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光と人間
公開日 2026.08.24

睡眠の質とは?日中の光と体内時計が深い眠りをつくるしくみ

睡眠の質とは?日中の光と体内時計が深い眠りをつくるしくみ

はじめに

「8時間寝たのに疲れが取れない」という人がいます。
一方で、「6時間しか寝ていないのにすっきりしている」という人もいます。

この違いは、意志の強さでも体質の差でもありません。眠りの「深さ」と「タイミング」が関係しています。

ひと晩の眠りは、ずっと同じ深さで続いているわけではありません。深く沈んだり、浅く浮き上がったり。そして、深く沈んでいるときと浅いときとでは、体の中で起こっていることも違います。

よく眠るとは、必ずしも長く眠ることではないのです。では、どういうことなのでしょうか。

眠りには「構造」がある

睡眠は大きく、ノンレム睡眠とレム睡眠に分けられます。

ノンレム睡眠はさらに深さによって段階があり、最も深い段階(徐波睡眠)では脳波がゆっくりとした大きな波を描きます。このとき、成長ホルモンの分泌や体の組織修復が活発に行われます。
レム睡眠は、目が急速に動くことで知られる段階で、記憶の整理や感情の処理に関わっていると考えられています。

一晩の眠りの中で、このノンレムとレムのサイクルは約90分周期で4〜5回繰り返されます。深い眠り(徐波睡眠)は前半の2〜3サイクルに集中しており、後半になるにつれてレム睡眠の割合が増えていきます。

「眠りはじめの数時間が大切」と言われるのは、この構造を反映しています。深い眠りが前半に集中しているからです。つまり、眠り始めのタイミングがずれると、深い睡眠を得られるチャンスそのものが後ろへ押しやられてしまいます。

体内時計が眠りの「深さ」を決める

では、体内時計の状態は睡眠の構造にどう影響するのでしょうか。

睡眠研究の土台になっているのが「2プロセスモデル」という考え方です(Borbély et al.,2016)。このモデルによると、睡眠は二つのプロセスによって制御されています。

一つは「睡眠圧(恒常性プロセス)」で、これは起きている時間が長いほど眠気が蓄積されていく仕組みです。もう一つが「体内時計(概日プロセス)」で、これは1日の中で覚醒レベルを波のように変化させる仕組みです。

健全な睡眠は、この二つが適切なタイミングで重なったときに訪れます。
夜になると体内時計が覚醒レベルを下げ、同時に蓄積した睡眠圧が高まっている。その合流地点で、私たちは自然で深い眠りに落ちることができるのです(Dijk & Czeisler, 1995)。

ところが、体内時計がずれていると、眠気のタイミングと睡眠圧のピークがかみ合わなくなります。たとえ時間をかけて眠っても、深い徐波睡眠の比率が下がり、翌朝の回復感が得られにくくなります。「眠った気がしない」という感覚は、睡眠時間ではなく、睡眠構造の乱れを反映しているのかもしれません。

眠りが浅いと、翌日に何が起きるか

睡眠の質が低下したとき、私たちが感じる変化は「眠い」だけではありません。

注意力と集中力への影響は特に顕著です。睡眠の量が同じでも、質が低い場合には認知パフォーマンスが下がることが分かっています(Harrison & Horne, 2000)。新しい情報を処理する速度や、複数のことを同時に判断する能力が落ちやすくなるのです。

感情の調節にも影響が出ます。睡眠の質が下がると、些細なことで苛立ちやすくなったり、ネガティブな出来事に過剰反応しやすくなったりします。レム睡眠中に行われる感情の整理が十分に機能しないためと考えられています(van der Helm et al., 2011)。

集中できない、気持ちが揺れやすい、体が重い。そうした状態では意欲が湧きにくく、体を動かす機会も減ります。すると夜の睡眠圧の蓄積が不十分になり、また眠りが浅くなる。この悪循環が、慢性的な不調へとつながっていきます。

昼の光が、夜の眠りの深さを変える

日中の光は、夜の眠りの深さにまで影響します。それを脳波の記録で確かめた研究があります。

Wamsらは、日中に浴びた光の量と、その夜の眠りを脳波で測って比べました。すると、昼に強い光を早い時間に浴びた人ほど、夜にいちばん深い眠り(徐波睡眠)が多くなっていました(Wams et al.,2017)。「よく眠れた気がする」という主観ではなく、脳波というはっきりした指標で、昼の光と深い眠りのつながりが示されたのです。

