新しい建築のおおらかさを求めて

社会は今、多様性や寛容性を求めています。
その要請に建築家はいかに応えようとしているのか。
作品を通して探ります。

使う人と空間のより柔軟な関係を目指して

第26話

使う人と空間のより柔軟な関係を目指して

中村竜治|中村竜治建築設計事務所

2020.08.17

同じ広さのまま、どうやって距離をつくるか。コロナ禍下で建築ができることは「機能の重ね合わせ」。「使う人が自分で使い方を考え工夫することで、さらに人と建築との関係が親密になっていく」と中村竜治氏は言う。

まず、最新プロジェクトのMビルについて概略をお聞かせください。

中村竜治(以下、中村):前橋市の中心商店街は、郊外型大型店舗が増えたことから、いわゆるシャッター商店街化や駐車場への転用による空洞化が進んでいました。そこで4年前、地元の建築家の橋本薫さん率いる「MMA(前橋まちなかエージェンシー)」という組織が立ち上がり、寂れた商店街をなんとかしようと、建物オーナー、店舗オーナー、建築家、商店街組合、行政といった人達を結び付けた再生プロジェクト「前橋デザインプロジェクト」を進めています。その最初のプロジェクトがこのMビルでした。街区全体を一度に変える再開発とは異なり、各々独立した小さなプロジェクトを一つ一つ丁寧に進めていくことで、やがてそれらが繋がり、線や面になっていくことを目指しています。今も営業されている昔ながらのお店も、その時代ならではの魅力的な佇まいをしていて、この方法だと、それらとオーバーラップしていくことで、お互いの魅力を高め合うことも期待できます。
場所は商店街のメイン通りであるアーケードが架かった中央通りと馬場川通りが交差する角地で、中央通り側の隣に長坂常さんによる和菓子屋「なか又」、さらにその隣には高濱史子さんによる豚カツ屋「カツカミ」のプロジェクトが続くと言う状況でした。Mビルはテナントビルとして計画されていて、そこに入るのは「GRASSA」というポートランド発祥のハンドクラフトパスタのレストランです。プロジェクトの趣旨に賛同してくださった東京の料理人の方が現地で修行後、前橋に移り住み出店されました。ポートランドは、興味深い方法で魅力的な街づくりを行っていて、MMAのメンバーと視察にも行きました。

Mビル 群馬県前橋市 2018年

Mビル 群馬県前橋市 2018年
写真:中村竜治

設計を始めた頃は、隣も長坂さんの設計で建て替えの計画があることは知っていましたが、どんな建物になるかわからない状況の中で、なかなか設計しづらかったのですが、あるとき、長坂さんがお店の裏に建物と同じぐらいの広さの余白をつくる案を考えていることを知りました。よく聴いてみると「商店街の裏を繋げていけないか?」という一つの敷地に止まらない野心的なものでした。住宅地図を見ると、確かに建物の左右の隙間は狭いですが、裏側には少しずつ様々な広さの余白があり、ときには緑のある庭になっていたりして、そこを歩いて行ったらずっと先に進んで行けそうでした。他人の敷地なので、建前としてはあり得ないけれども、賛同者が出て来たらもしかしたらあり得るかもと思わせる、そのゲリラ的というか、現実と空想の境界線上にあるような企みにともて共感できたので、密かに荷担することにしました。そう言えば、まさにこのインタビューシリーズのテーマである「おおらかさ」に繋がる考え方かもしれません。
長坂さんからの要請もあり、一般の人が馬場川通りからMビルの敷地を抜けて裏庭へアクセスできる通路を提供する一方で、「裏」という感じを壊さないように、裏庭に面して大きく開いたりせず、比較的そっけないたたずまいにし、付かず離れずの姿勢をとりました。敷地はちょっと歪んだ五角形で、建物は1台分の駐車スペースと裏庭に抜ける通路分を除いて、その敷地の形状そのまま2層分立ち上げることで、商店街の連続性と角をつくり、周囲にぐるっと窓と蔦を等間隔で配置しています。MMAは二つデザインコードを設けていて、一つは何らかのかたちで煉瓦を使うことと、もう一つは植栽を配置することでした。前橋には、倉庫、酒蔵、刑務所など、大正時代に盛んに建てられた煉瓦建築が多数残っていて、煉瓦はそこからきています。Mビルでは、ビルオーナーからの要望もあって外壁全面と外構床に煉瓦を使っています。数年後には、蔦で覆われた煉瓦壁の脇を抜けると、小ぢんまりとした裏庭が現れるという体験になればと思っています。そして、表だけで繋がっていた商店街に知らず識らずのうちに奥行が生まれていくことを期待しています。

