Case 32:

幼・老・食の堂

設計:teco
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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保育、介護等複合型サービスを提供する建物をまちへ開くことで、地域の拠点をつくる。

tecoの金野千恵氏とアリソン理恵氏が手掛けているのは看護小規模多機能型居宅介護施設(通称:カンタキ)を中心とした複合施設だ。鉄骨造3階建て、延べ床面積354.82㎡の規模である。

計画地は東京都品川区のJR西大井駅から徒歩約5分の住宅街の中にある。計画地前の私道沿いには規模、構造、用途が異なる建物が混在している。
カンタキとは、デイサービスを中心に短期の宿泊も可能な設備の整った施設であり、看護サービスも利用できるもので、この計画にはさらに居宅介護・訪問介護・訪問看護の事業所と事業所内保育所が入っている。
大きな特徴は建物の1階にあるカンタキと保育所のキッチンをひとつにして、真ん中に配置していることだ。この空間を「まちの食堂」と位置付け、地域の人たちが誰でも利用できるようにする。つまり子供から高齢者、地域の人まで利用できるような建物になっている。
諸室を立体的に組み合わせ、さらに外側にぐるりと誰でもアクセスできるテラスが1階から3階まで連続している。そしていちばん上部にまちの菜園をつくるという計画だ。
また空地と建物の関係、バルコニーや庇の連続など近隣の特徴的な建築言語を抽出し、意匠計画に援用している。
住宅と施設の中間的な存在だ。誰にでも開かれたお堂のような形式を目指しながら、地域にある建築的な言語を取り入れ、風景の中に自然と、あたかも長い間そこにあるかのような建築を考えた。また、室を個別に扱うと狭いという一見ネガティブな側面を、この規模ならではの特徴と捉え、異なる用途の領域を調整しながら共存させている。例えばお堂の核となる中央部のキッチンは、高齢介護、保育、地域の人が共有で利用できる」(金野氏)。

お堂の形式を意識した空間とし、そのコアとなるキッチン・ダイニングは、誰でも利用できる「まちの食堂」になる。

「外に誰でも入れる場所をつくるのは人の目がある建物にしたいという要望があったからだ。見せられる部分は見せて、まちの人に開いていく構えがあると働く人にとっても息抜きができる環境になる。立体的に福祉と保育を絡ませる光景に、さらにまちの人が入ってくる」(アリソン氏)。

30代後半のクライアントは地域に3代続いて生活し、福祉の仕事に携わってきた。すでに地域にネットワークを持っている。
「福祉に関わる人たちの世代交代が起こっており、事業の運営のみならず、地域の中でどのような役割を果たし、まちをいかに良くしていくか、というまちづくりの観点をもつ人が多く、彼らとのクリエイティブな協働作業がとても楽しい」(金野氏)。
「運営者や地域の方など、この建物にかかわっていく人々の意見から浮かび上がってくる、維持の方法やネットワークの広がりを発見することにも、おもしろさを感じている」(アリソン氏)。
施設の前の通りを駅への通勤の人が通る。訪問介護事業所には24時間、人がいる。このような状況と施設の空き時間を活かし、キッチン・ダイニングは「まちの食堂」としての運用が様々に想定されている。
「一杯飲んで帰れるような場所ができたら楽しいだろう。24時間稼働している施設を地域の資源とみて、そこに開かれる可能性の種を蒔いておくことで、地域の暮らしを支える拠点となる場所をつくることができると思う。どんな人でも自然に居られるような空間をつくりたい」(アリソン氏)。
若い世代の建築家と同世代のクライアントが密にコミュニケーションをとりながら新しい建築と地域を生み出そうとしている。

幼・老・食の堂
所在地: 東京都品川区
用途: 看護付小規模多機能型居宅介護施設、
訪問介護・看護事業所、事業所内保育所
設計: 建築・一級建築士事務所 t e c o
構造・ASA
設備・ZO設計室
施工: 株式会社 辰
建築面積: 157.23㎡
延床面積: 354.82㎡
階数: 地上3階
構造: S造
工期: 2017年3月~11月
金野氏、アリソン氏

金野 千恵 (こんの ちえ)(写真左)
1981年 神奈川県生まれ
2011年 東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学) 取得 2011 KONNO 設立 2011 (-12) 神戸芸術工科大学大学院 助手 2013 (-16) 日本工業大学 生活環境デザイン学科 助教 2015- teco 共同主宰

アリソン 理恵  (ありそん りえ)
1982年 宮崎県生まれ
2010年 東京工業大学大学院博士課程 単位取得退学 2010(-14) ルートエー 勤務 2014(-15) アトリエ・アンド・アイ 坂本一成研究室 勤務 2015- teco 共同主宰