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光と人間
公開日 2026.07.21

「サーカディアンリズムとは?体内時計と光が睡眠・体調に与える影響」

「サーカディアンリズムとは?体内時計と光が睡眠・体調に与える影響」

はじめに

月曜日の朝は、体が重い。
土日にゆっくり寝たはずなのに、むしろ週末より調子が悪い気さえする。そんな経験をしたことがある人は、多いのではないでしょうか。

これは「気の持ちよう」でも、「年齢のせい」でもありません。
では、何が原因なのか。
私たちの体には、約24時間のリズムが刻まれています。このリズムが乱れると、心身にさまざまな不調が現れます。月曜の重さも、おそらくはここに理由があります。

このリズムは「サーカディアンリズム(概日リズム)」と呼ばれています。この記事では、それがどのような仕組みで動いているのか、そして現代の生活の中でなぜ乱れやすいのかを、脳科学の知見をもとに整理します。

体の中に、時計がある

サーカディアン(circadian)という言葉は、ラテン語の「約(circa)」と「日(dies)」に由来します。字義どおり、「およそ1日」のリズムです。

眠る・起きる・体温が上下する・ホルモンが分泌される。こうした生理的な変化は、意識的にコントロールしているわけではなく、体の中に組み込まれた「時計」によって自動的に調節されています。

その時計の中枢が、脳の視床下部にある視交叉上核(SCN)と呼ばれる小さな神経細胞の集まりです。左右合わせても約2万個の細胞からなるこの領域が、全身のリズムを統率する「親時計」として機能しています(Reppert & Weaver, 2002)。

さらに近年の研究では、心臓・肝臓・腸・皮膚など、脳以外の臓器や組織にも、それぞれ独自のリズムを刻む「末梢時計」が存在することがわかってきました(Hastings et al., 2003)。脳のSCNが指揮者だとすれば、末梢時計は各パートの演奏者のようなもの。体全体のリズムは、この階層的なシステムによって保たれているのです。

時計を合わせているのは、光だった

ここで一つの疑問が浮かびます。

体内時計の周期は「約24時間」であって、ぴったり24時間ではありません。放っておくと、少しずつズレが出てきます。では、何が毎日リセットしているのでしょうか。

目の網膜には、物を見るための細胞とは別に、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGCs)と呼ばれる特殊な細胞があります。この細胞は光の情報をSCNへ直接届ける働きを担っており、「今は朝だ」「今は夜だ」という時間の情報を脳に伝えているのです(Berson et al.,2002)。

朝に光を浴びると、ipRGCsからSCNへ信号が送られ、体内時計がリセットされます。食事のタイミングや体温、運動なども体内時計に影響しますが、光の同調力はそれらの中でも群を抜いて強いことが分かっています(Czeisler et al.,1989)。

関連記事:HN-010 光とセロトニンの力|脳を目覚めさせ集中力を高める朝の習慣

現代の暮らしは、時計を狂わせやすい

では、なぜ現代人はこのリズムを乱しやすいのでしょうか。

理由の一つは、日中に自然光を浴びる機会が激減していることです。晴天の屋外では、照度は2万〜10万ルクスに達します。一方、一般的なオフィスや住宅の室内では200〜500ルクス程度にとどまります。パソコン、スマートフォン、オンライン会議——私たちが過ごす時間の多くが屋内に移行したことで、体内時計を合わせるための「光の信号」が慢性的に不足しています。

もう一つが、夜の人工照明です。電球の発明以来、人類は「暗くなった後も活動できる」環境を手に入れました。しかしこれは同時に、「夜なのに脳が朝だと錯覚する」状況を生み出すことでもありました。特にスマートフォンやパソコンの画面が発する青色系の光は、ipRGCsを強く刺激するため、夜遅くまでスクリーンを見ていると体内時計が後ろへとずれていきます。

そして三つ目が、平日と休日のリズムのギャップです。研究者のRoennebergらはこのギャップを「社会的時差ぼけ(Social Jetlag)」と名づけています(Roenneberg et al.,2012)。

仕事がある日は早起きし、休日は遅くまで寝る。その繰り返しは、毎週末に数時間の時差がある国へ飛ぶようなものです。体内時計は毎週揺さぶられ続け、月曜の朝に「なぜか体が重い」という状態が慢性化していきます。

リズムが整う、とはどういう状態か

サーカディアンリズムの乱れは、睡眠の問題だけにとどまりません。

体温・血圧・血糖値・免疫機能・ホルモン分泌は、いずれもサーカディアンリズムに沿って一日の中で変動しています。リズムが崩れると、これらの調節が全体的にずれ始めます。集中力が出にくい、気分が落ち着かない、疲れが取れにくい——そうした慢性的な不調の背景に、乱れた体内時計が関わっているケースは少なくありません。

逆に、リズムが整っている状態では、日中は活動モードで集中力が高まり、夜は自然な眠気とともに深い眠りへと入れる。この「昼の覚醒と夜の睡眠のメリハリ」こそが、体内時計が正常に機能しているサインです。

そのリズムを整えるための最大の手がかりが、日中の光です。

窓は、体内時計への入り口でもある

日中に必要な光を届けるうえで、暮らしの中でもっとも身近な装置が窓です。

窓の大きさや向き、そしてガラスの種類が、室内に届く光の量と質を決めます。可視光線をしっかり通しながら紫外線や熱を適切に制御できる高機能ガラスは、室内にいながら体内時計に必要な光の信号を届けやすくするという意味で、建築・住環境において無視できない役割を担っています。

窓を通して届く昼の光が豊かであるほど、体内時計は正確に整えられやすくなります。それはそのまま、夜の眠りの準備が整う環境につながっていくのです。

おわりに

体の中に時計がある。
そのことを意識している人は多くありません。

けれど、「なんとなく調子が悪い」「眠れない」「昼間に眠い」といった不調の多くは、この時計のズレと切り離せないかもしれません。そして、その時計を毎日合わせるためのもっとも根本的な手がかりが、光だということが、これで見えてきたと思います。

次回は、日中の光が体内時計をどのように整えるのか、そのメカニズムをさらに詳しく見ていきます。「なぜ昼の光が夜の眠りをつくるのか」——その問いへと進みます。


【参考文献】

Berson, D. M.,Dunn, F. A.,& Takao, M. (2002). Phototransduction by retinal ganglion cells that set the circadian clock. Science, 295(5557), 1070–1073. https://doi.org/10.1126/science.1067262

Czeisler, C. A.,Kronauer, R. E.,Allan, J. S.,Duffy, J. F.,Jewett, M. E.,Brown, E. N.,& Ronda, J. M. (1989). Bright light induction of strong (type 0) resetting of the human circadian pacemaker. Science, 244(4910), 1328–1333. https://doi.org/10.1126/science.2734611

Hastings, M. H.,Reddy, A. B.,& Maywood, E. S. (2003). A clockwork web: Circadian timing in brain and periphery, in health and disease. Nature Reviews Neuroscience, 4(8), 649–661. https://doi.org/10.1038/nrn1177

Reppert, S. M.,& Weaver, D. R. (2002). Coordination of circadian timing in mammals. Nature, 418(6901), 935–941. https://doi.org/10.1038/nature00965

Roenneberg, T.,Allebrandt, K. V.,Merrow, M.,& Vetter, C. (2012). Social jetlag and obesity. Current Biology, 22(10), 939–943. https://doi.org/10.1016/j.cub.2012.03.038

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。

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