日中の光が睡眠を整える理由|体内時計とメラトニンのしくみ
はじめに
寝つきが悪いとき、その原因はたいてい夜にあると思ってしまいます。
寝室を暗くする、寝る前にスマホを手放す、湯船につかる。
気をつけるのは、いつも夜のことばかりです。
でも、眠れない夜のもとをたどっていくと、ずっと手前の、昼の過ごし方に行きあたることがあります。
なかでも効いてくるのが、自然光です。昼のあいだにどれだけ光を浴びたかで、その夜の寝つきや眠りの深さは変わってきます。前回のサーカディアンリズムの話と合わせて、そのあたりを見ていきます。
メラトニンは、夜が来たことを体に知らせる

睡眠と体内時計をつなぐうえで、まず押さえておきたいのが「メラトニン」です。
メラトニンは、脳の松果体から分泌されるホルモンです。日中はほとんど分泌されず、夕方から夜にかけて増え、深夜にピークを迎え、明け方に向けて少しずつ減っていきます。この緩やかな波が、体に「そろそろ眠る時間だ」と知らせています。

ただし、メラトニンは時計の針のように、毎日勝手に同じ時刻に出てくるわけではありません。その分泌は、光の影響を強く受けています。
目に光が入ると、その信号は網膜から視交叉上核(SCN)、そして松果体へと伝わり、メラトニンの分泌は抑えられます。反対に、夕方から夜にかけて光が弱まり、暗さが増してくると、その抑制がゆるみ、メラトニンが分泌されやすくなります(Lewy et al., 1980)。
つまり、夜にメラトニンが自然に立ち上がるためには、夜の暗さだけでなく、日中に「今は昼だ」と体が感じられていることも大切です。昼間に浴びる光が少ないと、体内時計の基準点があいまいになり、夜のメラトニン分泌が遅れたり、不安定になったりする可能性があります。


ここで、もう一つ関係してくる物質があります。セロトニンです。
メラトニンは、何もないところから突然つくられるわけではありません。夜、松果体ではセロトニンを材料にしてメラトニンが合成されます(Arendt & Aulinas, 2022)。
セロトニンというと、気分の安定や覚醒に関わる物質として知られています。日中に光を浴びることは、脳に「活動する時間だ」と知らせ、覚醒や気分の安定に関わるセロトニン系の働きを支える手がかりにもなります。
そして夕方以降、光が弱まり、暗さが増してくると、メラトニン分泌を抑えていた信号がゆるみます。その中で、松果体ではセロトニンを材料にメラトニンがつくられ、眠りに向かうリズムが立ち上がっていきます。
この切り替えは、思っている以上に光に敏感です。真っ暗でなければメラトニンが出ない、というわけではありませんが、室内の照明程度の明るさでもメラトニン分泌は抑えられ始め、暗さが増すほど分泌は強まりやすくなることが示されています(McIntyre et al., 1989)。
昼の光と夜の暗さは、別々の話ではありません。
昼の光が体内時計に「今は昼だ」と知らせる。夜の暗さが、メラトニンに「もう休む時間だ」と知らせる。その流れの中で、セロトニンからメラトニンへの切り替えも進んでいく。
夜の眠りは、夜になってから突然始まるのではありません。その準備は昼に光を浴びた時点から始まっているのです。

「明るい部屋」でも、体内時計には光が足りないことがある
では、どれくらいの光が必要なのでしょうか。
光の強さを表す単位は「ルクス(lux)」です。晴天の屋外では2万〜10万ルクスに達しますが、一般的なオフィスや住宅の室内では200〜500ルクス程度にとどまります。体内時計に有効な同調効果が得られるためには、少なくとも1000ルクス以上が必要とする報告があります(Boivin et al.,1996)。
日常の室内照明だけでは、その水準に届かないことが多い。多くの現代人は、十分な光の信号を受け取れないまま一日を過ごしているのです。
タイミングも重要です。朝から日中にかけて光を浴びると体内時計が前に進み、夜型から朝型へと位相が移動します(Czeisler et al.,1989)。逆に、夜に強い光を浴びると体内時計が後ろへとずれていきます。「なかなか眠れない」「朝が苦手」という体質の多くは、こうした光の受け取り方のパターンが関係しています。
昼の青色光は、体内時計の「合わせ針」になる
光の中でも、体内時計への作用が特に強いのが青色光(波長480nm付近)です。
関連記事:HN-004 セロトニンの合成を促す光とは?日光・ブルーライト・照度の科学的メカニズム
HN-010でご紹介したipRGCs(内因性光感受性網膜神経節細胞)は、この波長帯に最も敏感に反応します(Brainard et al.,2001)。青空の光、晴れた日の窓から差し込む光は、このipRGCsを通じてSCNへ強い時間信号を送り、体内時計を精確に合わせる働きをします。
関連記事:HN-010 光とセロトニンの力|脳を目覚めさせ集中力を高める朝の習慣