Mビル以外の最近のプロジェクトも紹介していただけますか。

中村:知り合いのグラフィックデザイナーから、デザインスタジオとギャラリーの両方に使える空間をつくって欲しいという依頼で手掛けたものがあります。場所は原宿で、築45年の鉄筋コンクリート造のマンションの一階の一室を改装したものです。東西の2面が人通りの少ない道路に面し、1階でありながら比較的静かで開放的な部屋です。用途として「ギャラリーを併設したデザインスタジオ」ではないところが、難しいと同時に興味深いところでした。二つの異なる機能が重なっているので、各部屋を用意し、それぞれに合った設えをすれば済むというわけにはいかず、施主とコミュニケーションを取りながら、どこまでがアリで、どこからがナシなのかということを一から探っていく必要がありました。加えて、引っ越しが間近に迫っていたため、図面や模型で考えるというよりは、解体を進めながら現場で施主と一緒に考え決めていく必要がありました。そのような状況の中で一つだけ前もって具体的な要望がありました。開放感を保ちつつ音が漏れないようにして空間を二分できる可動式の間仕切りを設けるというものです。

>デザインスタジオ兼ギャラリー 渋谷区神宮前 2019年

デザインスタジオ兼ギャラリー 渋谷区神宮前 2019年
写真:大籏英武

まず、スタジオにもギャラリーにも不向きそうな木目調のクッションフロアーを撤去することから始めました。思いの外凸凹したコンクリートスラブが現れたのですが、展示に良い影響を与えると思ったので、そのまま利用することにしました。凸凹になった床の上に佇んでいると外にいるような気分になる一方で、窓にはまっている半透明ガラスの閉鎖性が気になりだし、網入りなので値は張りますが、全て透明のガラスに入れ替えました。いよいよ道路に放り出されたようになった部屋の中で、大小7つあるアルミサッシの窓が外の風景を淡々と切り取っている様子を見ていて、考えあぐねていた間仕切りにアルミサッシを利用することを思いつきました。遮音性もあり、何よりこの空間に新たな要素を増やさずに済みます。できるだけ既存のサッシに似たものを選び、元からそこにあったかのように設置しました。窓用のアルミサッシなので、一つの部屋が二分されたというよりは、二つの部屋の間にあったはずの外部が圧縮され、二つがくっ付いてしまったかのようになりました。もしくは、向こう側の部屋があたかもテラスのような存在になったと言ってもいいかもしれません。空間を間仕切りで分割していくことで間取りを解いていく時のあの何とも言えないネガティブな感情も薄らいでいきました。
そのようにして出来上がった空間は、改装後然ともスタジオ然ともギャラリー然ともしてない空間ですが、要望を満たすには十分でした。使いこなすにはそれなりの創造力が必要ですが、今後どんな工夫や見立てが成されながら使われていくのか楽しみです。

店舗もいくつか手掛けていらっしゃいますね。

中村:最近原宿の駅前に伊東豊雄さんが監修された「WITH HARAJUKU」という商業施設がオープンしましたが、そこに出店した資生堂さんによる「Beauty Square」というお店のプロジェクトがあります。お店といっても、単体のブランドではなく、複数のブランドやポップアップショップやヘアサロンが入ったショップインショップで、ある特定のブランドのための空間表現というよりは、建物とショップの間に挟まれた境界部分を設計しています。伊東さんによる建物全体のコンセプトは「道の建築」で、駅前から竹下通りへ抜けて行ける「パッサージュ」と呼ばれる屋外通路が建物の中央に穿たれ、建物内だけでなく街の回遊性を高めることが目指されています。資生堂さんの区画も、建物と同じように駅前通りに面しながら背後で「パッサージュ」にも面し、表と裏の両方にファサードを持っていたので、その繋がりを切らないように、表から入ってそのまま竹下通りへと抜けていけるパッサージュのような空間を目指しました。
機能的には、中身の流動性に対して手間とコストをかけずに照明機器や装飾を変えられるイベントホールのような天井の仕組が必要でしたが、天井スラブに負担させられる荷重や利用できるアンカーには制限が多かったので、床から自立する構造を考えました。お店の表と裏を繋ぐように自立する構造壁を2枚立て、その上に長さ12〜19mのトラス状の梁を12本置くように架けています。それらの梁に単管を架け、物が自由に吊れる仕組みとなっています。トラスは設備的な機能に加え、表と裏の連続性やバラバラなショップにゆるいまとまりを与える屋根のような機能を果たします。店名にもあるように「広場」のような多様な活動が許容される場所が目指されていたので、個人的には、大阪万博のお祭り広場のような場所をイメージしていました。

