導入事例

ガラスが変わると暮らしがかわります。
ガラスに求められている機能や性能に関する知識をご提供します。

ガラスとは?

25. ガラスの組成と風化

経年変化

ガラスは腐食や変質など経年変化のほとんどない材料で、木材のような腐朽もありません。しかし組成からくるわずかな風化があります。

組成がつくる安定性

ガラスに経年変化がほとんどないのは、ガラスが非金属の無機材料(組成に金属や炭素分子を含まない)であることによります。このことは、金属に発生する錆(空気中の酸素などとの結合)や、電食(異種金属が接する時に起きる腐食)などとも無縁で、樹脂商品に見られるような紫外線を原因とする炭素結合の破壊による劣化もありません。
ポンペイの遺跡から発掘されたものを始め、古代ローマ時代に作られた多くのガラス器(写真1)が現存することからも、ガラスの自然環境内での強靭性がわかります。
このようにガラスは非常に安定した物質ではあるものの、ある条件下ではわずかですが風化が起こります。

ローマ時代のガラス器

ローマ時代のガラス器

(写真1)

ローマ時代のガラス器

ケルン(ドイツ)のローマ・ゲルマン博物館展示の出土品
写真:©木下純

板ガラスの主成分

ガラスは用途によって多くの種類がありますが、主な原料は珪砂(けいしゃ)と呼ぶ、二酸化ケイ素(SiO2=シリカ)を主成分とする砂です。
SiO2は地球の表層を形作る岩石や砂の主な成分でもあり、熱膨張係数が比較的小さく、化学的にも非常に安定した物質です。
建材としての透明板ガラス(フロート板ガラス)はこのシリカが69%~74%の割合で構成されています。そして原料を高温で溶かす際の溶融性を向上させるためにソーダ灰(Na2O)を、また耐水性を向上させる(水に溶けにくくする)ために石灰(CaO)などが加えられています。(図1)

(図1)建築用透明板ガラスの成分

(図1)建築用透明板ガラスの成分

ガラスの風化に影響を与えるもの-水-

ところでガラスが水に溶けると思う人はいないのではないでしょうか。
しかし極めて微量ですがガラスは水に溶けます。
ガラスが水に接した場合、ガラスが溶けるというよりソーダ灰などの可溶性成分がアルカリイオン(Na+など)として水中に溶出してきます。この結果ガラス表面に色々な化学変化が起こります。(図2)

ひとつは、侵食によってガラスの表面にアルカリイオンが欠乏した不均一な層ができ、その屈折率の違いで表面が虹色に見えるプリズム効果(光の干渉縞)が発生することです。これをガラスの「青ヤケ」と呼びますが、光の波長程度のきわめてわずかな層の変化です。
もうひとつは表面のアルカリイオンを含む水が乾燥に伴って濃縮され、空気中の炭酸ガス(CO2)などの作用で炭酸化物などが生成され表面の輝きが失われてきます。このような状態で乾湿が繰り返されるとやがて白く曇った状態になり、これをガラスの「白ヤケ」と呼びます。青ヤケが白ヤケを伴うこともあります。

図2ガラスの「ヤケ」のメカニズム

(図2)

ガラスの「ヤケ」のメカニズム(イメージ)

ヤケに関する記述と図2はAGCの資料を基に構成しています。

図2ガラスの「ヤケ」のメカニズム

(写真2)

ガラスの青ヤケ

古い住宅の窓ガラスです。きれいに使われていますが上部3分の1くらいに油が浮いているように見える青ヤケが発生しています
写真:©木下純

どちらも風化の一種といえるもので、このような風化現象は一般的な窓ガラスの場合は美観を損なうとはいえ、実用上のガラス強度に影響することはありません。
しかし雨水のたまりやすい部分、庭の水やりのためのスプリンクラー飛散水がかかる場所、高温多湿の浴室内、結露の起きやすい部位など、継続的に濡れ状態と乾燥状態が繰り返される場所は変化が促進されるため注意が必要です。
これらのヤケはクリーニングでは取ることは難しく、除去するには表面の研磨しかないため、鏡や窓では交換するほうが手っ取り早いといえるでしょう。
水はガラスのクリーニングには必要なものですが、一方でガラスの風化の原因を作るものともいえるのです。

ガラスとアルカリは相性が悪い?

ガラスは一般的に酸性の液体には比較的強いのですが、アルカリ性の液体には前述した溶出が多くなるので、強アルカリ溶液はガラス容器に保存できないとされています。
さてそこで私たちの普段の生活を見ると、洗剤の中にはアルカリ性のものもあります。
人工的に作られた中性洗剤(界面活性剤)より肌や環境に優しいといわれる石鹸も弱アルカリ性ですし、重曹の水溶液もアルカリ性です。ガラスにとってこれらは敵であるとまでは言いませんが、アルカリ溶液が付着する状態で乾湿を繰り返すと水より影響は大きいので、できれば避けたいことです。
この変化はいわば表面性状の変形なので、そこに空気中や雨水に含まれる汚れが蓄積しやすい状態になるともいえるでしょう。
ガラスのクリーニングについてNo.26で詳しく述べます。

ガラスを溶かすもの

経年変化とは別ですがガラスを短時間のうちに溶かす物質について触れておきます。
ガラスエッチングの後処理として、サンドブラストで荒らした肌を滑らかにする用途に使われるフッ化水素(HF)水溶液は、ガラス表面加工としては一般的で、電球や化粧品ボトルの艶消し仕上げにも使われるように、ガラスの基本成分である二酸化ケイ素(SiO2=シリカ)を腐食する働きがあります。そして人体には非常に毒性が強い物質です。
HFは2019年に韓国への輸出規制で話題になりました。高純度のものは金属の洗浄、半導体の製造プロセス、液晶ディスプレイガラスの精密加工などに使われるそうですが、もちろんガラス容器では保存できず、ポリエチレンやテフロンの容器に保存します。

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