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【オフィス事例】AGC新本社 JFEシビル株式会社 酒井 琴美

機能と美しさを並び立たせるキネティックマテリアルとしてのガラスの可能性

多彩なコミュニケーションの誘発

AGC新本社オフィスの内装設計にあたってまず第一に考えたのは、多彩なコミュニケーションの誘発ということでした。

ビジネスシーンの多様な変化にフレキシブルに対応していくためには、旧態依然としたシステムの殻に閉じこもることなく、常に新鮮な刺激を受け続けることが不可欠です。そしてそのためには日常的な仕事の場、つまりオフィス空間においてのコミュニケーションの多彩さが何よりも大切ではないかと考えたのです。

そこで、オフィスの中に道をつくり、そこをさまざまな目的を持った人々が行き交う回遊動線にすることを考えました。まずデスクを空間に対して45°傾けた斜行レイアウトとし、その島と島が交わる地点に、「マグネットエリア」と名付けた交流スペース、大会議室や小会議室など、コミュニケーションのツールとして使える滞留拠点を設けることとしました。つまり、自分のデスクからどこに行くにも、必ずどこかの滞留拠点を通過し、あるいは滞留拠点に向かうために他のデスクの間を通過することとなり、滞留ポイントではもちろん、その移動の間にも部門間を超えたコミュニケーションが生まれることを企んでいったのです。

また、さらなるコミュニケーション促進のために、大小会議室をガラス張りとし、誰がいまどこで何をしているのかがフロア内の誰でもが認識できるようにしました。ガラスの効果的な使用によってもたらされる社内の可視化は作業効率アップにつながりますし、視線を妨げることなく日中の光の変化や眺望を望むことのできる開放的な空間は、生活空間としてのオフィスの快適性を飛躍的に高めることは言うまでもないでしょう。

もちろん社外の人々とのコミュニケーションも大切です。今回は、地上30階のエントランスロビーから打合せスペースに至るまでの来客ゾーンを、AGC社員、およびAGC製品とお客様を結ぶ出会いの場として位置づけ、建材としてのガラスの魅力を実際の空間の中で体感していただき、そこでの意見を製品開発の現場にフィードバックできるよう、さまざまな場所にさまざまな方法でガラスを使用しています。

溶着キャストガラスによる受付カウンターとカウンターバックの光壁、曲げ強化ガラスや特殊カラー中間膜合わせガラスのパーティション、ポリカーボネートとFRPグレーチングによる光床、6°の傾斜を持つガラスパーティション、照明連動型調光ガラス、モニター内蔵ガラス壁、溶着キャストガラスによる世界地図アートワークなどなど…。

どれもがAGCが長年にわたって積み重ねてきた技術力と製品開発力の粋を集めた力作揃いですが、中でもその効果の大きさと使い勝手のよさに着目して、来客ゾーンに限らず、執務スペースの「マグネットエリア」、社員の憩いの場となるカフェをはじめとするヒーリングゾーンも含めて、 今回もっとも多用したのがカラーガラスです。

さまざまに表情を変える可変的素材

透明感あふれる色彩が放つ魅力と同時に、ガラスならではの平滑さによって人の動きや周辺環境の変化を繊細に映し込むカラーガラスは、時間の経過や視線の変化によって、さまざまにその表情を変えていく可変的素材とも言えるものです。一枚の素材でしかないはずなのに、ときに明るくときに落ち着いた雰囲気にと、その見え方は千差万別。しかもテクスチュアも、一般的なカラーガラスに加え、ハーフミラーと同等の反射性の高さを持つメタリックなものや反対に光をほとんど反射しないマットなものまで多種多様。

こうしたカラーガラスの魅力を存分に体感していただくために、エントランスロビーの壁面、パッセージのコンシェルジュスペース、そしてお客様がもっとも長時間過ごすことになるミーティングルームの壁面などに各色を採用しています。色による見え方の違いはもちろん、眺望や演出照明による違いも楽しんでいただき、率直なご意見をいただければうれしいですね。

今回、さまざまな種類のガラスをさまざまな場所にふんだんに使わせていただくことで、私自身もこれまで気づかなかったガラスの魅力をあらためて感じることができたのは、大きな収穫だと思っています。

そのシャープで平滑な形状から “硬い”イメージが先行しがちなガラスですが、曲げ加工や溶着キャストガラスの丸みを帯びたテクスチュア、そしてマットな質感のカラーガラスなど、柔らかな表情もたくさん見つけられたことが新たな発見でした。

私たちが知っているガラスだけがガラスではない。ガラスに秘められている可能性を探索することが、機能と美しさの両面で、空間デザインの新たなる地平を切り開くのだと思います。

【使用ガラス】

ラコベル』 『マテラック』 他

酒井 琴美(さかい・ことみ)

Profile

JFEシビル株式会社 建築事業部生産・物流ソリューションセンタープロポーザルグループ。
福岡県生まれ。国立有明工業高等専門学校建築学科卒業。一級建築士。 東京電力、JFE物流などのオフィス、医療施設、物流施設関連のデザインを多く手がける。自社オフィスの本社支店すべてのデザイン担当し、3支店でそれぞれニューオフィス奨励賞を受賞。

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