がある。現在あるものや既成の価値観を否定しないで楽しむ方法をデザインで提案したい。今回の建物も当時は楽しんでいやっていたわけであり、もう一度楽しむためにどういうデザインがあり得るのか。保守的にならずにできるだけ前に向かってボールを投げる意志はあった方がいいと感じている」(元木氏)。
ストック時代のデザインの楽しい試みである。

西麻布ビル内装工事
所在地: 東京都港区
用途: レンタルキッチン、ショールーム、
オフィス、住宅
構造: RC造
設計: Daisuke Motogi Architecture
建築面積: 107.41㎡
延床面積: 362.29㎡
竣工予定: 平成29年8月
元木氏

元木 大輔 (もとぎ だいすけ)
1981年埼玉県生まれ。
武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、スキーマ建築計画を経て2010年独立。建築的な思考を軸に、アクセサリー、家具、インテリア、エキシビジョンデザインから建築まで国内外で大小様々な領域のデザインを手掛ける。武蔵野美術大学、バンタンデザイン研究所非常勤講師。