導入事例

ガラスが変わると暮らしがかわります。
ガラスに求められている機能や性能に関する知識をご提供します。

生活とガラス

30. 鏡は不思議
~鏡に関するいくつかの話-1~

身の回りのどこにもある鏡ですが、話題豊富な素材です。
そもそも鏡はなぜガラスなのでしょうか。

鏡の中の左と右

毎日鏡の中に見ている自分の顔ですが、他人から見る自分の顔とは決定的な違いがあります。そう、左右が反転しているのです。
鏡の中では自分の右手が左手に、左手が右手になっています(図1)。これを「鏡映反転」と言いますが、3~4割の人が鏡の中の自分の顔や身体の左右が反転していることに気づいていないそうで、文字が映った時に初めて反転に気づくのです。

鏡の中の左と右

(図1)

鏡映反転

鏡の反射像は左右が逆転しています

反転文字は読みにくいのですが、顔や身体は反転していても違和感を感じません。スマートフォンで自撮り(画像を見ながらの撮影)すると鏡と同じように鏡映反転が起こります。
このため反転映像が本来の自分の顔と誰もが意識しているのかもしれません。
他人が見る自分の本当の顔を鏡で見るには、鏡を2枚使って(合わせ鏡)顔が映るようにします。角度が難しく真正面からは見られませんが、2度反射させることで左右が元に戻り正しい映像になります。
実はこの鏡映反転の謎の解明は古代ギリシャ時代から哲学者や物理学者が挑戦してきたものなのです。当時は板ガラスの鏡はまだありませんでしたが、鏡のある現在でもこの謎は明快に説明されていないようです。
西暦79年に火山灰に埋もれたポンペイの遺跡から、自分の姿を水面に映してうっとりするナルシスを描いたフレスコ画が出土します。
ナルシスは鏡映反転に気づいていたでしょうか・・(写真1)。

鏡の中の左と右

(写真1)

ポンペイの遺跡から出土したナルシスを描いたフレスコ画

鏡に映った自分の顔は1割以上暗い

5ミリ厚の板ガラスの光の透過率は89.5%と本コラムNo.28で述べました。
鏡は裏面に反射膜があるいわゆる裏面鏡なので、反射して出てくる光はガラスの中を往復しなければならず、5ミリガラスの鏡の場合は倍の10ミリを透過することになります。
JISでは鏡の反射率は83%以上と決められていて、板ガラスの透過率が100%でないことから、鏡もその影響を受けることが避けられません(図2)。

鏡の反射像のロス

(図2)

鏡の反射像のロス

5ミリ厚の板ガラスの中を2回通る光のイメージ。JISでは鏡の反射率は83%以上と決められています。

充分に明るい場所ならばこのロス(光の減衰)は問題になりませんが、ガラス特有の色(薄緑色)は純白色や赤色系に影響を与えるので、化粧品やファッション系など反射像に正確な色が求められる店舗などの場合には、高透過・高透明ガラスを素板にした鏡も販売されています。
住宅でも化粧をする場所などの照明は色再現性の良い光源を使い、強い影を作らないよう、できるだけ明るくするのがよいのです。

鏡の反射面は裏か表か

一般的な鏡はガラス裏面に「銀」を付着させて反射面を作っています。付着と書きましたが電気を使わない化学的なメッキということができます。実際には硝酸銀を基剤とする溶液をガラス裏面に吹き付けて複雑な化学反応を経てガラス面に純銀を強力かつ均一に付着させます。
反射率の高い金属は金、銀、アルミニウムなどですが、反射色の自然さや加工条件などから銀が使われます。
銀の反射率は約93%(垂直入射時)で、可視光域の波長全体に良好な反射をします。
しかし裏面鏡ではガラス表面で起きる4%の表面反射のため像が2重になり、精密な光学機器には相応しくありません。
また前項で述べたように裏面鏡はガラス厚や色が反射効率に影響します。そこでガラスの厚さの影響や像のダブりのない「表面鏡」もあります(図3)。

裏面鏡(一般的な鏡)と表面鏡

(図3)

裏面鏡(一般的な鏡)と表面鏡

裏面鏡では4%の表面反射が避けられませんが、表面鏡は裏面鏡の光学的な弱点をクリアできます

これは板ガラスの裏面ではなく表面に反射面を作るものですが、表面に反射面を作るのならば基材は板ガラスでなくても良いのでは?という疑問が湧きます。しかし正確な反射映像を得るためには基材の表裏面には、ほぼ完全な平面・平滑性が必要とされ、この点で板ガラスは薄いものであっても鏡に最も適した材料なのです。
表面鏡の反射面の材料には主にアルミニウムが使われます。本コラムNo.29で紹介した真空蒸着などの技術により反射率99%という超高反射ミラーもあるそうですが、日常生活の中で使うには反射面の耐久性や製作可能寸法・コスト等の問題から、利用は光学機器類の用途に限られています。

鏡の敵「シケ」とは

銀(Ag)はそのままでは不安定で酸化しやすい金属なので、鏡の裏面は厳重に防湿処理がされています。
一般的には銀の上に銅(Cu)の層を作り、さらにその上に樹脂系の無鉛塗料を焼き付け塗装しています(図4)。

鏡の断面構成イメージ

(図4)

鏡の断面構成イメージ

鏡裏面の加工は塗料層を入れても合計で数十ミクロン程度のごく薄い層です
銅のコーティングのない鏡もあります

この塗料を「裏止め塗料」と言い各メーカーによって成分や色が異なります。
銅の層は水分などが侵入した際に最初に酸化被膜を作って銀を守る役目をしますが、裏止め塗料に傷がついたり、エッジの防湿処理の不具合や長期間高温多湿環境に置かれた鏡などの場合、銀面まで腐食(酸化)が進み黒く見える場合があります。これを鏡の「シケ」と呼んでいます(写真2)。

鏡のシケ

(写真2)

鏡のシケ

シケはエッジ付近から始まることが多い。この写真は数十年使われている鏡です

シケは水分や塩素、温泉環境に多い硫黄系のガスなどで促進されます。
壁装材としてショップやビルの内装壁面に使われる鏡は、ガラス施工会社が必要寸法に切断して使うのが一般的です。この場合切断や穴あけを行ったままだと切断面は銀や銅が露出した状態になり、そこがシケの原因になります。切断のような加工を伴う施工はエッジの防湿処理(エッジコート)が必須の加工になります。
住宅設備として販売されている鏡は販売時点でエッジは防湿処理をされているので安心ですが、さらに強力な防湿・裏止め処理をエッジと裏面に行い、過酷な使用環境下での耐久性を増した商品もあります。

このコラムに関連する商品