ガラスが変わると暮らしがかわります。
ガラスに求められている機能や性能に関する知識をご提供します。
生活とガラス
まず「麟状痕」という現象についてお話ししましょう。本コラムNo.25「ガラスの組成と風化」でガラスが水濡れと乾燥を繰り返すと白ヤケが発生することがある、と述べました。
白ヤケは表面の化学変化の結果としての風化ですが、同じように白く見える「麟状痕」は水道水に含まれるカルキと呼ばれるアルカリ性のミネラル分の蓄積です。これはナトリウムを始めカルシウム、カリウム、マグネシウムなどで、加湿器内部や水道栓周りにも現れます。麟状痕は白いうろこ状に見えるまだら模様の汚れで、電車の窓や浴室の鏡などにも見ることがあります(写真1)。
(写真1) |
植物園の板ガラスサインボード |
スプリンクラーの散水により時間をかけて見事な麟状痕が発生したと思われます。 写真:©木下純 |
雨水か水道水かの違いはありますが、白ヤケも麟状痕も水分の残留場所が毎回ある程度定まって乾湿を繰り返すと見えてくる、水を原因とする汚れなので、両方が同じ場所に発生することもあります。
固形化したカルキ成分はガラスへの固着力が強く、拭いただけでは取れません。酸性のクエン酸などで除去できる場合もありますが、板ガラスには麟状痕を発生させないことが大事で、このために定期的、継続的なクリーニングとその後の速やかな乾燥が必要です。
窓ガラスの汚れは、①屋外側の汚れ、②室内側の汚れ、に分けて考えます。ガラスの汚れの除去は神経質になるとキリがないのが悩ましいものですが、室内外に共通することは、それぞれに適したクリーニングを行った後、速やかに乾燥を保つことに尽きます。
屋外側の汚れの多くは細かい砂埃ですが、車の排ガスの微粒子や季節によっては花粉も付着します。風雨で運ばれたものは水滴が蒸発した後にガラスの表面に残ります(写真2)。
(写真2) |
強い風雨の翌日にガラス外側表面に付着した砂粒 |
写真:©木下純 |
砂埃は地球の地殻の主な成分である二酸化ケイ素(SiO2)が大半で、つまりガラスの主成分と同じものです。従って特に化学的に害のある汚れではありませんが、様々な汚れは年月が経つと取れにくくなります(写真3)。
(写真3) |
廃屋の窓ガラス |
長い年月により白ヤケが摺りガラス状になってしまった上に、スチールサッシの錆も蓄積。 写真:©木下純 |
屋外面のクリーニングの際に注意すべきことはガラス表面への傷つきです。屋外側は必ず水で表面の付着物を流した後、スクイージー(水切りワイパー)(写真4)などを使います。
清掃のプロによるガラスカーテンウォールの清掃作業を見ていると、水または薄めた洗剤をガラス面にスプレーした後、スクイージーでS字を描くように上から下に移動します。これは大きなガラス面をできるだけ少ない水で効率的に清掃するためですが、住宅の窓のように上辺に手が届く大きさでは上から下に縦に移動するのがよいでしょう(図1)。
拭き跡が残った場合は、乾いた布で仕上げ拭きをします。
(写真4) |
板ガラス清掃用のスクイージー |
大きいほうはプロ仕様のもの。 |
(図1) |
スクイージーの使い方 |
内側の汚れで気になるのは油脂分とそれに付着する埃です。レンジフード近くの窓ガラスは言うまでもなく、手で触れた部分には皮脂分が残ります。喫煙のタール分、ペットによる汚れなど内側の汚れの除去は界面活性剤成分を含むガラス専用クリーナーとクロスを使うのが一般的ですが、クリーナー量が多すぎたりクロスが汚れていると拭きムラが残ります。
頑固で部分的な油汚れにはアルコール(消毒用エタノール)も有効です。しかし溶けた油脂分は拡散されてアルコールが蒸発した後ガラス面に残る場合があるためふき取りが必要で、部分的な使用に限られるでしょう。ウエットティッシュのようなものも保湿剤など美容成分が残留することがあります。
ガラスの内外ともに、丸めた新聞紙を使うクリーニング方法が良いと言われます。実際やってみると効果的な方法ですが、なぜ新聞紙が良いのか明快に説明したものはないようです。私見ですが新聞インキに溶剤として含まれる大豆油(環境対応型)が、ガラス汚れの油脂分に作用し、目の粗い繊維の新聞紙がほどよくそれを拭き取ってくれるためと思われます。新聞紙を使うのは比較的手軽ですが、特に屋外側はまず砂埃を払い、少し水に濡らした新聞紙を使うのが良いようです。
前述した「麟状痕」や「白ヤケ」は通常のクリーニングでは落とすことができません。残された手段はガラス表面の研磨です。
研磨に使われるものは酸化セリウム(CeO2)という研磨剤です、酸化セリウムは透明網入り板ガラスのような、表面研磨商品の磨き工程に使われています。(フロート板ガラスは火づくりのままの表面のため研磨工程はありません。)
酸化セリウムによる研磨を部分的に行うと歪みやムラが残る場合があり、プロに任せる作業と考えた方が良いと思います。研磨補修ではなくガラス自体の交換を検討することも必要でしょう。