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【オフィス事例】豊田通商名古屋分室 sinato 大野 力

“移ろい”までをも素材として取り込める希有な空間装置

高層オフィスならではの眺望を活かす

名古屋駅前に建つ超高層ビルの高層階に位置するこの商社のオフィスは、とにかく眺めがすばらしい。その共用部分、主にエントランスと来客スペースの設計を行うに当たり手がかりにしたのは、その“眺望のよさ”を最大限に活かすということでした。

来客エリアなので、用途としては応接ブースがいくつも並ぶことになる。その応接ブースも、商社というこの会社の性質上、競合他社が隣同士のブースを使うことが多々あるので、壁は完全にクローズドにして、音や見えを遮られたものでなくてはならない。そうすると必然的に、天井まで立ち上がる壁がたくさん出てくるという前提になる。そうした条件の中で、外への眺望をいかに活かすか。

そこで、来客スペース全体を斜めに貫通するような視線の抜け道を用意し、それによって、どこにいてもこの空間全体を感じられるようにすると共に、視線が長い距離を抜けた先に眺望が広がるようなプランを考えました。応接ブースの壁は、白の不透過面からハーフミラーによる半透過半反射の状態へ、上記の抜け道に近づくにつれ段々と存在が不確かになっていくようなものとし、床のパターンについては、視線の流れを助長するようなライン状のグラフィックとしました。

“ガラスに映る眺望”という素材

こうした考え方を進めていく中で、今回、AGCのカラーガラス『パールビトロ』のベージュを、VIP用の応接室の壁全面に採用しました。

VIPスペースということで、クライアントからは他の会議室とは少し違った状況にしてほしいという要望があったわけですが、僕としては、外との関係、眺望との関係はここでも踏襲したいと考え、共用スペース全体を貫くそのコンセプトとVIPスペースならではの高級感・高質感とをどう結びつけていくかがポイントとなりました。

そこでカラーガラスに目をつけたのですが、その理由のひとつは、眺望それ自体を空間を構成する素材として使おうと考えたから。反射度の高いカラーガラスは、開口部から望むその眺望の大パノラマを自身に写し込み反射させることで、その表情を時間と共にさまざまに変えていく。それは、たとえばタイルやフィルムなどによる固定化されたグラフィックパターンでは絶対につくり出せない“生きている表情”であり、カラーガラスはそこにおいて、“素材としての映像”を成立させるためのメディアとして機能する。カラーガラスを媒介とすることで、固定された映像ではなく、移ろっていく映像、つまりこのオフィス全体の設計テーマである眺望を、空間づくりに多重的な意味合いで取り入れられるのではないかと考えたのです。

色自体を封入したかのような美しさ

そこに付加される色味として、数ある色の中からベージュを選んだのは、他のブースで統一して使っている白との違いを出すことを前提に、VIPスペースならではの高質感と清潔感を醸し出すため。「高級感や重厚感なら木や石」という固定観念から一歩離れて、色自体をガラスの中に封入したような美しいイメージを伝えることができるのも、カラーガラスの持つ大きな強みのひとつだと思います。

透明ではあるけれど“無”ではない、強い物質感を持った素材であるガラス。その独特で不思議な存在感に色味を加えることで、さらにその可能性を押し広げるカラーガラス。このVIPスペースは、カラーガラスが存在したからこそ、具現化できた空間だと思っています。

【使用ガラス】

パールビトロ』 ベージュ

大野 力(おおの・ちから)

Profile

1976年大阪府生まれ。主な仕事に「パトリック・コックス青山店」、ブティック「デュラスアンビエント」各店、「豊田通商+豊通エレクトロニクス」ほか。JCDデザインアワード金賞、グッドデザイン賞、ディスプレイデザイン賞など、受賞多数。

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