Case 30:

近鉄結崎駅周辺整備計画事業(仮称)

設計:ICHIBANSEN / nextstations
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)

作品画像
©Yasuyuki KAWANISHI + ICHIBANSEN / nextstations


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子育て世代を増やし、人口減少の下げ止まりをめざす駅前整備計画。まちの顔でもある駅をプレゼンの場にして、その魅力をアピールする。

ICHIBANSEN / nextstationsの川西康之氏が手掛けているのは奈良県川西町にある近鉄橿原線・結崎駅周辺整備計画だ。

川西町の人口は約8700人。奈良盆地のほぼ真ん中に位置しており、昭和40年代にベッドタウンとして開発された。ただ近年は団塊世代ジュニアである30代40代の世代が町外に流失し、少子・高齢化と人口減少が進んでいる。
結崎駅の1日の乗降客数は約4000人。利用者の多くは大阪や京都への通勤、通学客だが、この10年で約1000人減っている。
結崎駅は相対式2面2線のホームの地上駅であり、南西の角に駅舎がある。改札口は駅舎がある西側1か所、構内踏切で東側のホームと連絡している。運行本数は4両編成の各駅停車が1時間に3~4本である。
駅前は住宅地であり、小さなロータリーがある。北西の位置に佐々木塚古墳が残り、公園が整備されている。駅の東側にはスーパーや銀行などがある。駅を挟んで南北に踏切がある。
「コンパクトシティだが、駅周辺に買物以外に子供を連れて行く場所が少ない。駅舎の位置を変え、駅に子育て世代のたまり場をつくりたい。子育て世代を増やし、人口減少を止めたい」(川西氏)。

駅前広場と駅舎を一体化し、そこにできる大きな屋根の下にキッズカフェ、託児所、ショップなどの機能を入れ、子育て世代の"たまり場"をつくる。

2016年8月から2017年2月まで川西町は結崎駅周辺整備をテーマにしたフューチャーセッションを実施した。子育て世代を対象にした町民の見えないニーズをくみ取るためだ。駅の両側の新しいつなぎかたや駅に加える新しい機能などを議論した。町民からは、橋上駅舎ではなく構内踏切案に賛成する声が多く聞かれた。小さなまち、小さな駅だからこそ、町民の声なき声を反映できる。

「通過する電車から駅で子供たちがいきいき遊んでいる様子が見えるようにする。子育てしやすそう。結崎に住んでみたい。駅をプレゼンの場にする」(川西氏)。
構想では、駅舎の位置を北西に移動させ、東側ホームに改札口を新設する。駅前広場と駅が一体となる大きな屋根の下に、キッズカフェや託児所、直売所、ショップなどを配置する。
「大屋根広場のなかに機能を入れる。雨宿りする場所が生まれ、ベビーカーや車椅子で快適に生活できるまちにする」(川西氏)。
2017年に基本計画が終了し、2020年に完成予定だ。人口減少社会では必然的に鉄道の利用者は減少する。ただ個別の駅の利用者を増やしていくことはできるはずだ。
住みたいまちのイメージのひとつは駅周辺の通りや広場の文化がつくっている。それは歩いて気持ちのいい生活の質である。また駅はまちの顔であり、そのデザインの質も住みたいまちのイメージに影響を与える。

近鉄結崎駅周辺整備計画事業(仮称)
事業主: 奈良県川西町
所在地: 奈良県川西町結崎
用途: 鉄道駅ほか
竣工予定: 2020年以降
川西氏

川西 康之 (かわにし やすゆき)
1976年(昭和51年)奈良県生まれ。
千葉大学大学院自然科学研究科デザイン科学(建築系)博士前期課程修了。デンマーク王立芸術アカデミー建築学科招待学生。オランダDRFTWD office Amsterdam、SNCF-AREPフランス国有鉄道交通拠点整備研究所(文化庁派遣新進芸術家制度による)、株式会社栗生総合計画事務所、CUT (Chiba University Team) 共同主宰を経て、現在以下を歴任;株式会社イチバンセン ICHIBANSEN / nextstations 代表取締役、国立大学法人 千葉大学工学部建築学科 非常勤講師、設計組織 nextstations 共同主宰、高知県産業振興アドバイザー 静岡県小山町アドバイザー、高知県広報誌「とさぶし」編集委員、日本建築学会、日本全国スギダラケ倶楽部会員。