Case 9:

《小さな経済》の住宅群

設計:仲建築設計スタジオ
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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人は生活をするために働くが、その働き方は時代とともに変わっていく。今後は自分の好きなことを仕事にする人が増えていくだろう。また在宅勤務が増えていくだろう。それによって都市や建築も変わっていく。

建築家の仲俊治氏が手掛けているのはオーナー住宅や事務所、アパート、工房からなるプロジェクトだ。計画地は東京都目黒区にある土地だ。角地にあり約200㎡の広さがある。

外観のイメージパースを見ると、1階に3つの空間が並んでいる。角地を活かして2つの通りに開いているのは作業スペースと工房であり、工房の壁には工具を並べる棚がある。工房では小さな工作スクールを開き、簡単な修理を請け負う。他の2つのユニットは屋根付きテラスとスタジオ、個室で構成されており、スタジオのキッチンを使い、屋根付きのテラスの下にテーブルを並べればカフェとして使用することもできる。工房やスタジオは「自分の好きなことを仕事にする」ための空間である。
仲氏は生業(なりわい)以外に趣味や特技などを活かした少額の金銭を伴うやりとりをテコに住宅を変えていけないかと考えており、その空間化を試みようとしている。「個人ベースのものが分厚くなってきていると感じている。消費者としてだけ存在しているわけではなく、小さな思いをクリエーションにつないでいく。それに見合った生活環境をつくっていきたい。その結果建築が開かれる」。
インターネット上にはハンドメイド商品を個人間で取引するサイトもあり、「小さな思い」を共有しやすい環境は整ってきている。そのような環境がリアルな場でもあれば「小さな思い」の共有が地域内でできるだろう。

パブリックな空間とプライベートな空間の間に中間領域を設け、住宅にグラデーショナルな生活環境を織り込むことで地域とつながる。

作業スペースと工房は通りと居住空間全体をつなぐ中間領域に位置付けられている。スタジオは住戸内の共用部である屋根付きテラスとプライベート空間の間に設けられた中間領域である。仕事や趣味・特技などが居住空間の延長でできるようにしているのだ。住戸の内側には仕切りがあり、その奥にプライベート空間の寝室やサニタリーなどを配置する。「いままでプライベートだけだった住宅が外向きと内向きの場所を持ち、内向きの場所はより内向きになっていっていい。またオーナー住戸もアパートも空間の原理は同じ。だからオーナー住戸もアパートも同じつくりにする」。

パブリックな空間があり、共用部があり、中間領域があり、プライベートな空間がある。このようなグラデーショナルな生活環境を住宅に織り込んでいくことで地域とつながっている感覚を失わないで生活していけると仲氏は考えているのだ。
また仲氏にはプログラム的なアプローチと環境的なアプローチを掛け算していくと新しい生活環境がつくれるのではないかという予感もある。今回のプロジェクトでは環境的アプローチの比率を上げていき、開かれているが環境にやさしいということを追求したいと語る。
「木陰で涼んでいる人を見かけた人は声をかける。自然がつくりだす空間性が自然な人付き合いや交流をもたらす」。
若い世代は未来の予感を肌感覚から得るものだが、それが強くなっていると感じている。また未来の予感の試行錯誤は小さなものから始まり、形になり静かに広がっていく。

《小さな経済》の住宅群
所在地: 東京都目黒区
建築主: 個人
用途: 集合住宅、オーナー住戸、工房
設計: 仲俊治・宇野悠里/仲建築設計スタジオ
建築面積: 約140㎡
延べ面積: 約260㎡
階数: 2階
主体構造: 木造+鉄骨造
工事予定期間: 2016年4月~
仲俊治

仲 俊治 (なか としはる)
建築家、仲建築設計スタジオ共同主宰
1976年 京都府生まれ
1999年 東京大学工学部建築学科 卒業
2001年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修了
2001-08年 山本理顕設計工場
2009年 建築設計モノブモン設立
2012年 仲建築設計スタジオに改組

宇野悠里

宇野 悠里 (うの ゆり)
建築家、仲建築設計スタジオ共同主宰
1976年 東京都生まれ
1999年 東京大学工学部建築学科 卒業
2001年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修了
2001-13年 日本設計
2013年- 仲建築設計スタジオ







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