この研究にはもう一つ、おもしろい点があります。著者らは、光が体内時計だけでなく、睡眠圧そのものにも働いている可能性を指摘しています。つまり、前にお話しした2プロセスモデルの両方に、日中の光が同時に効いているということです。

では、その二つがそろうと、眠りはどう変わるのでしょうか。

体内時計が整うと、覚醒のレベルを調節する「概日プロセス」がちょうどよいタイミングで働きます。夜が近づくと覚醒レベルが自然に下がっていく。そこに、日中ためこんだ睡眠圧が重なります。この二つがうまく合わさったとき、私たちはすっと深い眠りに入れます。

つまり、日中にしっかり光を浴びておくと、夜に自然と眠くなり、しかも眠りそのものも深くなりやすいのです。

光を迎え入れる空間が、眠りを育てる

よく眠るための環境づくりを考えるとき、寝室の暗さや静けさと同じくらい、日中を過ごす空間の採光が重要です。

自然光を十分に取り込める窓、可視光線の透過率が高いガラス、デスクや椅子の配置——こうした要素が、昼間の体内時計への光の刺激量を決めます。住宅でもオフィスでも、「日中に光を迎え入れる」という設計の視点が、そこで暮らし・働く人の睡眠の質に静かに寄与しています(Boubekri et al.,2014)。

夜の睡眠は、夜だけで完結していません。朝に起き、昼に光を浴び、夜に暗くなる。そのサイクルを体が感じられる環境こそが、深くて豊かな眠りの土台になります。

おわりに

この3回にわたるサーカディアンリズムについての記事から見えてきたのは、一つの連鎖です。

関連記事:HN-012 「サーカディアンリズムとは?体内時計と光が睡眠・体調に与える影響
関連記事:HN-013 日中の光が睡眠を整える理由|体内時計とメラトニンのしくみ

日中に自然光を浴びる。体内時計が整う。同時に、セロトニンも蓄積されていく。夜になると、体内時計からの信号でそのセロトニンがメラトニンへと変換され、眠りに向かう流れが立ち上がる。睡眠の構造が豊かになる。翌日の心身が回復する。

そして、その光の入り口となるのが、私たちの暮らしの中にある窓です。

窓を通して届く昼の光は、私たちが意識する以上に、夜の回復を下支えしています。
光を迎え入れる空間は、眠りを育てる空間でもあるのです。


【参考文献】

Borbély, A. A.,Daan, S.,Wirz-Justice, A.,& Deboer, T. (2016). The two-process model of sleep regulation: A reappraisal. Journal of Sleep Research, 25(2), 131–143. https://doi.org/10.1111/jsr.12371

Boubekri, M.,Cheung, I. N.,Reid, K. J.,Wang, C. H.,& Zee, P. C. (2014). Impact of windows and daylight exposure on overall health and sleep quality of office workers: A case-control pilot study. Journal of Clinical Sleep Medicine, 10(6), 603–611. https://doi.org/10.5664/jcsm.3780

Dijk, D. J.,& Czeisler, C. A. (1995). Contribution of the circadian pacemaker and the sleep homeostat to sleep propensity, sleep structure, electroencephalographic slow waves, and sleep spindle activity in humans. Journal of Neuroscience, 15(5), 3526–3538. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.15-05-03526.1995

Harrison, Y.,& Horne, J. A. (2000). The impact of sleep deprivation on decision making: A review. Journal of Experimental Psychology: Applied, 6(3), 236–249. https://doi.org/10.1037/1076-898X.6.3.236

van der Helm, E., Yao, J., Dutt, S., Rao, V., Saletin, J. M., & Walker, M. P. (2011). REM sleep depotentiates amygdala activity to previous emotional experiences. Current Biology, 21(23), 2029–2032.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2011.10.052

Wams, E. J.,Woelders, T.,Marring, I.,van Rosmalen, L.,Beersma, D. G. M.,Gordijn, M. C. M.,& Hut, R. A. (2017). Linking light exposure and subsequent sleep: A field polysomnography study in humans. Sleep, 40(12), zsx165. https://doi.org/10.1093/sleep/zsx165

著者:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

博士(医学)、オフィスワンダリングマインド代表
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、大学院へ進学、コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。

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