ガラスが変わると暮らしがかわります。
ガラスに求められている機能や性能に関する知識をご提供します。
ガラスとは?
光の選択透過という言葉は難しげですが「フィルター」のイメージを思い浮かべてください。例えばカメラレンズに装着する紫外線(UV)カットフィルターや、ブルーライトカット眼鏡などもあります。
このように光を始めとする電磁波(*)を様々な加工を用いて透過・反射・カット(吸収)し、新たな機能を与えるのがガラスの選択透過(または非透過)技術です。(*電磁波については本コラムNo.16を参照してください)
ガラスにこの「選択透過」機能を与えるには主に「吸収」または「反射」という二つの方法があります。熱線吸収板ガラスや前述のUVカットフィルターは不要波長部分をガラス内で「吸収」することによって機能を与えられています。
ここではもう一つの方法「反射」によって選択透過を行う代表例である「ダイクロイックミラー」を紹介します。
光源としてのハロゲンランプは徐々にLEDに置き換えられていますが、演色性に優れるため光学機器や商業施設のスポットライトに必要とされるものです。
しかし赤外線域の波長を多く含みランプの表面温度が数百度にもなるため熱の放射が無視できず、生鮮食品や高級衣料などの照明としては不向きでした。
そこで開発されたのが、照射方向に熱放射の少ない反射鏡(ダイクロイックリフレクター)を採用した、いわゆるクールハロゲンです(写真1)。
(写真1) |
ハロゲンランプ |
左はダイクロイックリフレクター付きのもの |
(図1) |
ダイクロイックリフレクター付きハロゲンランプによる赤外線除去のイメージ |
このダイクロイックリフレクターは、可視光線部分を反射し赤外線域を透過させ後方に逃がすという選択透過を行うものです(図1)。
これにより赤外線域の前方放射は20%以下に軽減しますが、赤外線を効率的に後方へ透過させるためにリフレクターは透明である必要があり、耐熱性の点から石英ガラスや硼珪酸ガラスが使われます。
光(電磁波)の反射による選択透過技術はガラス表面に高屈折率と低屈折率の非常に薄い膜を多層に構成し、必要な波長を反射または透過するもので、対象とする波長域や反射と透過の割合など自由に設計できます。
光学機器では光の色を可視光の3原色(Rレッド/ Gグリーン/ Bブルー)とし、液晶モニターなどもR/G/Bの混合割合で色を表現しています。白光色はこの3原色の混合、いわゆる加色混合によって作られます。
そこで、例えばRだけを透過するように設計されたダイクロイックミラーに白色光を当てると、GとBがその二つの混合色C(シアン)として反射されます(図2)。
(図2) |
ダイクロイックによる光の分光イメージ(左)と、R/G/B加色混合(右) |
反射と透過に分割された光が全く違う美しい色のため、この現象を用いたインスタレーションをAGCは2016年のミラノサローネに出展して注目されました(写真2)(動画1)。
(写真2) |
ミラノサローネ2016 |
AGCのインスタレーション | |
写真:©三嶋義秀 |
(動画1) |
参考:設営から公開までの記録映像 |
ダイクロイックミラー自体の表面には美しい虹色が出現しますが、これは膜厚が光の波長ほどに薄いため、見る角度によって波長と膜厚が影響しあうからです。
参考までに簡単な光の実験(動画2)をご覧ください。
動画©木下 純
(動画2) |
ダイクロイック加工ガラスの反射と透過 |
この多層膜は「真空蒸着」や「スパッタリング」と呼ばれる技術によって作られます。
この技術の詳細は省きますが、どちらも真空中で基材(ここではガラス)にターゲットと呼ばれる金属やその酸化物を分子レベルまで細分化して付着させるもので、金属の種類や膜厚によって必要な機能を与えられます。
一方、ガラスの反射を消すのもこの技術です。反射防止コーティング(Anti Reflective Coating=略称ARコート)は第二次世界大戦時、潜望鏡などのレンズやプリズムの高性能化に伴い発達したといわれています。高度な真空状態が作れるようになったこともあり、薄膜構成の技術は進歩してきました。
現在のカメラは何枚も組み合わされたレンズを使いますが、ここでも反射防止は不可欠です。レンズの界面の反射をできるだけ抑えることで透過度が向上し、フレアやゴーストが発生しにくく明るいレンズになります。
ARの技術は簡単に言えばガラス表面で起こる反射を波長の干渉によりキャンセルするものです(図3)。
(図3) |
ARコートによる反射光キャンセルイメージ |
板ガラスには8%前後の反射があることを本コラムNo.28で述べましたが、建材として最も高性能なARガラスは反射率を1.5%以下まで軽減しています。
光の波長の単位はnm(ナノメートル)で1nmは100万分の1ミリメートル。可視光域の波長は380nm~780nmですが、この極微の世界で光を操作する多層膜コーティングはまさに驚異の光選択透過技術といえるのではないでしょうか。