Case 33:

SNG office

設計:一級建築士事務所 上野アトリエ / UENOA
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

表掲画像


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事業規模拡大に伴い、社員のモチベーション向上を目指して計画された新社屋プロジェクト。

上野アトリエの堀越ふみ江氏と長谷川欣則氏が手掛けているのは木造用ビスメーカーの新社屋だ。

計画地は宮城県富谷市にある。仙台市のベッドタウンであり、市内では企業誘致や住宅地開発のための造成が30年以上行われている。大学や企業研究所の進出もあり、人口は増加している。
計画地周辺は円形に区画整理されている。ただ当初想定していた企業の誘致がなされず、核がないままコールセンターや老人ホーム、タイヤメーカーの倉庫などが建ち、周辺は住宅地として開発が進んでいる。
クライアントの企業は計画地の近くに事務所を構えていたが、事業規模が拡大したため、計画地を購入して新築することになった。
「自社のビスを使用して木造の新しい形をつくりたい」、「社員がどのようなところに自社のビスが使われていて、木造の建物がどのように出来上がっていくのかの全体像が把握できるようにしてほしい」がクライアントの要望である。
「クライアントは新社屋を建てるにあたって会社名も変えた。企業の大きな分岐点になっており、ここで働きたいというモチベーションを高めることを当初から意識を持って設計した」(堀越氏)。
規模は木造2階建て延べ床面積1000㎡弱だ。計画地は円形状の道路に面しており、その道路沿いに建物を、背後に駐車場を配置する。
「周辺の建物は手前に駐車場と看板があり、奥に建物があって道路からすごく遠い。看板で街につながっていくような形を回避し、建物としてまちにつながるようにしたい」(堀越氏)。

自社商品を使って、木造の新しい形に挑戦。ひとつの空間の中で展開される様々な活動につながりを持たせる。

3つのテーマを設定している。

・木の架構との様々な距離をつくりだす。
 ・木の連続性がつなぐ空間。
 ・円形道路がつくる視線の抜け。
「低いところから大スパンへの木の変化が連続していくことで1階と2階の気持ちをつなぐ。ひとつの空間の中で実験、デスクワーク、保管など様々な業務が行われていることにつながりを持たせたい。社員が諸室を移動するときに景色の変化があるといいと考え、十字のプランにした」(堀越氏)。
スパンは最大18m、最高高11.5mあり、4隅が吹き抜けている。エントランス、実験室、見本室、会議室、ラウンジなどで構成されており、ラウンジはつくり込みをして、空気感の違う場所にする。
シェル構造の大スパンの架構は流通材の小さな部材を組み合わせてつくる。その屋根の仕上げ材は経年変化する銅板にする。1階の壁とトラスを結ぶ三角形の坂に複雑な角度も加工できるCLT(Cross Laminated,Timber)を採用する。
ランドスケープデザインにも力を入れている。
「地域の特徴的な樹木を調査し、種拾いから始めて緑化計画に生かす予定だ。木を育てることで企業のイメージを構築していく。また駐車場のなかに円形の区画整理の中心点から放射状に線を引き、それに呼応させて排水のために小さな勾配の山と谷をつくり、地形を表現している」(長谷川氏)。
若手建築家と成長を続ける企業のコラボレーションが挑む新しい木造建築は社員のモチベーションを高めるに違いない。

SNG office
所在地: 宮城県富谷市
用途: 事務所
設計: 建築・一級建築士事務所 上野アトリエ
構造・ホルツストラ
設備・ジーエヌ設備計画(機械)・タクトコンフォート株式会社(電気)
施工: 未定
建築面積: 580㎡
延床面積: 900㎡
階数: 地上2階
構造: 木造(CLT)
工期: 2017年10月~2018年6月
長谷川氏、堀越氏

長谷川 欣則 (はせがわ よしのり)(写真左)
1980年埼玉県生まれ
明治大学大学院修士課程修了 西沢立衛建築設計事務所・岡田公彦建築設計事務所勤務を経て 一級建築士事務所 上野アトリエ/UENOA 共同主宰

堀越 ふみ江 (ほりこし ふみえ)
1981年栃木県生まれ
法政大学工学部建築学科卒業 東京大学農学生命科学研究科木造建築コース修了 一級建築士事務所 上野アトリエ/UENOA 共同主宰