Beauty Square 渋谷区神宮前 2020年

Beauty Square 渋谷区神宮前 2020年
写真:中村竜治

神戸市役所のロビー改装のプロジェクトはプロポーザルで選ばれましたね。

中村:はい。神戸市は「デザイン都市・神戸」というスローガンを掲げて様々な取り組みを行っていて、その一つに庁舎見直し計画というものがあり、プロポーザルが行われました。庁舎というのは用途的には市職員が働く「事務所」ですが、市内はもちろん市外の様々な人が訪れ、無意識にせよ空間の印象を受け、それを持ち帰ります。ある意味、市の顔とも言える庁舎のロビーもスローガンに相応しい場所にしようというのが趣旨です。建物全体の改修ではなく、身近なところから少しずつ積み重ねていこうというのが特徴的で、例えば、ロビーのプロポーザルの前にもサインの見直しのプロポーザルが行われたようです。
ロビーはエントランスホールの隣にあるのですが、エレベーターホールを介して繋がっていて天井も低めで少し落ち着いた場所です。広さは約340㎡で、待合とカフェがあり、2つは身長ぐらいのパーティションで区切られていました。パーティションを撤去し、開放的で使用方法の変化にも柔軟な一つの空間にしたいというのが主な要望でした。また、カフェは打ち合わせにも利用されていたので、打ち合わせスペースとしての機能も必要とされました。つまり、椅子だけでなく机も必須ということになります。
改装のコンペでしたが、建物に対しては天井のペンキを塗り替えるぐらいでほとんど手を着けず、ベンチとテーブルを置いていくだけで空間をつくっています。工夫したのは、ベンチとテーブルの見分けをつかなくしていくことです。具体的には、ベンチを背もたれのないフラットなものとし、ベンチとテーブルの高さを近づけていきました。ベンチは少し高く、テーブルは少し低くしていくことで、二つの高さを一致させ440mmとしました。さらに、座板(天板)の平面を四角と円の中間ぐらいの角がなく方向性も曖昧な形とし、その形を縦横に引き延ばすことで形と大きさに変化を与えました。小さいもので400×400mm、大きいもので1200×2400㎜です。

神戸市役所1号館1階市民ロビー 神戸市中央区 2017年

神戸市役所1号館1階市民ロビー 神戸市中央区 2017年
写真:阿野太一

庁舎の均質で硬質な空間に、様々な大きさの木の板が水面の木の葉のように一定の高さで散らばっているという状況が生まれます。自由に動かすこともできるので、色々な置き方、使い方が考えられ、使う人の状況や認識によってベンチになったり、テーブルになったり、荷物置きになったりします。ここは待つ所、そこは打ち合わせをする所といったように予め決められた空間ではなく、使う人が自分の感覚で考えながら使っていく、ある意味創造的な場所になっています。
座板(天板)は地元の木を使用していて、このプロジェクトの特徴の一つになっています。神戸市は六甲山の市有林や公共空間の整備で出た木を保管し、イベントやワークショップなど非営利的な活動に活用してもらっていて、それをできるだけ利用することでコストを抑えています。ありものを使うため、当然様々な樹種が混じり合うのですが、大きい座板(天板)にはたくさんあるもの、小さい座板(天板)には希少なものといったように工夫しながら選んでいます。
今回使用したのは11種ですが、せっかく地元の様々な木が使われているので、座板(天板)の小口に樹種名(日英)を焼印し、使う人が、木の質感と樹種名を結びつけて感じられるようになっています。樹種が混じり合うことで、全体としては六甲山の雑木林のように不揃いな統一感のある風景になっています。

神戸市役所1号館1階市民ロビー 神戸市中央区 2017年

神戸市役所1号館1階市民ロビー 神戸市中央区 2017年
写真(左上から時計回りに):橋本健史、一瀬健人、高見将大、藤村龍至

俯瞰の写真は竣工当初、人が入っている写真はその後で、現地を訪れた方々がネット上に上げて下さったものです。なかなか見に行けないので、どんな配置でどんな使われた方がされているのか、とても興味深く拝見しています。最初は雁行した形にすると、様々な居心地の良い場所が生まれ使いやすいのではないかと考え、そのように設置したのですが、実際使っている写真を見ていると、全てがほんの少しずつ距離を取る分散した状態で落ち着いているようです。
その後、神戸市営地下鉄名谷駅の駅長さんからお声がけがあり、今年3月に名谷駅の改札内にも同じ手法で制作されたものが11台設置されました。脚の色だけ、その場所の床に合わせ変えてあります。木の葉が飛んで行って適当な場所に吹き溜まるように広がっていってくれたらと思っています。

進行中のプロジェクトはありますか?

