Case 36:

小枕地区集会所

喜多裕事務所+木内建築計画事務所+田中雅之建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




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東日本大震災で大きな被害を受けた大槌町の復興計画。土木・街区計画の段階から住民との話し合いを積み重ね、その総意を汲み取り設計を組み立てる。

喜多裕氏、木内俊克氏、田中雅之氏の3氏が手掛けているのは岩手県大槌町で進む東日本大震災の復興計画だ。

防災集団移転促進事業の一環であり、高台移転する一団地(24戸)の中に集会所をつくる。延べ床面積約130㎡の木造平屋建てだ。
大槌町の復興計画はかつての集落単位を基礎とした地区分担制が特徴だ。まちを7地区に分け、それぞれの地区に町職員、コーディネーター(計画やデザインの学識経験者)、コンサルタントのユニットが配置され、東京大学大学院社会基盤学専攻の中井佑教授が統括をするという体制を敷き、一貫して住民主体で検討してきている。
小枕・伸松地区の計画では、土木コンサルタントの補助として、ワークショップ用に街区の計画(宅地割・道路など)を住民が理解しやすい模型やスケッチに翻訳する作業から関わりが始まった。宅地割を全住戸から海が見える計画にするとともに、海を見る広場、集会所のある広場、中心市街地を見る広場の 3つの広場を設ける。さらに地域コミュニティで共用するコモンスペースである海に抜ける2つの小道をつくる。コモンスペースは背中合わせの宅地からそれぞれ1mずつ供出している。これらは、コーディネーター・尾崎信氏の検討案を基に、町職員、コンサルタントと共に住民に提案し合意を得ていった。
「海を常に意識しながら生活をしていきたいという住民の意思があった。また歩いて楽しめるまちにするという大槌町全体での共通目標もあった。様々な住宅を想定した詳細なスタディを関係者全員で共有することで、皆が納得できるゆるがない仕組みに近づけていける。そうしたプロセスを通して、住民が思い描いている暮らしが実現されるのだと思う。3つの広場は避難の目印にもなっており、避難路につながっている」(田中氏)。

大切なのは住民の暮らしのイメージを読みとること。

集会所も海に正対して配置している。海を臨む広場との関係を重視して配置やアクセスの方向などを決めており、ふらっと立ち寄れる土間を囲むように、集会室や和室、調理室、屋外テラスで構成している。

「まっとうに積み上げていい場所をつくる。建物自体で変わったことはせずとも、地区が望む場所に望まれた配置で建物を置くことで、集落で暮らす人たちにとっての価値が真直ぐ実現されると考えている。街区計画から一体でつくることで初めて実現できた価値だ」(木内氏)。
田中氏と木内氏はこれまでを振り返って次のように語る。
「建物とまちの時間の長さは違う。時間が経ってもゆるぎない構造を住民の総意からあぶりだして紡いで計画の骨格とする。いちばん大事なベースを計画のあらゆる過程で共有するために、私たちの作業も一役かえたのではないかと思う」(田中氏)。
「コモンスペースは以前からそこにあったように見えるが、地道な 話し合いの積み上げの成果だ。計画段階でコミュニケーションができているかで建築のつくり方は変わっていく。暮らしのイメージに関しても、最初から関わっているから読める空気があり、それが大事であることを学んだ」(木内氏)。
大槌町は津波で大きな被害を受けた。元の住宅があった敷地に戻れるケースは少ない。ただ住み慣れたまちに戻り、新しい生活を始めることはできる。それに応えようとした若い建築家たちを含む関係者全員の思いと活動が、形になって現れようとしている。

小枕地区集会所
所在地: 岩手県上閉伊郡大槌町小鎚第28地割字間渡153-135
設計: 喜多裕事務所+木内建築計画事務所+田中雅之建築設計事務所
構造設計: 福山弘構造デザイン/福山弘
設備設計: テーテンス事務所/真野智敬
協働: 小市浩伸、前田文章、前田格(東京建設コンサルタント)
統括: 中井祐(東京大学教授)
コーディネーター: 尾崎信(東京大学助教在任時、現愛媛大学講師)
ファシリテーター: 海野芳幸、武下公美(地域まちづくり研究所)
用途地域: 用途地域の指定のない地区
敷地面積: 926.48㎡
建築面積: 169.74㎡
延床面積: 137.46㎡
建蔽率: 18.32%(/70%)
容積率: 14.84%(/200%)
構造: 木造
規模: 1階
基礎: ベタ基礎
最高高さ: 4.165m
所要室等:本体: 集会室、和室、調理室、トイレ、倉庫、土間・廊下、風除室
所要室等:外部: 駐車場、構内舗装

喜多裕(きたゆたか)
1978年神奈川県横浜市生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業、東京大学工学部社会基盤工学専攻景観研究室研究生、アルベルト・カラチの設計事務所 Taller de Arquitectura X 、伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、現在フリーで活動中。


木内俊克(きうちとしかつ)
Diller Scofidio + Renfro (2005-2007、ニューヨーク)、R&Sie(n) (2007-2011、パリ)に勤務後、木内建築計画事務所主宰、東京大学建築学専攻助教。
家具、建築から外構空間、都市、また舞台美術に至る領域横断的なデザインの実践とともに、デジタルデザイン教育/研究に従事。


田中雅之(たなかまさゆき)
1979年大阪府生まれ。
東京大学大学院社会基盤学専攻修了後、LLT/LLA(JP/US)勤務を経て、田中雅之建築設計事務所主宰、東京大学生産技術研究所特任研究員。
研究開発および建築設計に従事。
主なプロジェクトに、佐世保の実験住宅(2013年グッドデザイン賞 )、弥生の研究教育棟 I-REF、東京大学総合図書館別館、獺祭「かみのやたい」、久御山町「黄金の茶室」など。