Case 37:

真鶴出版2号店

tomito architecture
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




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町民はもちろん、移住者、観光客など、皆が集える地域情報発信拠点として、まちの「関係人口」増加を目指す。

tomito architectureの冨永美保氏と伊藤孝仁氏が手掛けているのは地域の情報発信拠点づくりだ。

計画地がある神奈川県真鶴町は約7500人が暮らす。3つの地区に分かれており、石材業や漁業を生業とする人々など、昔から真鶴に住む人を中心とする地域コミュニティが残っている。首都圏に通勤する人々も住み、クリエイティブ系職業の移住者が増え始めている。
「真鶴町は半島であり、『せとみち』という細い道が地形に沿ってある。『せとみち』を歩くと、様々な石や植物からなる有機的な景色がグネグネと展開されている。素材の多さが印象的であり、人の手や手間も感じる」(冨永氏)。
クライアントの夫婦は2015年に移住し、出版社、ゲストハウス、自宅からなる泊まれる出版社「真鶴出版1号店」を営んでいる。真鶴という地域の出版による発信と、ゲストハウスの宿泊者に町を案内するという体験レベルの地域情報の提供を通じた発信をしている。
2号店は1号店と「せとみち」を挟んだ、はす向かいにある3棟の建物と倉庫からなる木造民家を借り、改修してつくる。出版社、中長期滞在者向けのゲストハウス、キオスク(書店を含む)からなるプログラムだ。1号店のゲストハウスは宿泊者が1日1組だが、2号店は3組になる。

3棟の建物と倉庫からなる木造民家を改修、外構や建物のくぼみを積極的にデザインしながら、内外を縫い合わせるように計画。

「ホストとゲストの関係を空間が明確に示さない方がいい、道を歩く人と内部の人の視線が合わない方がいいなど、クライアントからは具体的な言葉やシュチエーションで要望をもらえている。様々な居場所があり、それらの中間に立つ出版社があるというゆるやかな空間の形式にする。内部で起こることとともに、道を通る人がどのような体験をするかを一緒に考えながら設計している」(冨永氏)。

もうひとつ、設計をするにあたり参考にしたのが、1993年に真鶴町が制定したまちづくり条例の「美の基準」だ。
「パターンランゲージを応用した 景観ガイドラインであり、生活や営みなど人間の行為、場の共有の在り方について論じている。アイデア集のようにみえた」(冨永氏)。
建築物の内側からではなく、外から設計するという手順で進めている。風景展開図を描き、次に内側の展開図を描く。外と内からの2つの展開図で建築を考えていく。
「4つの『せとみち』に挟まれた敷地であり、既存の建物は中央に建っている。外構や建物のくぼみを積極的にデザインしていくのに適した場所だった。道を歩く人がこの建築物にどう出会って、どのような開口と対峙するのか。塀を取り払い、真鶴の植物を植え、増築や減築をして内外を縫い合わせるように計画する。人がいる場所に変えるのだから、庭や人の活動が垣間見れるような改修の在り方を考えたい」(冨永氏)。
クライアントは移住者として外部の視点を持ち込むだけではなく、生活することで見出した視点も持っている。それは小さな町での生き方であり、働き方である。そこに若い建築家の感性が加わり、地域に新しい楽しさを加えていく。

真鶴出版2号店
所在地: 神奈川県足柄下郡真鶴町
用途 出版社2号店+キオスク+宿
設計: tomito architecture
構造: TECTONICA
施工: 原田建築
階数: 地上2階
構造: 木造
工期: 2018年4月〜

トミトアーキテクチャ / tomito architecture
冨永美保と伊藤孝仁による建築設計事務所。2014年に結成。
日常への微視的なまなざしによって環境を丁寧に観察し、出来事の関係の網目の中に建築を構想する手法を提案している。
主な仕事に、丘の上の二軒長屋を地域拠点へと改修した「カサコ/CASACO」、都市の履歴が生んだ形態的特徴と移動装置の形態を結びつけた「吉祥寺さんかく屋台」などがある。

富永氏、伊藤氏

冨永美保
1988年 東京生まれ
2011年 芝浦工業大学工学部建築工学科卒業
2013年 横浜国立大学大学院Y-GSA修了
2013~15年 東京藝術大学美術学科建築科教育研究助手
2014年 トミトアーキテクチャ設立
現在 慶応義塾大学、芝浦工業大学、関東学院大学非常勤講師

伊藤孝仁
1987年 東京生まれ
2010年 東京理科大学工学部建築学科卒業
2012年 横浜国立大学大学院Y-GSA修了
2012~13年 乾久美子建築設計事務所勤務
2014年 トミトアーキテクチャ設立
2015年〜 東京理科大学工学部建築学科設計補手