Case 34:

まちなかのホテル

設計:尾崎建築事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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収益性を考慮した近隣商業地域のスケルトンインフィル多目的ビル。単品を作るというよりもまちの変化を見ていけるような建築のあり方を模索する。

尾崎泰永氏が手掛けているのは多様な用途を想定した建築計画だ。

クライアントは東京都中野区で不動産事業をしている個人であり、「様々な用途に対応できる形で計画してほしい」という相談を受けた。
計画地は中野区の周縁部に位置しており、練馬区、豊島区、新宿区の境界に近い。近隣商業地域であるが、背景地は住宅地だ。交通量の多い大通りに南側が面しており、交差点やバス停が近くにある。歩道も整備されており、通りからの視認性は高く、テナントの需要も見込める立地である。
「視認性を前向きに考えて、通りに対して人の気配が全体的に現れるような計画にしたいと考えた」(尾崎氏)。
敷地の形状は三角形であり、北側には3階建ての集合住宅が建っている。
「昨今の状況に合わせて収益さえ満足させればプログラムや建物については自由に考えられる。当初は単身者向けの共同住宅を検討した。ただ三角形の建物では生活が完結できるようなものをつくると無駄なスペースが多くなり、効率的ではない。投資額や収益性などを考慮し、多様な用途に合わせてフレキシブルに間取りを変更できるスケルトンインフィルを採用した」(尾崎氏)。
鉄骨ブレース付きラーメン構造にする。中央にコアをつくり、階段を収める。主要フレーム部分以外を開放し、3方向に抜けのある「風通りの良い」スケルトンにする。
4階建てで計画している。1階には地域に開いた飲食のテナントを入れ、2階はSOHO、3階はオーナー住居、4階をゲストハウスにあてることを想定している。

敷地の形状に合わせた三角形の4階建てビルは、3方向に抜けのある「風通りの良い」スケルトン。角はエントランスやテラスにして開放的に。

「1階は外部の舗装がそのまま入ってくる。北側は隣接する集合住宅の廊下が面しており、集合住宅の住民がドアを開けた時に目線が合わないように壁を配置する。ただ集合住宅との間には植栽帯があり、通りから視界が抜けて借景になることも配慮している。また三角形の建物の角を閉じるとまわりを圧迫するため、角はエントランスやテラスにして開放的にする」(尾崎氏)。

尾崎氏は長野県にある宮本忠長建築設計事務所に3年間在籍し、小布施町を担当していた。
「住宅から公共建築まで携わり地域と密接に関係しており、点ではなく面的に関われるぐらいに建築の仕事をやっていた。その時に建築家の事務所のスタイルとして単品をつくるというよりもまちの変化を見ていけるあり方はおもしろいと感じた。まちの定点観測みたいなことを設計事務所としてやっていくことが小布施での経験を活かせるスタイルだと思っている」(尾崎氏)。
そのようなスタイルを東京で実践できないかと模索しているなかのひとつが不動産業との関わり方である。
「受け取れる人が多いようなものにならざると得ないという状況がある。長野で学んだことは球のスピードを調整すること。地域とつながって仕事をする時は剛速球ではなく130キロぐらいの球でないと仕事はなくなる。コントロールした130キロの球を投げるのも建築家の役割だと思っている」(尾崎氏)。
ボールを受け取ってくれるキャッチャーがいないと投球はできない。バッテリーを組むキャッチャーを探し、新しい建築を生み出すための模索は続く。

まちなかのホテル
所在地: 東京都中野区
用途: 住宅、ホテル(ゲストハウス)、飲食店、
オフィス
設計: 尾崎建築事務所
構造: MIDAS IT JAPAN
建築面積: 84.78㎡
延床面積: 284.91㎡
階数: 4階建
構造: S造
施工: 2019年以降
尾崎氏

尾崎泰永(おざきやすのり)
1981年徳島県生まれ。
2008年千葉大学大学院自然科学研究科(建築系)博士前期課程修了。 古市徹雄都市建築研究所、宮本忠長建築設計事務所(長野)勤務を経て、2014年〜尾崎建築事務所。 2016-2017年千葉大学キャンパス整備企画室室員。