導入事例

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ガラスとは?

24. 板ガラスの強度と強化ガラス

強度

ガラスは割れる・・この割れ方が他の建築材料との大きな違いです。破壊の原理と、安全ガラスとしての強化ガラスを考えます。

圧縮に強く、引張りに弱い

板ガラスは圧縮される力には非常に強く、引張られる力には非常に弱い、これがガラスの強度を考える上での基本です。
ガラスが棚板のように使われる場合で考えてみましょう(図1)。
中央部分に上から荷重をかけていくと、重さに従って板ガラスは下方にたわんできます。荷重がなくなれば元に戻りますが、荷重が増加するとある時点で破壊してしまいます。
これが金属板の場合だと、たわみが元に戻らなくなって変形してもなかなか破壊は起きません。
つまり、ガラスは弾性限界(たわみが元に戻れなくなる点)を超えるとすぐに破壊が起きる材料で、これがガラスは脆い、といわれる所以です。
図1のようにガラスがたわんだ場合、ガラス上面には圧縮の力が、下面には引張りの力が働いています。そして引張りに弱い下面から破壊が始まります。

【画像】(図1)

(図1)

荷重を受ける板ガラスの表面に働く力

ガラスが内包する微細な「傷」

ガラスには強度上の特徴がもうひとつあります。例えば図1のような装置でガラスの破壊実験をすると、破壊時の力(荷重)が一定ではなくばらつきがあるという現象です。
引張り力に脆弱で、破壊に対する強度が一定ではないということの原因はガラスの傷にあると考えられています。
傷が破壊の原因になることは、このコラムのほかの項(熱割れや錆、不純物の作用など№.22、23)でも触れましたが.そもそもフロート板ガラスの表面は、両面とも火づくり(溶けたガラス生地がそのまま固まる)のため、研磨を行わなくてもきわめて平滑で傷や凹凸のない材料です。しかし目に見える傷以外にミクロの視点では、ガラスを形作る分子レベルスケールの、光学顕微鏡でも見えない極めて微細な傷があることが推察され、これに気づいたイギリスの破壊力学の研究者アラン・A・グリフィスの名から「グリフィス・クラック」と呼ばれます。この傷のためにガラスの実際の強度は理論値の数百分の1にとどまるとも言われています。
製造後に表面に付いた微細な引っかき傷も含め、ミクロからマクロまで様々に散在する傷があるため、そこに引張り応力が作用したとき強度にばらつきが生じると考えられています。

ガラスが破壊する確率と設計強度

破壊力に対する強度が一定でないことから、ガラスには他の材料にはない特有の強度の考え方があります。破壊確率というものです。建材として使われる板ガラスの場合、ガラスは風圧など様々な外力を受けますが、その強度の「設計値(許容値)」には1/1000の破壊確率となる荷重(応力)が採用されています。
1/1000の破壊確率というのは、設計値としての荷重負荷のもとで1000枚の中の1枚が割れる可能性があるという統計上の確率です。強度の設計値はこうして多くの試験体で負荷(荷重)の継続時間も含め破壊実験を繰り返した結果を基本として算出されています。

強化ガラスはなぜ強いのか

前述のように、ガラスの表面に引張り力が働かないようにすることがガラスを破壊に至らしめない方法ですが、一般的に建材として使われる環境では応力を制御することは難しい。そこで、ガラス表面にあらかじめ圧縮力を蓄えておこう、というのが強化ガラスの原理・考え方です。
強化ガラスはフロート板ガラスを軟化点近くの約650℃まで熱した後、両面に常温の空気を均一に吹き付け急冷して製造します。これにより表面付近が内部より先に固化し、ここに圧縮応力層が形成されます。
この圧縮応力層は両表面から板厚の1/6程度とされていて、これより内部には表面の圧縮応力に釣り合う引張り応力層が形成されます(図2)。
この圧縮応力層は衝撃や風圧でガラスがたわんだ際の引張り力に対する文字通り「貯蓄」で、これによりガラスの強度は3~5倍向上します。

【画像】(図2)

(図2)

強化ガラスの応力分布イメージ図

強化ガラスの割れ方

強度が増すことは好ましいことですが、どのような場合でも強化すればよいとはいえません。強化ガラスといえども破壊力が限界を超えれば割れるため、使われる環境から人体に対する安全性を第一に考えます。
強化ガラスの破壊の特徴は、部分的な欠損やひび割れというものがなく、先に述べた応力のバランスが崩れた時(具体的には圧縮応力層を超える傷が発生した場合が多い)その一枚のガラス全体が細かい粒状に砕けます。(写真1)
強化ガラスの割れ方はJISで決められていて、簡単に言えばガラス一枚の中の任意の5㎝角相当部分が40個以上の破片になることが必要とされます(5ミリ厚以上の場合)。つまり人体にとって危険な、大きな破片にならないことが求められているわけです。
一個の破片の質量が小さいことと、厚み方向にも比較的鋭利ではない破片(図3)ゆえに、「ガラスを用いた開口部の安全設計指針」で「割れても安全なガラス」として出入口のドアやドア周辺のガラスに推奨されています(本コラムNO.18参照)。

【画像】(図3)

(図3)

非強化ガラスと強化ガラスの割れ方の違い(板厚方向)のイメージ

【画像】(写真1)

(写真1)

強化ガラスの破壊形状

強化ガラスを合わせガラスにしたものの破壊写真です。
全体の破壊形状がわかります。放射状の割れの中心が打撃点です。

強化ガラスの興味深い性状

強化処理された板ガラスはたわみも少ない(剛性が増す)と思われがちですが、同荷重の場合のたわみ量は強化前のガラスと同じです。一方、平坦さが若干ですが影響を受けます。これは視覚的な反射像などに現れ、建築の外装など大きな面積に景色が映る場合にゆがみとして気づくことがあります。
また偏光サングラスで強化ガラスを見ると、光の反射具合や角度、背面の色などの条件によってモアレのようなまだら模様が見えることがあります。強化処理による内部応力の存在が見えてくるのです。(偏光サングラスによる見え方は簡易的な確認であり、専門的には2枚の偏光板を使います)
また強化という文字から表面が硬くなる印象を受けますが、表面硬度は非強化ガラスに比べむしろやや低下します。このためフロート板ガラスと同様な扱いでも傷がつく場合があり、クリーニング時などに注意を要します。

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