Case 41:

富士吉田のホステル

パーシモンヒルズ・アーキテクツ
文:中崎隆司(建築ジャーナリスト)




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旧生命保険会社支店の建物をホステルにコンバージョンするプロジェクト。共用部を公共空間として開放し、まちの大きなラウンジとする。

パーシモンヒルズ・アーキテクツの柿木佑介氏と廣岡周平氏が手掛けているのはホステルのプロジェクトだ。

計画地は山梨県富士吉田市にある富士急行河口湖線・富士山駅から約3分の位置にある。前面の大通りは北口本宮富士浅間神社や富士山につながっている。計画地からは富士山が見え、大通りでは日本三奇祭である「吉田の火祭り」が行われる。
生命保険会社の支店だった2階建て延べ床面積460㎡の建物をコンバージョンする。敷地正面右側に前面道路につながる外部通路があり、裏側に大きなピロティがある。
「ホステルの共用部を公共的な空間として開放する」が計画の主題だ。
宿泊客は外国人のバックパッカーが主なターゲットである。客はここに宿泊し、神奈川県秦野市にある自転車メーカー「コッチ」が協賛するレンタサイクルを利用して河口湖周辺などを周遊することを想定している。
「お客さんはクロスバイクを借りて周辺を散策するのだが、設計は自転車ユーザーだけに頼ってつくり過ぎると、それが目的以外の客を取りこぼすのではないかという不安がある。全面的に自転車が現れてくるというよりは、ささやかながら局所局所に見えてくるぐらいの感覚で設計している」(廣岡氏)。
ロビーラウンジは既存の開口を掃き出し窓に替え、前面道路に面した縁側をつくり、内外から利用できるようにし、公共的な場所として開放していく。ピロティはレンタサイクルのサイクルステーションにする。また屋上は富士山を眺める広場的な空間として改修し、外部階段でつなげる。 宿泊者数は最大30名、ロードバイクのレンタサイクルは10台の規模だ。

内外装に自転車のパーツや工業商品を使用しながら、人の居場所をつくるとともにスケールを解体していく。

外部通路は農業用ネットをかけて半内部化する。その他の外装にも自転車のチェーン、波板鋼板、単管パイプなど廉価で外部使用できる素材や部材を組み合わせて使う。

「四角い元の建物のまわりにまとわせて、人の居場所をつくるとともにスケールを解体していく。タープやチェーンなどやわらかいものを立てかけると重力でたわみ、懸垂曲線が生まれる。富士山も懸垂曲線の形状であり、なじみを考えて操作している」(柿木氏)。
内装は自転車のホイールを使ってランプシェイドをつくるなど自転車のパーツや工業商品を利用して仕上げる。
客室は畳の小上りとボックス状のロフトベッドで構成する。
「客室は、繁忙期では畳の小上がりに布団を敷いてドミトリールームとして使い、閑散期では畳の小上がりを宿泊客が寛げるスペースとして一室貸しをする。閑散期と繁忙期で人の密度が変わっても上手く運用できるようにしている」(柿木氏)。
柿木氏と廣岡氏はオーバーレイ・マルチプル・バリューズという建築観を掲げている。
「時間帯によって建築の使われ方が変わっていく。そのようなことが起きるほど、建築は多様な他者性を受け入れることができる。また多様性があればあるほどその場所は公共的になり、まちにとって意味のある点になるのではないか。使い方がポジティブになっていくように建築の仕組みや仕立て方を考えていきたい」(廣岡氏)。
「こう使え、ではなく、こういう風に使えそうだよね、といった感覚。そういう要素を建築に重ねていって多様な場所をつくる。また、建築家の価値感のみで建築をまとめあげるのではなく、様々な価値を重ね合わせて、次の新しい価値につなげていきたい」(柿木氏)。
そのような思いがまちの大きなラウンジのようなホステルとして現われようとしている。

富士吉田のホステル
計画名: 富士吉田のホステル
所在地: 山梨県富士吉田市
用途: ホステル
階数: 2階
構造: RC造
建築設計: PERSIMMON HILLS architects
敷地面積: 400㎡
建築面積: 233㎡
延床面積: 460㎡
柿木氏

柿木 佑介 (かきのき ゆうすけ)
1986年大阪府枚方市生まれ
2002年京都大学卒業。
2008年関西大学工学部建築学科(江川研究室) 卒業
2009年MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
2016年PERSIMMON HILLS architects設立


廣岡氏

廣岡 周平 (ひろおか しゅうへい)
1985年大阪府羽曳野市生まれ
2008年関西大学工学部建築学科(江川研究室) 卒業
2010年横浜国立大学大学院Y-GSA 卒業
2011年SUEP
2015年大成建設設計部
2016年PERSIMMON HILLS architects設立