Case 20:

千葉の宅幼老所

設計:山崎健太郎デザインワークショップ
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

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子供と高齢者が一緒に過ごす空間、小さな生業の場としての宅幼老所プロジェクト。地域全体で助け合い、介護するような環境づくりに建築は何ができるか。

山崎健太郎氏が手掛けているのは宅幼老所だ。
計画地は千葉県にあり、周辺には小学校や幼稚園、団地などがある。計画地は市街化調整区域内にあり、西側は崖条例の規制がかかっている。それをよけたL字型のエリアを使用する。北東側の接道面を駐車場にするとともにメインのアプローチを設ける。崖条例の規制があるエリアは畑とする。

クライアントは40代であり、10年間介護事業所を運営し、普通の家のように過ごせる介護を実践している。その要望は「介護施設のような空間にはしたくない」である。
用途の中心は小規模多機能型居宅介護施設であり、デイサービス、宿泊サービス、訪問介護などを提供する。さらにこども食堂や障害者の就労支援スペースとして工房を加え、ヤギ小屋も併設する。
建物は南北に約40mの、直線状に続く縁側のような佇まいの空間になっている。その全体を軒高約4mの大屋根で覆い、一体感をつくっており、その下に各部屋を並べている。全体中央の東側に玄関を設け、全体の南側ゾーンの真ん中に大きめのキッチンカウンターを区画せずに配置し、こども食堂としても利用できるようにしている。その両側にダイニングとリビングを設けている。また全体の北側ゾーンに寝室や浴室などを配置している。工房とヤギ小屋は建物の両端に設けている。
畑の作業は地域の人たちや子供たちのサポートを受け入れて行う。収穫された野菜などはこども食堂の食材として使用、並びに加工販売する。工房では染め物などの制作販売を行う予定だ。飼育するヤギは草取りやセラピー的な要素を期待している。

人が集まるパブリックな空間のなかにプライベートな空間、「居場所」をつくる。それは、人との関わり方のきっかけになるような建築空間を考えることだ。

「居場所をつくるような感覚で、様々な人が関われるような状況を建築の計画を通してつくっていきたい」と山崎氏は語る。

上棟や木工事、床の仕上げなどは大工に依頼するが、外壁は地域の人たちや子供たちの協力も得てつくる予定だ。わらを圧縮して固めたブロックを積み、竹で緊結して土を塗るストローベイル工法を提案しており、ワークショップを行ってつくる。
「自分たちでつくれるところはつくる。介護もそういうものではないかと思うようになった。クライアントたちができることはやっていこうという姿勢をもっているのであれば一緒にやっていくことを技術的な部分で提案するのは建築家の役割ではないか」という山崎氏の問題意識からの提案だ。
寝室や浴室、トイレなどのゾーン以外は地域に開かれている。そこに行けば誰かがいるという状況をつくろうとしているわけだが、外壁の厚さを活用して壁際にひとりで佇み、畑などを眺められるようなスペースも仕込んでいく。一体感があるパブリック空間のなかにプライベートな空間をつくるための工夫もしようとしているのだ。
「介護は人との関わり方だ。建築空間が関わり方のきっかけをつくるということにおいて、どういう場所がいいかは難しい問題だ。人が集まるスペースはつくれるが、居場所になりづらいというのは考えるべきことのひとつである」と山崎氏は話す。
子供と高齢者が一緒に過ごす空間や小さな生業の場をつくろうとしている。また介護というテーマと向かい合うことで建築を見直そうとしている。その先に地域全体で助け合い、介護するような状況をつくることを目指している。

千葉の宅幼老所
所在地: 千葉県
用途: 宅幼老所
(小規模多機能型居宅介護施設)
設計: 山﨑健太郎デザインワークショップ
建築面積: 464.75㎡
延床面積: 282.22㎡
階数: 平屋
主体構造: 木造
工事予定期間: 2017年6月~2018年2月
山﨑 健太郎

山﨑 健太郎 (やまざき けんたろう)
1976年千葉県生まれ。
2002年工学院大学大学院建築学専攻修了、株式会社入江三宅設計事務所を経て、2008年山﨑健太郎デザインワークショップ設立。2014年工学院大学非常勤講師。2015年日本建築学会作品選集新人賞受賞。2015年AR Emerging Architecture Awards(ロンドン)。2015年グッドデザイン賞ベスト100 +未来づくりデザイン賞。