留守番中の犬や猫・ペットの光環境|セロトニンと明るさの関係
はじめに
留守番中の犬や猫が、今日どんな光の中にいたか。意識したことはあるでしょうか。
ペットの健康というと、食事や運動、睡眠がまず頭に浮かびます。でも、その子が一日をどんな光の中で過ごしているかは、あまり意識されません。カーテンを閉めたまま出かけていないか。窓辺に行ける場所があるか。そうしたことを、立ち止まって考えたことはあるでしょうか。
この記事では、ペットと光、そしてセロトニンの関係をたどりながら、留守番中の犬や猫のために飼い主ができることを考えていきます。
室内は、思っているより「薄暗い」
光の強さは「ルクス」という単位で測ります。晴れた日の屋外は10,000〜100,000ルクス、曇りでも数千ルクス程度あります。では、室内は? 一般的な家庭の昼間の明るさは100〜500ルクス程度です。カーテンを閉めれば、それ以下になります。

つまり、私たちが「明るい部屋」と感じている空間でも、光の量として見れば屋外の100分の1以下であることも珍しくありません。天井照明がついていても、体が「昼だ」と認識するには、思った以上に光が足りていない可能性があります。
飼い主が外出しているあいだ、犬や猫はその部屋で何時間も過ごします。カーテンが開いているか。窓辺に行ける場所があるか。そうした小さな違いが、ペットが一日に受け取る光の量を大きく変えているかもしれません。
光は「いま何時か」を体に伝える
太陽の光は、ものを見るためだけに使われているわけではありません。目に入った光の情報は、視神経から脳内の体内時計へと届き、「いまは昼だ」「動く時間だ」というリズムを刻みます。そのリズムに呼応して、セロトニンの分泌も変化します。
セロトニンは、穏やかな気分や落ち着いた行動に関わる神経伝達物質として知られています。日中に光を浴びることがセロトニンの働きを高めることは、人間では広く知られていますが、この仕組みは人間だけのものではありません。
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犬の目にも、光を体内時計へ直接届けるための特殊な神経細胞があることが報告されています(Yeh et al., 2017)。猫でも、網膜からセロトニン神経へとつながる経路が確認されています(Foote et al., 1978)。つまり、犬や猫にとっても、光は「いまは昼だ」という情報を体に伝える合図であり、活動のリズムや気分の安定と無関係ではないと考えられます。
逆に言えば、日中に十分な光が届かない環境は、ペットの体にとって「昼なのか夜なのかわからない」状態を生み出しているかもしれません。
セロトニンと、ペットの情緒の安定
日中の光が少ない環境が犬や猫の行動にどう影響するか、まず大切なのは話を単純にしすぎないことです。
犬が落ち着かない、吠えやすい、攻撃的になる。猫が隠れがちになる、緊張して見える。こうした行動には、性格、社会化の経験、運動量、飼い主との関係、音、温度など、いくつもの要因が重なっています。光だけで説明できるものではありません。

ただ、そのなかでセロトニンの役割は小さくありません。攻撃性を示す犬では、そうでない犬と比べて血清セロトニン濃度が低いことが複数の研究で報告されています(León et al., 2012; Amat et al., 2013)。「セロトニンが低いから攻撃的になる」と言い切ることはできませんが、少なくとも、セロトニンが犬の行動に関わっていることは見えてきます。
猫についても、光環境とストレス反応の関係を示す研究があります。シェルターで暮らす猫を対象にした調査では、光の質や強さが変わることで、ストレスホルモンの値や物陰に潜む行動に変化が見られました(Yaw et al., 2025)。どのような光の中で過ごすかが、猫の緊張と安心に関わっている可能性があります。
まず見直したいのは、窓から入る光
日中の光が大切だとしても、特別な設備は必要ありません。まず確かめたいのは、ペットが留守番中に過ごす部屋に、自然光が少しでも入っているかどうかです。
出かける前にカーテンを少し開けておく。窓辺に犬や猫が安心して過ごせる場所をつくる。夏の強い日差しには、日陰と水、そして自分で移動できる逃げ場を残しておく。大切なのは「明るい場所に置きっぱなしにする」ことではなく、「暗すぎる部屋に閉じ込めない」ことです。
「紫外線カットガラスだから意味がないのでは?」という疑問もあるかもしれません。しかし、体内時計やセロトニンに関わる光の情報は紫外線で決まるわけではありません。目に届く可視光線が、体にとっての「昼の合図」になります。窓越しの光は屋外より弱くても、完全な暗がりとはまったく違うのです。
また、一般的な透明窓ガラスは、必要な可視光線は取り入れることはできますが、近赤外線も透過するため過剰な日射熱を抑えることができません。窓辺の光と熱の環境を整えるために、日射熱取得率が低い、遮熱性に優れるLow-E複層ガラス<日射遮蔽型>などの選定も有効です。
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人間の研究では、日中を通して明るい環境に身を置くことが、セロトニンの産生を継続的に支えることが示されています。朝だけでなく、日中も「脳に昼だという合図を送り続けること」が重要だという考え方は、ペットの光環境を考えるうえでも参考になります。
おわりに ~光は、いちばん身近な環境づくり~
ペットの健康管理というと、食事や運動、睡眠、しつけに目が向きます。けれど、留守番中にどんな光の中で過ごしているかも、暮らしを支える大切な条件のひとつです。
カーテンを開けたからといって、不安や行動の問題がすべて解決するわけではありません。それでも、部屋が暗すぎないか、日中の光を感じられる場所があるか、暑い窓辺から逃げられるか。そうした視点で部屋を見渡してみると、見えなかったものが見えてくることがあります。

ペットは暗さを感じても、それを言葉にすることができません。だからこそ、カーテンを少し開けておく。光の届く場所をつくっておく。それが、いちばん身近な環境づくりかもしれません。
【参考文献】
Amat, M., Le Brech, S., Camps, T., Torrente, C., Mariotti, V. M., Ruiz, J. L., & Manteca, X. (2013). Differences in serotonin serum concentration between aggressive English cocker spaniels and aggressive dogs of other breeds. Journal of Veterinary Behavior, 8(1), 19–25. https://doi.org/10.1016/j.jveb.2012.04.003
Foote, W. E., Taber-Pierce, E., & Edwards, L. (1978). Evidence for a retinal projection to the midbrain raphe of the cat. Brain Research, 156, 135–140.
León, M., Rosado, B., García-Belengüer, S., Chacón, G., Villegas, A., & Palacio, J. (2012). Assessment of serotonin in serum, plasma, and platelets of aggressive dogs. Journal of Veterinary Behavior, 7(6), 348–352. https://doi.org/10.1016/j.jveb.2012.01.005
Yaw, A. M., Gardella, M. E., Jacobs, J., & Hoffmann, H. M. (2025). Light quality and time in shelter modulate behavior and cortisol in the domestic cat (Felis catus). iScience, 28(6), 112709. https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.112709
Yeh, C. Y., Koehl, K. L., Harman, C. D., Iwabe, S., Guzman, J. M., Petersen-Jones, S. M., Kardon, R. H., & Komáromy, A. M. (2017). Assessment of rod, cone, and intrinsically photosensitive retinal ganglion cell contributions to the canine chromatic pupillary response. Investigative Ophthalmology & Visual Science, 58(1), 145–154. https://doi.org/10.1167/iovs.16-19865

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)
博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。