Case 19:

あいちトリエンナーレ2016
豊橋会場プロジェクト

設計:山岸綾 / サイクル・アーキテクツ
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

作品画像


    …クリックすると具体的な詳細が表示されます。

まちなかを会場とする芸術祭とは、アートをテーマに仮設の街をつくること。建築家は、様々な仮設の街を試みることができる。

サイクル・アーキテクツの山岸綾氏が手掛けているのは、あいちトリエンナーレ2016の豊橋会場だ。あいちトリエンナーレは2010年から始まった愛知県で開催される現代美術と舞台芸術からなるアートの祭典だ。

あいちトリエンナーレ2016の全体のテーマは「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」だ。芸術監督は写真家・著述家の港千尋氏が務める。アーチストは国内外の様々な地域、ジャンルの100組以上が参加する。期間は2016年8月11日から10月23日までだ。主な会場は愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、そして名古屋市、豊橋市、岡崎市のまちなかである。
豊橋市は市内を路面電車が走る、愛知県南東部の中規模の地方都市だ。豊橋会場はJR豊橋駅前の公共施設や駅前大通り、民間ビルの空き室・空き店舗を会場にする。
山岸氏は越後妻有アートトリエンナーレで古い木造校舎をコンバージョンした 「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」などを手掛けている。2つの芸術祭の違いを次のように語る。
「妻有は作品間の距離がある。途中の景色を楽しみながらポイントで記憶に残っていく。豊橋はコンパクトで建物内外の差が小さく、内外が接続されているという印象がある。まちなかを歩くことと一緒に楽しむことになるため、それぞれの会場が最初に目にどう入ってくるかという観点から建物内外の動線を検討している」。

訪問者はまちなかの雑踏から芸術祭の時期だけに現れる大小様々な異空間に入っていく。そして、訪問者にも街にも変化が起こる。

豊橋会場で使用される民間ビルは大豊ビル、開発ビル、はざまビル大場の3つだ。大豊ビルは3階(一部4階)建て長屋であり、両サイドにアーケードがついており、1階の店舗は両側から出入りできるつくりになっている。地元で「水上ビル」と言われているビル群のひとつであり、高度経済成長期に農業用水路にふたをして建てられた。「水上ビル」全体は約8mの用水路の幅のまま、約800mの長さで細長く板状に建ち並んでいる。開発ビルは、元は下がデパートで上はボウリング場だったが、現在は貸オフィス、店舗、小さなホールなどになっている。 階によって印象が異なり、迷宮感があるそうだ。はざまビル大場は店舗併用住宅であり、1、2階が店舗になっている。

これらの会場は徒歩約5分圏内にある。展示空間の広さは約9㎡から約1000㎡まであり、トータルは約3700㎡だ。天井高は2.2mから最大4mまである。
訪問者はまちなかの雑踏から芸術祭の時期だけに現れる大小様々な異空間に入っていくことになる。
山岸氏は作家やキュレーター、所有者などと協議し、地域の協力を得ながら様々な展示空間や動線を整えていく作業を続けている。このように建築家の役割は裏方だが、会場全体、言い換えれば街を把握できる。
「芸術祭の期間中、街の訪問者に変化が起こる。街中の複数の空間に同時多発的に手を入れ、たくさんの人が来ることで次につながっていくようにはしたい。トリエンナーレをきっかけにひとつでもいい店ができるだけで人の流れが変わる」。
芸術祭はアートをテーマに仮設の街をつくることではないか。多くの地方都市の中心市街地は空洞化や老朽化などの課題を抱えている。仮設の街のテーマはアートだけではなく多様であり、様々な仮設の街を試みることが可能だ。試みることで未来の街は生まれてくる。

あいちトリエンナーレ2016 豊橋会場プロジェクト
所在地: 愛知県豊橋市(PLAT会場、水上ビル会場、豊橋駅前大通会場)
事業主: あいちトリエンナーレ実行委員会
用途: 国際芸術祭の会場
整備面積: 約3,700㎡
工事予定期間: 2016年8月完成予定
山岸綾

山岸 綾 (やまぎし あや)
1973  宮城県生まれ
1996  早稲田大学理工学研究科修士課程修了
1997-2006 原広司+アトリエ・ファイ建築研究所
2006  サイクル・アーキテクツ設立
2010-2013 早稲田大学非常勤講師
2013-2016 千葉大学非常勤講師
2014-   工学院大学非常勤講師
2015-   法政大学非常勤講師
http://www.cycle-architects.com