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【商店建築】市原湖畔美術館 有設計室  川口 有子・鄭 仁愉

環境との調和と華やぎの演出、両立させるマテリアル

カラーガラスの魅力は、何と言ってもその鮮やかな発色性です。塗装やクロスとは違って、ガラスという媒体を通してその色味を感じられるため、素材そのものが発光しているような透明感と深みのある色彩を空間に取り入れることができます。
今年8月、千葉県市原市にリニューアルオープンした「市原湖畔美術館」のエントランス部分にカラーガラスを採用したのも、その独特な発色性に大きな魅力を感じたからです。
リニューアルした美術館は、新設した亜鉛メッキの鉄板と、既存建物の仕上げ材を剥がしたままのコンクリートの荒々しい質感が大きな特徴となっています。また、屋上やパティオ、ランドスケープまでをも展示スペースとして設けたこの美術館では、豊かな周辺環境と館内を連続的に感じられるよう、内外ともに亜鉛メッキ鉄板とコンクリートを基調としたモノトーンで構成されています。そうした中、動線の要となるエントランスに、唯一鮮やかな色味を持つボックスを設え、それを来場者のためのアイキャッチとしました。
私たちがこのエントランスボックスに求めたのは、無機質な印象になりがちな空間の中で「華やぎ」を創出することです。そこで、壁面にカラーガラスを採用するとともに什器にもカラーガラスを用い、その透明感あふれる色味と周辺環境を映し込む反射性がもたらす深みによって、あたかもボックス全体が光を放っているような空間を実現しようと考えました。
さまざまなカラーバリエーションが揃っているカラーガラスですが、その色味を決める上で参考にしたのは、カラーガラスのパイオニアであるAGCがヨーロッパで展開しているラインナップでした。そこには、これまで日本で目にしてきたカラーガラスのイメージを覆すような新鮮な色がピックアップされています。そのラインナップからベースカラーとして「赤」を選び、日本発売が決定されているものは既製色で、それ以外のものは特注色で発注しました。オレンジからダークレッドまでのグラデーションをカラーガラスを用いて表現することで、施設全体を引き締めるアイキャッチとしての華やぎ空間を設えることにしたのです。
また、荒々しい素材感の建築を補うように、このエントランスボックスをはじめとするパブリックスペースには、色鮮やかな家具や備品を配しています。動線の要となるエントランスボックスの壁面に鮮やかな色味を持つカラーガラスを用いたことで、それら家具備品と建築とを仲介するメディアとして大きな役割を果たすことになったと考えています。

【使用ガラス】

ラコベル』 クラシックレッド

川口有子(かわぐち・なおこ)

Profile

1974年生まれ。山本理顕設計工場を経て、2005年に有設計室を設立。

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