中村:こんな時期ですが、昨年から関わっている展覧会の会場構成のプロジェクトがあります。スイスのビジュアルコミュニケーションを紹介する展覧会(FormSWISS展)です。一度延期になり、次は今年の秋を目指して進めています。都内3箇所で展示し、その後、神戸に巡回する予定です。スイスが終わると、また別の国の展示を続けていくことを目指しています。
どの会場も、ギャラリーとしては比較的窓やガラス面が多く、壁が少ないという環境でした。新たに展示壁を設置するのは、お金や手間もかかってしまうので、思い切って床を使うことを考えました。その場合、展示物と動線の区画をどうするかという問題が生まれますが、既成品のコンクリートブロックやコンクリート平板などを床に敷き詰め、抜き取った部分に展示し、鑑賞者にはブロックや平板の上を歩いてもらい、池を覗き込むようにして展示物を見てもらうという解決方法を検討しています。どこでも安価に入手でき、各会場に合わせて自分達で並べるだけで展示空間がつくれるので、複数の会場で行われることに適した仕組でもあります。また、タイポグラフィーにおいて重要な要素である「グリッド」が展覧会のテーマの一つだったので、それも暗示しています。
使った後の素材の行き先は、リサイクルショップや再生処理場などを考えていますが、欲しい方に譲るような仕組みも考えていけたらと思っています。

FormSWISS展会場構成参照画像

レイアウト

会場構成で基本にしていることは?

中村:特にないですが、あえて言うとすればその場所に即した展示方法を考えるということでしょうか。当たり前過ぎて何も言っていないような気もしますが。例えば、先ほどのグラフィックの展示で言えば、壁が使いづらい状況であれば床を使うといったように考えます。どうしても壁や立体物をつくる必要が出てきた場合にも、床、壁、天井のどれで支えるのが一番その場に合っているかといったようなことをわりと重要視して考えます。展覧会が行われるような場所はそもそも特徴(場所性)が生まれないようにつくられているのですが、完全なものはなく、ぼんやりとした中にもはっきりと特徴があり、それらを手掛かりにしながら考えていきます。

中村さんは会場構成とともにインスタレーションのプロジェクトが多いという印象があります。どうしてインスタレーションが多いのでしょう?最近のインスタレーションについてお聞かせください。

中村:インスタレーションが多いと思われるのは、東京国立近代美術館で開催された建築展「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」(2010年)の「とうもろこし畑」の印象が強いせいかなとも思いますが、考えて見ると確かに多いですね。今もですが、独立してからずっと「へちま」と言う椅子の試作を続けていて、それがギャラリーや美術館で展示、収蔵されていくうちに、それを見てくださったギャラリストや学芸員の方がインスタレーションを依頼してくださり、それを見たファッションや化粧品ブランドの方が街中でのインスタレーションを依頼してくださるという風に広がっていきました。

とうもろこし畑 2010年

とうもろこし畑 2010年
写真:中村竜治

「建築はどこにあるの?」展は、展覧会の趣旨が建築展としては特殊で、美術館では実物の建築は展示できないので、写真や模型などの間接的なものではなく、1/1の実物であるインスタレーションを通して建築家の思考を伝えようというものでした。私の展示は、紙という身近で実感を持ちやすい材料を使い、できるだけ大きな立体を作るという試みで、平面が30°60°90°の直角三角形をした高さ1.7mの三角柱を紙でできたポーラスな構造で作るというものでした。わずかに向こうが透けて見える単純な形ですが、目線より少し高いため俯瞰できず、各角の角度も異なり、平面的にも大きいので、一瞬では大きさも形も把握できなくて、周りを歩いて行くうちに徐々に形を把握していくという移動を伴う体験的なものとなっています。物体が置かれているだけだけれども、空間的、時間的体験となるよう設計されています。