ここで一つ整理しておきたいことがあります。「青色光は体に悪い」という話を耳にすることがあるかもしれません。しかし正確には、問題になるのは夜間の青色光です。スマートフォンやパソコンから夜に浴びる青色光が、体内時計を後ろへとずらす。そのことが睡眠を妨げます。
日中の青色光はむしろ逆です。体内時計を活性化し、覚醒を促し、夜に向けてのメラトニン分泌の準備を整える。昼に積極的に取り込み、夜は避ける。そのメリハリが、体内時計の安定につながります。
窓際の人は、よく眠れている
では、日中の採光環境の違いは、実際の睡眠にどれほどの差をもたらすのでしょうか。
窓際の席で働く人と、窓のない環境で働く人の睡眠の質を比較した研究があります。その結果、窓際の群は睡眠の質が有意に高く、日中の活動量も多かったことが示されています(Boubekri et al.,2014)。差は偶然ではありません。窓から入る自然光によって体内時計がより確実に整えられた結果と考えられています。

窓の大きさや向き、そしてガラスの種類が、室内に届く光の量と質を決めます。可視光線の透過率が高いガラスほど、日中に体内時計が必要とする光の信号を届けやすくなります。断熱や遮熱という性能だけでなく、「どれだけ昼の光を通すか」という観点が、そこで暮らし・働く人の体内時計を毎日どう整えるかに直結しているのです。
窓を考えることは、夜の眠りを考えることでもあります。
おわりに
眠れない夜を変えるために、枕を変えたり、寝る前のルーティンを工夫したりすることは無駄ではありません。
ただ、その前に一度、昼間の光環境を見直してみることをおすすめします。体内時計は、昼の光によって動いています。夜の眠りの舞台は、昼間に静かに整えられているのです。
では、実際に体内時計が整った状態では、睡眠はどのように変わるのでしょうか。次回は、睡眠そのものの「構造」に踏み込みます。よく眠るとは、どういうことなのかを、脳科学の視点から見ていきます。
【参考文献】
Boivin, D. B.,Duffy, J. F.,Kronauer, R. E.,& Czeisler, C. A. (1996). Dose-response relationships for resetting of human circadian clock by light. Nature, 379(6565), 540–542. https://doi.org/10.1038/379540a0
Boubekri, M.,Cheung, I. N.,Reid, K. J.,Wang, C. H.,& Zee, P. C. (2014). Impact of windows and daylight exposure on overall health and sleep quality of office workers: A case-control pilot study. Journal of Clinical Sleep Medicine, 10(6), 603–611. https://doi.org/10.5664/jcsm.3780
Brainard, G. C.,Hanifin, J. P.,Greeson, J. M.,Byrne, B.,Glickman, G.,Gerner, E.,& Rollag, M. D. (2001). Action spectrum for melatonin regulation in humans: Evidence for a novel circadian photoreceptor. Journal of Neuroscience, 21(16), 6405–6412. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.21-16-06405.2001
Czeisler, C. A.,Kronauer, R. E.,Allan, J. S.,Duffy, J. F.,Jewett, M. E.,Brown, E. N.,& Ronda, J. M. (1989). Bright light induction of strong (type 0) resetting of the human circadian pacemaker. Science, 244(4910), 1328–1333. https://doi.org/10.1126/science.2734611
Lewy, A. J.,Wehr, T. A.,Goodwin, F. K.,Newsome, D. A.,& Markey, S. P. (1980). Light suppresses melatonin secretion in humans. Science, 210(4475), 1267–1269. https://doi.org/10.1126/science.7434030
Arendt, J.,& Aulinas, A. (2022). Physiology of the pineal gland and melatonin. Endotext. Physiology of the Pineal Gland and Melatonin – Endotext – NCBI Bookshelf
McIntyre, I. M.,Norman, T. R.,Burrows, G. D.,& Armstrong, S. M. (1989). Human melatonin suppression by light is intensity dependent. Journal of Pineal Research, 6(2), 149–156. https://doi.org/10.1111/j.1600-079X.1989.tb00412.x

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)
博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。