Case 39:

錦町観光拠点施設整備計画

中西ひろむ建築設計事務所+荻原雅史建築設計事務所
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




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開発が及ばなかったが故に残った貴重な戦争遺構を活かして、平和を感じ、考えるためのミュージアム機能を備えた地域観光拠点をつくる。

中西ひろむ氏と荻原雅史氏が手掛けているのはミュージアム機能を備えた観光拠点施設だ。熊本県球磨郡錦町が実施した公募型プロポーザルで設計者に選ばれた。VRの専門家である角田哲也氏が展示計画に参加している。

錦町は熊本県の南端部に位置する人口約1万人の町だ。計画地は太平洋戦争末期に飛行隊の搭乗員や整備員を養成していた旧人吉海軍航空隊基地の滑走路跡地の東端に位置する。周辺の錦町の西北から相良村の南にかけて、格納庫や兵舎、弾薬庫などの約1万㎡、総延長約3.8kmの範囲に地下遺構なども残っている。その数は90を超える。また錦町には歴史的地域資源も多く残っている。
展示スペースと収蔵庫、多目的スペースと事務室、別棟のトイレの3棟からなる延べ床面積152㎡の小規模な施設だ。
地下遺構などについては既に少人数向けのガイドツアーをしており、ミュージアムでは遺品や訓練生の日常風景写真、地域の歴史、地下遺構の様子などを展示する。地域観光の拠点であり、ミュージアムであり、教育的な施設でもあるのだ。多目的スペースは平和学習などのレクチャー会場や休憩所としての利用のほか、町の特産品も販売していく予定だ。
構造は木造を試みている。
「環境に応じ、この敷地を際立たせる建築をつくりたいと思った。 飛行機の翼をモチーフに風景が抜けていくような軽やかな建築を目指す。県産材の杉材を使用した木造にする。収蔵品が増えても木造であれば増改築が簡単にできる」(中西氏)。
「西側にある滑走路に直交する形で建物を配置し、 滑走路側に眺望が開かれるようにしている。将来の増築に対応できるように、600ピッチでトラスを組んだ合理的な梁が連続的につながっていく架構にしている」(荻原氏)

滑走路跡地の東端という敷地を際立たせる建築をめざし、将来の増改築に対応できるよう県産の杉材を使った木造とする。

室内の幅は2700ミリから3600ミリまで設け、さらに雁行させて空間に変化をつける。天井は高いところで5300ミリあり、抑揚のある空間にする。 展示スペースの間に滑走路が見える展望スペースをつくり、山や森につながる反対側は上部にハイサイドの開口を設けて眺望を採り入れる。展示室以外はランニングコストを抑えるため、通風などの自然エネルギーで対応する。

外壁は旧兵舎のイメージを伝えるために焼杉にする。軒を出し縁側をつくる。
展示計画も新しい試みを行う予定だ。
「戦争を体験された方のインタビューを放映する。高齢になってきており、本計画を契機に資料として残したい」(荻原氏)。
「VRで施設の魅力や機能を補助することができたらと思っている。壁面に戦後に米軍が撮影した航空写真と現在の写真を並べる。タッチパネルで地下遺構をストリートビュー的に見られようにする。将来的には当時の練習風景をCGで再現し、現在の風景に重ね、バーチャルとリアルを組み合わせて大型のタッチパネルでパノラマ画像を見せる。また地下遺構の入れないところはVRで仮想的に表現する計画だ」(角田氏)。
戦後70年以上平和が続いている。開発されなかったことで残った貴重な遺構を活かし、若手建築家によってこの場所の未来への一手が打たれようとしている。平和を感じ、考えるオープンエアミュージアム、エコツーリズム、VRの新しい形が生み出されていくことだろう。

錦町観光拠点施設
計画名: 錦町観光拠点施設
所在地: 熊本県球磨郡錦町
用途: 観光拠点施設+美術館
構造規模: 木造平屋
建築設計: 中西ひろむ建築設計事務所+荻原雅史建築設計事務所
構造設計: 植森貞友
敷地面積: 6862.76㎡
建築面積: 171.30㎡
延床面積: 152.37㎡
中西氏

中西ひろむ(なかにし ひろむ)
中西ひろむ建築設計事務所主宰
1980年大阪府出身。
2002年京都大学卒業。
2004年京都大学大学院修了。
2004年建築商会勤務(-2006年)。
2008年中西ひろむ建築設計事務所設立。
現在、京都造形芸術大学 摂南大学非常勤講師。


荻原氏

荻原雅史(おぎはら まさし)
荻原雅史建築設計事務所主宰
1978年長野県出身。
2002年京都大学卒業。
2004年京都大学大学院修了。
2004年高松伸建築設計事務所勤務(-2008年)。
2008年荻原雅史建築設計事務所設立。
現在、東京電機大学講師。