なるほど。

中村:近年のものだと「プレイ・ジュエリー ウェア・アーキテクチャー『建築を通してジュエリーを考える』」(2015年)があります。これはドイツ人のジュエリーアーティストのスーザン・ピーチさんがキュレーションした展覧会で、僕と永山祐子さん、二人の建築家が、噛み砕いて言うと「建築にとってのジュエリーとはどんなものか?」をお題にインスタレーションを行いました。
僕は直径約3.2mのカーボン製の弾力のあるリング3つを展示しました。弾力のある棒を曲げて両端を繋ぐと反発力で綺麗な正円のリングができます。そのようにして作られるリングは、直径が天井高より少しだけ大きくしてあり、床と天井の間に少し潰れながら挟まることでその場に固定(接着剤やビスなどを使うことなく)されます。展示室の天井は梁があったり、場所によって高さが異なるので、それに応じてリングの形状にバリエーションが生まれ、空間に3つの異なる歪んだ円が描かれます。ネックレスが人体との関係の中でエレガントな形を生み出すのと同じように、空間との関係で形が生まれるオブジェとなっています。
一方、永山さんはとても強力なプロジェクターを使って、壁面に単純な幾何学形をまるで塗料でペイントされたかのように映し出し、それが認識できないくらいゆっくりと現れたり消えたりするという、物質のような光を展示しました。僕の設置したリングにもその一部が映り込み、ペンキが誤って着いてしまったかのようになります。
一方は物体、一方は光という二つの自立した作品ですが、一つの空間とテーマを共有し、互いに影響を与え合うような一体的なインスタレーションになっています。

プレイ・ジュエリー ウェア・アーキテクチャー「建築を通してジュエリーを考える」2015年

プレイ・ジュエリー ウェア・アーキテクチャー「建築を通してジュエリーを考える」2015年
写真:中村竜治(左)、今井慎太郎(右)

ガラスを使ったインスタレーションはありますか?

中村:残念ながら、まだありません。使い方にもよりますが、非常に硬く耐久性や耐候性があるぶん、期間が限定されかつ屋内に使う素材としては、よほど薄く使わない限りオーバースペックな感じがし、バランスが取りにくい気がします。屋外での展示に対しては、そのような意味で良いバランスがつくれるかもしれないので、機会があれば是非使ってみたいですね。

さて新型コロナウィルス禍は建築にどのような影響を与えると考えていますか?

中村:専門的な知識や情報が不十分な中で一概には言いづらいですが、やはり、どうしても距離をどうつくっていくのかが今まで以上に重要と言うか繊細になっていくのではないかと思います。ただし、空間を単に広くしていける恵まれたプロジェクトはなかなかないと思うので、同じ広さのまま、どうやって距離をつくっていくのかということになります。今までも当たり前に悩んできたことだとは思いますが、改めて意識化するということだと思います。
例えば、壁で区切り設備に頼ることで距離をつくる方法もありますが、閉鎖性が高まっていってしまうので、そうでない方法として「機能の重ね合わせ」ということが役に立つのではないかと思います。神戸市役所のロビーの家具で言うと、普通は机と椅子によって使い方も人との距離もほぼ決まってきてしまいますが、一つの家具に机、椅子、物置といった複数の機能が重なっていることで、自分の感覚で人との距離を自由に調節することができます。また、原宿のスタジオ兼ギャラリーも、二つの機能が部屋によって区分されるのではなく、重なっていることで、柔軟な使い方ができ、必要に応じ自由に距離がつくれます。
両方とも異なる機能の重なりを許容することで、同じ広さの中で距離をつくることができます。もちろん、重なることで生まれる不便や問題もあると思うので、それなりの注意や工夫や努力が必要ですが、自分で使い方を考え工夫することで、むしろ今までより人と建築との関係が親密になっていくのではないかと思っています。

【写真】中村 竜治氏
中村竜治 なかむらりゅうじ
1972年長野県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了後、青木淳建築計画事務所を経て、2004年中村竜治建築設計事務所設立。住宅、店舗、公共空間などの設計を全般的に行うほか、家具、展示空間、インスタレーション、舞台美術なども手がける。著書に『コントロールされた線とされない線』(LIXIL出版)。08〜09年前橋工科大学非常勤講師、09〜10年東京理科大学非常勤講師、09〜14年法政大学非常勤講師、13〜15年武蔵野美術大学非常勤講師、14〜17年東北大学非常勤講師、14〜18年早稲田芸術学校非常勤講師。

インタビュアー

中崎 隆司 なかさき たかし
建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー。生活環境の成熟化をテーマに都市と建築を対象にした取材・執筆、ならびに展覧会、フォーラム、研究会、商品開発などの企画をしている。著書に『建築の幸せ』『ゆるやかにつながる社会-建築家31人にみる新しい空間の様相―』『なぜ無責任な建築と都市をつくる社会が続くのか』『半径一時間以内のまち作事』などがある。

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