Case 1:

町工場にメイカーズの場をつくる

綾瀬の基板工場
浜田晶則建築設計事務所
中崎隆司(建築ジャーナリスト)



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地域に開かれた町工場が、新しいものづくりのかたち「メイカーズ・ムーブメント」へとつながっていく。

ウェブ世代によるデジタル製造という新しいものづくりが始まっている。メイカーズ・ムーブメントという潮流であり、オープン・イノベーションとして日本のものづくり全体を変えていくポテンシャルをもっている。
 一方で日本のものづくりを支えてきた町工場は閉じられたネットワークのなかにある。その町工場を開いていけば、町工場の知識や技術とメイカーズ・ムーブメントがリンクしていく可能性は高い。

建築家の浜田晶則氏が設計に取り組んでいるのは、電子基板製造企業の木造2階建ての小さな新築工場のプロジェクトだ。計画案の1階のプランを見ると、工作機械が置かれた工場スペースに加え、縁側のような空間やショールーム、カフェ・コーナー、食堂など様々なプログラムの空間で構成されている。2年後の2016年にその企業の経営者が世代交代するとともに多角事業化をしていくという構想があり、その布石を打つためだ。
計画地は神奈川県綾瀬市内にある。厚木基地の隣接地の準工業地域であり、同社は計画地の隣接地にある既存工場で操業を続けてきた。
 設計に当たり浜田氏がいだいた問題意識のひとつは、準工業地域における工場と住宅の断絶をどう調停するかであった。計画地周辺は工場と住宅が混在している。ただ工場も住宅も地域に対して閉じたビルディングタイプであり、この2つが共存するメリットはない。
その状況をどう変えていくか。建築において発注者は重要なファクターであり、同社はこれまで清掃活動など地域貢献的な活動をしてきている。新しい工場のプロジェクトに地域に還元できるプログラムを入れることで、企業にとっても住民にとってもメリットのある建築物にすることができ、さらに企業イメージを上げることもできるはずだ。
問題意識のもうひとつは持続可能性だ。持続可能なものにするためには単体のプログラムではなく、並走させる複数のプログラムの接点の自由度を高くしていくことがポイントになる。そしてそこでの活動と運営を重要視しなければならない。たとえば子供のための電子工作の場を提供、運営すれば、次世代の教育の施設にもなり得る。

施設の目的、コンセプトを反映した構造としての木造軸組、部品としての家具・建具で、能動性、可変性、汎用性、開放感を追求。

 構造形式は木造を選び、正方形のグリッドを用いている。集成材の軸組みと建具を基本とし、可動の建具や雨戸でモードチェンジすることができるようにする。汎用性や展開可能性を持ったシステムにすることで、同じ設計コンセプトで異なる規模やプログラムにも適応できるようにするためだ。
 ただ、グリッド上部は 立体トラスを組み、幕天井を張っている。張り方によって光の入り方や天井高を制御する。基本は均質な正方形グリッドだが、断面方向は均質なグリッドにしないのだ。空間に多様性を生み出し、居心地の良さをつくるためだ。固有性も見えてくるような場所をつくることを狙っている。

町工場を地域でシェアし、様々な人が集まってくる。それがもっと広がればメイカーズ・ムーブメントという新しい文化と町工場の知識と技術が結びついていく。そのようなまちは、きっとおもしろくなる。

設計: 浜田晶則建築設計事務所
構造設計: 小西泰孝建築構造設計
用途: 工場・事務所
所在地: 神奈川県綾瀬市
主体構造: 木造
主要仕上:
外部
・屋根:ガルバリウム鋼板
・壁:溶融亜鉛メッキ鋼板
内部
・天井:膜天井(一部あらわし)
・壁:アクリワーロン・膜
・床:ALC板
敷地面積: 272.52㎡
建築面積: 155.52㎡
延床面積: 322.50㎡
工事予定期間: 2016年1月~7月
浜田 晶則

浜田 晶則(はまだ あきのり)
1984年富山県生まれ。東京大学大学院修士課程修了。
浜田晶則建築設計事務所代表。
teamLab Architects共同代表。



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