Javascript is disabled.



Case 8:

Printmaking Studio/FMC

設計:中山英之建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




    …クリックすると具体的な詳細が表示されます。

新しい楽しさは新しい人間関係から生まれてくる。新しい人間関係は多様な価値観を受け入れることで広がっていく。

建築家の中山英之氏が手掛けているのはベルギーの田舎町カステルレーにあるアーティスト・イン・レジデンスのスタジオ増築計画だ。フランス・マセリールという版画家の名前を冠した公共の版画専門のアーティスト・イン・レジデンスである。パリに事務所を構える建築家のイド・アヴィサール氏と設計チームを組み、コンペで選ばれた。

既存のアーティスト・イン・レジデンスは幾何形態の宿泊棟やアトリエ棟などで構成されている。オランダの国境に近く、周辺はフランダース地方の田園地帯が広がる。今回の敷地はドーム型をした主アトリエ棟の脇の約80m×40mの空き地だ。
スタジオはRC造(一部木造)の平屋建てであり、主アトリエ棟と接続させる。プログラムはギャラリー、印刷機械が並ぶアトリエ、木工工房、アーカイブ室、暗室付きスタジオ、レセプションなどで構成されている。
外観は単純な幾何形体の既存棟と親和性があるように、ガラスのシリンダーの上に円錐形の屋根を載せた立体をベースとしている。それをケーキにナイフを入れて切り分けるようにして、内部空間相互の関係性の濃淡、必要とされている面積などを考慮しながら、形を決めていった。スタジオの平面はそのような操作によって生まれた不整形な手のひらのような形態をしている。平面の中心はどの空間にもつながるが、少し切り取ったところは相互につながり、深く切り取ったところは独立性が高くなる。結果的に内部は建物の構造そのものが不可避的に壁を生み出してしまうような造形が生まれた。
シリンダーと円錐を組み合わせた立体に切り込みを入れると、切り口に切妻型が現れる。この切り口をレンガ造にすると周辺の田園地帯に建つ民家や納屋のシルエットを思わせる様々なプロポーションと大きさの家の形が並ぶことになる。

建築家が自分の世界観をすきなくつくり込んでいくのではなく、手前の仕組みを考え、オーガナイズしてバランスをうまくとるという新しい建築のつくり方。

中山氏は自分自身の考え方の構造が更新されるようなアイデアを思いついた瞬間が楽しいという。考え方をまとめていくということではなく、考えることがゼロから始まるような考え方を見つける。そういうイメージだ。

「コラボレーションの仕事はこちらの意図を通すばかりではきっとうまくいかない。そんなぼんやりとした不安がこの建築の考え方を思いつかせた」。形の生まれ方さえ共有していれば、現地の風土や風景、レンガの種類や目地のとりかたなどをよく知る共同設計者に、判断の多くを委ねてしまったほうがいい、という姿勢だ。「普段なら選ばないような窓枠でも、それが現地の判断であれば、そのほうが建築として筋が通ったものになる」。
中山氏はこのプロジェクトの表現は、「つくる」よりも「現れる」ものであると感じている、と話す。「ケーキの切り方を工夫することが建築家の仕事としたら、なかからでてくる色や形は、現れるようなもの。ケーキそのものはアノニマスなものであっても、それを用心深くカットするバランスは建築家としてのだいじな仕事になる」。
ひとりの建築家が自分の世界観をすきなくつくり込んでいくのではなく、他者と共有できる手前の仕組みを考えることで新しい表現が生まれる。このような建築のつくり方を思いついたのが今回のプロジェクトの楽しさである。

Printmaking Studio/FMC
所在地: カステルレー(ベルギー)
発注主: Agentschap Kunsten en Erfgoed
用途: アーティスト・イン・レジデンス
設計: 中山英之建築設計事務所 + LIST
構造設計: BOLLINGER + GROHMANN
設備設計: Bureau Bouwtechniek
工事予定期間: 2016年~
主体構造: RC造(一部木造)1階
建築面積: 約400㎡
延床面積: 約400㎡
中山 英之

中山 英之 (なかやま ひでゆき)
1972 福岡県生まれ
1998 東京藝術大学 美術学部 建築科 卒業
2000 東京藝術大学大学院 美術研究科 建築専攻 修士課程 修了
2000 - 07 株式会社 伊東豊雄建築設計事務所 勤務
2007 - 株式会社 中山英之建築設計事務所 設立
2008 - 09 東京電機大学 非常勤講師
2009 - 12 昭和女子大学 非常勤講師
2009 - 12 東京藝術大学 非常勤講師
2010 - 12 東北大学 非常勤講師
2013 横浜国立大学 非常勤講師
2014 - 東京藝術大学美術学部建築科 准教授 就任

Ido Avissar イド・アヴィサール
1972 イスラエル・テルアヴィヴ生まれ
2003 パリ・マラケ建築大学卒業
2003-2009 l'AUC 勤務
2009-2012 GRAU共同設立
2012- LIST 設立







※関連コンテンツ: AGC studio WEB デザインフォーラムレポート 
第66回 「新しい建築の楽しさ2015」展 連動企画③「署名されたアノニマス」