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光と人間
公開日 2026.04.20

記憶力はなぜセロトニンで高まる?脳と記憶の科学的な関係 

記憶力はなぜセロトニンで高まる?脳と記憶の科学的な関係 

はじめに

私たちの人生を彩る大切な宝物、それが記憶です。日々の暮らしも、大切な思い出も、すべては記憶があってこそ意味を持ちます。

しかし最近では、スマートフォンに頼りがちな生活により、「自分の頭で覚える」機会が減ってきているように感じます。また、年齢とともに記憶力の衰えも気になってくるものです。

脳内のマルチプレイヤー「セロトニン」

皆さんは「幸せホルモン」という言葉を聞いたことがありますか?

実は、これが今回お話しする「セロトニン」の別名なのです。セロトニンは、私たちの心と体のバランスを整える大事な脳内物質です。毎日の気分の変化や、心地よい眠り、おいしく食事を楽しむ感覚—これらはすべて、セロトニンの働きと深く結びついています。

面白いことに、セロトニンは脳の中のあちこちで「万能選手」のように活躍しています。 特に「縫線核」という場所で作られたセロトニンは、まるで小包を届けるように、脳の様々な部分へと運ばれていきます。その行き届いた範囲の広さから、「脳内のマルチプレイヤー」とも呼ばれることがあります。

では、セロトニンはどうやって私たちの脳に働きかけているのでしょうか?
実は脳の中には、セロトニンを受け取る専用の「受容体」という窓口があります。中でも「5-HT1A」や「5-HT4」という受容体は、記憶力や学習能力と特に関係が深いことが分かってきました。

記憶力を高めるセロトニンのはたらき

私たちの記憶力を支えるセロトニンについて、最新の研究でそのメカニズムが徐々に明らかになってきました。特に注目されているのが、記憶の中枢である「海馬」での働きや、脳神経細胞のネットワークを強化する効果、そして新しい神経細胞を生み出す力です。

①海馬でのはたらき

私たちが新しい情報を記憶として定着させるときに、大事な役割を果たすのが海馬です。セロトニンは、この海馬の中で神経細胞同士の情報伝達をスムーズにする働きがあります(Coray and Quednow, 2022)。具体的には、神経細胞同士の接続部分である「シナプス」での情報のやり取りを助けているのです。

そして、セロトニンは「5-HT4受容体」という特殊な窓口を通じて神経細胞に信号を送ることで、記憶力を向上させることがわかってきました。実際、マウスの5-HT4受容体」に光で刺激を与えてセロトニンの働きを活性化すると、マウスの記憶力が良くなったという研究結果も報告されています(Teixeira et al., 2018)。

②神経細胞のつながりを強くする

記憶というのは、神経細胞同士のつながりが強化されることで形作られます。この仕組みを専門的には「シナプス可塑性」と呼んでいます。セロトニンは、このシナプス可塑性を高める効果があり、いわば神経細胞同士の「対話」をより活発にする働きがあるのです(Cowen and Sherwood, 2013)。

特に「5-HT1A」や「5-HT4」という受容体を介して、セロトニンはこの神経細胞間のつながりを強化します(Coray and Quednow, 2022)。これによって、私たちの脳は新しい情報をしっかりと記憶として留めることができるようになるのです。

③新しい神経細胞を作り出す

セロトニンには、もうひとつ重要な働きがあります。それは新しい神経細胞を作り出す「神経新生」を促進する力です。特に海馬では、この神経新生が活発に行われており、これによって私たちの記憶力や学習能力が支えられています(Smith et al., 2023)。

この過程で、セロトニンは「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質の分泌を増やします。BDNFは神経細胞の成長を助ける栄養素のような役割を果たし、セロトニンと協力して記憶力の向上に貢献しています(Coray and Quednow, 2022)。

このように、セロトニンは、神経細胞同士のコミュニケーションを活発にし、新しい神経細胞を生み出すことで、私たちの記憶力を支えているのです。

おわりに

セロトニンは、脳の中で神経細胞のネットワークを強くしたり、新しい神経細胞を生み出したりすることで、日々の記憶や学習をサポートしてくれています。特に、記憶の中枢である「海馬」でセロトニンが活発に働くことで、新しい情報がスムーズに整理され、自然と頭に残りやすくなるのです。

では、このセロトニンを増やすにはどうしたらいいのでしょうか?実は、とても身近な方法があります。朝の散歩で日光を浴びたり、日中にちょっと外に出て自然光を感じたりするだけでも、セロトニンの生成が促されるのです。

在宅時間が増えた今、室内で過ごすことも多くなりましたが、自然光をしっかり取り入れた<明るい窓辺>で過ごすことも大切です。それに加えて、適度な運動や、バランスの良い食事、質の良い睡眠も、セロトニンの分泌を後押ししてくれます。 情報があふれ、記憶力の低下が気になる現代だからこそ、こういった小さな習慣の積み重ねが大切になってきます。光と上手に付き合いながら生活リズムを整えることで、気持ちが前向きになり、物事が頭に入りやすくなる…そんな心地よい変化を、日々の暮らしの中で感じてみませんか?


【参考文献】

Coray, R., & Quednow, B. B. (2022). The role of serotonin in declarative memory: A systematic review of animal and human research. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 138, 104729. DOI: 10.1016/j.neubiorev.2022.10472

Cowen, P., & Sherwood, A. C. (2013). The role of serotonin in cognitive function: Evidence from recent studies and implications for understanding depression. Journal of Psychopharmacology, 27(7), 575–583. DOI: 10.1177/0269881113482531

Meneses, A. (2015). Serotonin, neural markers, and memory. Frontiers in Pharmacology, 6, 143. DOI: 10.3389/fphar.2015.00143

Smith, G. S., Kuwabara, H., Yan, H., Nassery, N., Yoon, M., Kamath, V., … & Leoutsakos, J. M. (2023). Serotonin degeneration and amyloid-β deposition in mild cognitive impairment: Relationship to cognitive deficits. Journal of Alzheimer’s Disease. DOI: 10.3233/JAD-230123

Teixeira, C. M., Pomedli, S. R., Maei, H. R., Kee, N., & Frankland, P. W. (2018). Involvement of the serotonergic system in hippocampal-dependent memory formation. The Journal of Neuroscience, 38(4), 1021–1032. DOI: 10.1523/JNEUROSCI.3279-17.2018

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。

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