Case 18:

土佐市複合文化施設

設計:MARU。architecture
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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かつて、街道筋が東西に走り、南北に流れる川に舟運ルートがあった高知県。その「ミチの文化」を空間に展開しようとする複合文化施設。

MARU。architectureの高野洋平氏と森田祥子氏が手掛けているのは複合文化施設だ。2015年に高知県土佐市が実施したプロポーザルに地元の聖建築研究所とJVを組んで応募し、最優秀者に選ばれた。

図書館、ホール、公民館、社会福祉協議会、商工会の5つの施設を合築するという複合施設に対して、高野氏と森田氏がテーマに掲げたのは「ミチの文化」である。
「高知県では街道筋が東西に走っている。また山から海に向かって南北に川が流れており、かつては物流のルートとして活用されていた。そしてその中心に町の文化が形成されていた。そのようなミチの文化をこの施設の中でも展開できないかと考えた」(森田氏)。
規模は地下1階地上3階、延べ床面積約約9,000㎡だ。地下は免振層とするとともに、駐車場にする。
1階はホール、スタジオ兼楽屋、郷土資料の収蔵庫などを配している。全体を大きなエントランスという位置づけにし、エントランスホールなどをミチの空間として展開させ、史料と図書などを混ぜ合わせて展示し、2階まで展開させている。また隣接地の小学校側にも出入り口を設けており、自由に通り抜けられるようにしている。
2階は全体的に図書館になっており、ホールの2階席は図書館のラウンジ的な閲覧室としても使用する。
3階は事務機能や公民館機能が中心だが、小さな部屋やコーナーを設け、様々な活動がミチの空間に現れるようにする。

各所に「ミチの空間」を設けてまちとつなぎ、パブリックスペースのなかにプライベートスペースをつくることで人々が交流する場が生まれる。

建物の中にミチを取り込み、まちとつなぐとともに活動が内外に溢れ出すことを意図している。エントランスホールなどの共用空間をミチと位置づけ、ミセに見立てた5つの施設の機能の様々な部屋をミチに沿って展開させて、人々が交流する場になるようなプランニングにしている。ミセは密度の高い空間にするため地元の職人の技術を生かして木造でつくり、壁面などに利用者が手を加えられるようにする予定だ。
「異なるものをなじませながらつないでいくのがミチではないか。すべての部分が場所になるような路地的な空間をたくさんつくっていく」(高野氏)。

市民の代表者で構成された、福祉、商工、集会、図書、郷土展示、ホールの6つの部会をつくり、ワークショップなどを行いながら使い方や運営の検討を進めている。
「使う人が入ってくる余地をつくりたい。私たちがつくった空間で完結してしまうと与えられたものになってしまう。公共のものなのだから、皆のものでもあるし、個人のものでもある。個人が獲得できる領域性みたいなスケールに落としていきたい」(森田氏)。
「人を育てていくことと仕組みを皆でつくっていくことが重要だ。ミチの文化という考えが将来に伝わっていかなかったら、提案している使い方ができなくなるかもしれない。理念を運営のルールなどにフィードバックしていくことを設計と一緒にやることが大切だ」(高野氏)
利用者が使いながら工夫を加えて場所を変えることができる。お気に入りの場所を見つけられるスケール感にする。パブリックスペースのなかにプライベートスペースをつくれる空間的な仕組みをつくろうとしているようだ。そしてその先に市民協働で文化をはぐくむことを目指している。

土佐市複合文化施設
所在地: 高知県土佐市
主要用途: 図書館、ホール、集会、商工会、社会福祉協議会
設計: MARU。Architecture + 聖建築研究所
建築面積: 約2,600㎡
延床面積: 約9,000㎡
階数: 地上3階、地下1階
主体構造: S造一部RC造
工事予定期間: 2019年完成予定
高野 洋平

高野 洋平 (たかの ようへい)
1979年 愛知県生まれ
2003年 千葉大学大学院修士課程修了
2003年 佐藤総合計画
2013年~ MARU。architecture共同主宰
2013年~2016年 千葉大学大学院博士課程
2015年~ 伊東建築塾講師


森田 祥子

森田 祥子 (もりた さちこ)
1982年 茨城県生まれ
2008年 早稲田大学大学院修士課程修了
2010年~2013年 NASCA
2010年 MARU。architecture設立
2011年~2014年 東京大学特任研究員
2013年~ MARU。architecture共同主宰