J.CITY TOWER|ジェイシティータワー

  • 前田建設工業株式会社
    建築事業本部 設備設計部 設備第3グループ グループ長
    今林 憲一氏

    株式会社エフビーエス・ミヤマ
    ビル管理部 運営グループ 第3運営チーム長 兼 工事技術グループ 専任部長
    小林 信久氏

ZEB化を目指した改修に「アトッチ®」採用

省エネ改修によって「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」化を目指す例が登場した。東京・光が丘に立地する築25年を迎えるオフィスビル、J. CITY TOWERである。改修設計を担当した前田建設工業では、窓ガラスの高断熱化や照明のLED化を前提に既存空調機器の能力を約3割削減し、ZEB Ready化を図る。窓ガラスの高断熱化に用いたのは、現場施工型後付けLow-Eガラス「アトッチ」。室内側から施工できるため足場が不要で、高層ビルの改修には最適な工法という。

ZEB化の第一歩は、窓ガラスの高断熱化と照明のLED化である。狙いは、熱負荷の低減。建物の熱負荷を小さくできれば、空調機器の小型化を図れる。改修設計を担当した前田建設工業建築事業本部設備設計部の今林憲一氏は経緯をこう話す。

高断熱化に「アトッチ」採用 室内側から迅速な施工が可能

「築20年以上たって、地下にある蓄熱槽が劣化するなど大規模な改修が必要でした。どうせ改修するなら、設備機器を同じ能力のものに置き換えるのではなく、熱負荷を減らし省エネにつなげようと考えました」目指したのは、基準一次エネルギー消費量を50 % 以上削減する「ZEBReady」だ。国土交通省の補助事業「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」にも採択された。ランニングコストの節減はもちろん、空調機器の小型化で工事費の節減も見込め、補助金も受けられる。ビルオーナーの合意も得やすい。ZEB化への第一歩である窓ガラスの高断熱化には、現場施工型後付けLow-Eガラス「アトッチ」の採用を決めた。

決め手の一つは、施工性の良さにあるという。「高層ビルでは、外部側からガラスを交換するのは現実的ではありません。室内側から施工できる点が魅力です。室内側からは二重窓にする手もありますが、時間が掛かる。運営しながらの改修には迅速性も不可欠です」(今林氏)もう一つ、今林氏は景観面の理由も挙げる。「北方向を中心に3方向に開けた窓はガラス面が比較的広々しているうえ、周囲には高い建物がないため、景観が良い。『アトッチ』は眺望を損ねないため、そうした窓に用いるのにも適していました」。前田建設工業では過去のエネルギーデータを基に、「アトッチ」の採用や照明のLED化を前提として建物の熱負荷を計算。その結果、空調機器に必要な能力を約3割落とすことができたという。

フロア単位の一時移転なしに 悩みの結露や温度ムラなくす

運営しながらの改修のため、「アトッチ」の取り付け工事を進めていくうえでは各フロアに入居する企業との間で調整が欠かせなかった。

例えば搬入経路の確保だ。土日に工事を行うにしても、部材を窓の近くまで運び入れなければならない。

「工事を始める1年以上前に事前に各フロアを調査し、施工の障害になるものを移動してもらうよう依頼しました。さらに1カ月前にはAGC硝子建材と再調査し、最終確認を行いました」そう説明するのは、改修施工を元請けとして担当したエフビーエス・ミヤマビル管理部の小林信久氏だ。

部材搬入の障害になる備品の移動・復旧に当たれない企業の入居フロアは、その作業を有償で代行し、「アトッチ」の取り付け工事を工程通りに進めているという。「アトッチ」の取り付け工事は2018年4月現在、22フロアのうち13フロアが終わった。「改修工事の終了は19年2月の見通しですが、取り付け工事は11月に終わる予定です」(小林氏)。取り付け工事を終えたフロアでは、その効果は想像以上という。「改修前は悩みの種だった結露や窓付近での温度ムラをなくすことができました。エネルギー消費量も減っていると聞いています」と今林氏。別のフロアに一時移転してもらうことなく工事を進められている点も評価する。

前田建設工業ではこの改修工事の経験を、今後の事業展開に生かす考えだ。今林氏は「同時期に完成し改修時期を迎えている高層ビルにZEB化を提案していきたい。足場のいらない『アトッチ』は最適な工法として利用できるはずです」と、今後の展開に意欲を見せる。

アトッチ取り付け前後のガラス温度の比較

アトッチ取り付け前後のガラス温度の比較

(日経アーキテクチュア 2018年7月12日号 掲載)

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