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生活とガラス

32.「低膨張」は耐熱ガラスのキーワード

耐熱

このコラムのテーマは主に建築用ガラスですが、そのほかの身近なガラスも含めその耐熱性に着目してみます。

ガラスの組成

窓ガラスなどの建築用透明ガラスは二酸化ケイ素(SiO2)、ソーダ灰(Na2O)、石灰(CaO)が主な成分です。このガラスは「ソーダライムガラス」とも呼ばれ、建築用板ガラス以外にガラス容器(ガラス瓶)などに最も広く使われているガラスです。
そして建築用のガラスは“二次的な加工”によって、例えば強化ガラスなど多くの機能を付加した商品が生まれます。
一方、ガラスは組成や成分を変えることでさらに多くの用途に適したものが開発されてきました。耐熱性もそのひとつです。
このコラムNo.27で述べたように、ガラスは液体のような非結晶の物質であることから、成分の種類や含有量を変えることが比較的容易な材料と言われています。

ガラスの耐熱性能とは

熱衝撃(一般的には瞬間的に受ける高温)によるガラス破壊は、ガラスコップに熱湯を注ぐ場合のように、それまで温度が均衡していたところの一部に熱による膨張という引張力が生じるからです(図1)。

ガラスの耐熱性能とは

(図1)

ガラスコップに熱湯を注ぐと・・

言い換えるとガラスは塑性変形に追随できない材料で、熱い部分と冷たい部分の膨張の違いで発生する引張り応力が許容限界を超えたとき、破壊を引き起こすことになります。
そこで熱による膨張が少なければ、熱に強いガラス=耐熱ガラスとして利用範囲が広がります。
各材料には固有の膨張率があります。膨張率を簡単に言えば、温度を1℃上げた場合に、線的にどのくらい伸びるか、を数値で表したものです。
いくつかの材料の膨張率を比較すると、ガラス系とセラミック系材料は金属系より膨張率が低い(温度が上がっても膨張しにくい)ことがわかります(表1)。

材料 膨張率(×10-6/°C)
石英ガラス 0.55
ケイ素 2.6
硼珪酸ガラス 3.25
炭化ケイ素(ファインセラミックス) 4.4
ソーダライムガラス 9.0
11.7
14.5
ステンレス 17.0
アルミニウム 23.0
ポリカーボネート樹脂 80.0

(表1)

代表的な材料の膨張率

数値が小さいほど膨張が少ない。

次に耐熱性能を持つ代表的なガラスを紹介します。

[石英ガラス]

純度の高い二酸化ケイ素(SiO2)から成るガラスが石英ガラスです。透明材料の中で最も膨張率が低いばかりでなく、不透明な低膨張物質、例えば炭素繊維などに次ぐ低い膨張率です。
ソーダライムガラスと比較すると膨張率は約1/16で、いわゆる「低膨張ガラス」といえるものです。
耐熱温度は約1000℃。 このためハロゲンランプやハロゲンヒーターなど、点灯した瞬間に高温になり、しかも高温が持続する器具のガラスバルブとして使われます。
低膨張性は、温度変化に対する形状の安定性も持つため理化学実験器具や精密な光学部品に使われる他、非常に高い透明度から通信用の光ファイバーにも用いられます。またソーダライムガラスに比べ紫外線、赤外線域の透過に優れるため、紫外線を活用する機器のレンズやカバーガラスに、また赤外線を放出する暖房器具の熱源カバー材にも使われます。

[硼珪酸(ホウケイサン)ガラス]

19世紀後半にドイツのSCHOTT社でDURANの名で開発された、酸化硼素(B2O3)を含むガラスで、パイレックス(アメリカ)、デュラレックス(フランス)、ハリオ(日本)などの商標の耐熱食器としてご存知の方も多いはず
(写真1)。

ミラーガラスとハーフミラー

(写真1)

硼珪酸ガラスのコップに熱湯を注ぐ

写真:©木下純

各家庭にはコーヒーポットやメジャーカップを始めいくつかの硼珪酸ガラスによる耐熱器具があると思います。
硼珪酸ガラスの膨張率はソーダライムガラスの約 1/3で、加工性に優れ耐薬品性が高いことから理化学用のガラス器具や容器 (フラスコやビーカーの類)はほとんどこのガラスによるといっても良く、比較的安価なため広範囲な用途があります。
家庭用品の耐熱品質表示としては、温度差 400℃までの「耐熱ガラス製器具」と、400℃以上の「超耐熱ガラス製器具」があり、超耐熱ガラス製器具には直火に対応できるものもあります(写真2)。

ミラーガラスとハーフミラー

(写真2)

湯沸かしもできる超耐熱ガラス製器具

写真:©木下純

新しいガラス分野、超低膨張の結晶化ガラス

1958年に米国コーニング社が特許を発表したパイロセラムは、本来非結晶物質であるガラスを、特殊成分と複雑な工程の熱処理によって結晶化させ、膨張率0.6(×10-6/℃)という石英ガラスに匹敵する耐熱・耐火性を持つ、全く新しいガラス分野を作りました。これは不透明なガラスですが、その後直火にかけられる白色のガラス鍋(キャセロールなど)として家庭でも馴染みの調理器具になりました。
現在結晶化ガラスはさらに進化し、ナノメートル(10億分の1メートル)単位の結晶をもつ透明な超低膨張ガラスも誕生しています。
結晶化ガラスの低膨張の原理は、熱が加わると微細な結晶部分が収縮する方向に働き、ガラスが本来持つ膨張する性質と打ち消し合って膨張率をほとんどゼロにするのです。

低膨張ガラスの建材への応用

建材用途としての耐熱ガラスには、透明である前提で、特に大面積が可能で衝撃強度も高い、という難しい要求があります。
AGCの防・耐火建材ガラスには、硼珪酸ガラスをフロート製法で板状に成型したものに熱処理を加え、低膨張性のうえに一般透明ガラスの2倍の耐衝撃強度を持つ、特定防火設備(60分の耐火性能)として認定された「ピラン」というガラスがあります。
透明で耐熱性を持つ材料へのニーズは大きく、耐熱ガラスはニューセラミックス、ニューガラスのひとつとして各分野で研究開発が続けられています。

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